日時:平成23年11月3日(木)文化の日 午前9時~午後2時 場所:大多喜町中央公民館駐車場 *本年は中央公民館ホール工事中の為文化祭との同時開催ができません。産業フェアのみの開催となりますが多くの方々のおこしをお待ちしております。 出品予定:いのしし弁当、大鍋、しいたけ、たまご、菓子、パン類、陶器、三育フーズ、い鉄グッズ、苗木配布、種子の配布、小泉和弘ライブ、ケバブ(トルコ料理)、バザー他
日時:平成23年11月3日(木)文化の日 午前9時~午後2時 場所:大多喜町中央公民館駐車場 *本年は中央公民館ホール工事中の為文化祭との同時開催ができません。産業フェアのみの開催となりますが多くの方々のおこしをお待ちしております。 出品予定:いのしし弁当、大鍋、しいたけ、たまご、菓子、パン類、陶器、三育フーズ、い鉄グッズ、苗木配布、種子の配布、小泉和弘ライブ、ケバブ(トルコ料理)、バザー他
市川市在住・久我原さんの妄想の入った小説です
第2部 忠朝と伊三 33
「忠朝と伊三」これまでのお話
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番外編 小松姫の嫁入り(前) 小松姫の嫁入り(後)
「うおぉぉぉ。」
「だあぁぁぁ。」
朝日に輝く粟又の渓谷で長田正成と平沢嘉平が木刀を打ち合わせている。
片足を引きずりながら、平沢は長田に押しまくられていた。足が不自由な平沢に対して長田は容赦をしなかった。平沢は長田の打ち込みを払いのけるのに精一杯である。
「でえい!」
ふらつく平沢に長田は渾身の一撃を与えた。
「ぐっ。」
その打ち込みを木刀で受け止めたが、足元がふらつく平沢は尻もちをついた。
「だあああ。」
ふりあげられた長田の木刀が平沢の頭上でぴたりと止まった。その切っ先を平沢は睨み据え、長田も平沢の顔を睨みつけ、時が止まったように二人はピクリとも動かない。長田のあごから、ぽたり、ぽたりと汗が落ちている。
静かだ。ざああと滝の音が聞こえるだけであった。
どれだけの時がたったか、厳しい表情の長田の表情が和らぎ、尻もちをついた平沢に手を差し伸べ、その手を取り、平沢がゆっくりと立ち上がった。
「嘉平、だいぶ力が戻ってきたようだな。」
「何を言う。まだまだだ。稽古を始めてから、まだ一度もお前に打ち込むことができん。」
「いやいや。ひと月前に比べれば、格段と腕をあげた。俺の打ち込みを受ける木刀に気合が感じられるようになった。」
この春先に粟又にいる平沢が訪ねて以来、度々長田はこの旧友を訪ねている。平沢が忠朝へ奉公するように説得することがその訪問の目的であった。
中根忠古に粟又に住み暮らす平沢の事を報告したとき、中根は興味を示した様子も無かったので、長田も少々がっかりしたが、その翌日、中根は長田の長屋を訪ね、平沢を大多喜に連れて来るようにと命じた。
「それでは、殿様は平沢をお召し抱えになるおつもりで。」
長田が訊ねると、
「さてな。とにかく一度そやつを大多喜に連れてまいれ。」
と言って長屋から去って行った。
平沢は長田の再訪を喜んだ。表情は無愛想だがよくしゃべる。
(こいつはこんなにおしゃべりな奴では無かったはず。)
もともと平沢は無口なほうで、万喜落城後、大けがを負い粟又で老夫婦の世話を受けていたが、老夫婦が亡くなってから二十年近く一人で炭焼きをしてきたことを寂しいとも辛いとも思ったことは無かった。近在に住む者も少なく、三か月も人に会わないことも珍しくは無かった。人づきあいがあまりうまくなかった平沢は万喜城の戦いで傷を負ってから、ますます人を避けるようになった。
まあ、人の少ない山奥では無理に他人と顔を合わせる必要もないので、平沢には返って住みよかったのかもしれない。
それでも山の住民は平沢には好ましい感情を抱いていた。世話をしてくれた老夫婦から炭焼きを教えてもらい、二人が亡くなった後も炭焼きの仕事を続け、できた炭は数少ない知り合いに分け与えてきた。顔に大きなやけどの痕がある平沢をはじめは気味悪がっていた山の住民も、その風貌に似合わない礼儀正しさと、ひたむきに炭を焼き、その貴重な炭を配り歩くので、
「あんな不自由な体で、なかなかできることではない。」
と徐々に評判がよくなり、
「なんでも、昔は偉いお侍さんだったそうだ。戦の時に本多様と一騎打ちをして、足をやられ、火の中に取り残された仲間を助けようとして、大やけどを負ったそうだ。」
と言ううわさまでたつようになった。それを聞いた平沢は、
(足を撃たれ、気絶していてやけどを負っただけなのになあ。)
と、どこからそんな話になってしまったのか、おかしくて仕方がなかった。
炭のお礼にと近在の人々が野菜や魚、時には猪の肉などを持ってきてくれるので、平沢はこの山奥でも生活には困らなかった。
言葉少なく、静かに暮らす平沢が長田を相手に思い出話や山の暮らしをぺらぺらと話す姿を見たら、近在の人々は「まるで別人のようだ。」と目を見張ることだろう。
朝の稽古を済ませ、二人は平沢が住む小屋に戻った。朝めしを食べながら、平沢はぽつりとつぶやいた。
「こんなことではいかん。」
その言葉を聞いた長田は、さっきの稽古のことを言っているのか、山の暮らしのことを言っているのか判断がつかなかった。
「どういう意味だ?山の暮らしが嫌なのか?それなら大多喜に来たらどうだ。」
「暮らしのことではない。稽古の事だ。」
ふっと長田は微笑み、
「そう悲観することもない。長年剣を持たなかったのだ。この短期間であれだけの力が戻ってきたことは大したものだ。やはり、若いころの修行がまだ生きている。年を取れば力は衰えるが、一度体にしみ込んだ技はそう簡単には消えないものだ。お前を見ているとそう思う。」
と、平沢をなぐさめた。
二十数年前、まだ二人が土岐家に仕えていたころ、長田と平沢は剣術の好敵手であった。当時、万喜城では剣術が盛んであった。実際の戦場では個人の技よりも集団の戦闘が力を発揮するため、集団の戦闘訓練が繰り返されることは当然ながら、土岐家では特に個人の剣の技を磨くことにも力を入れていた。
今は将軍徳川秀忠の剣術師範となっている小野派一刀流の開祖、小野忠明もそのころは土岐家に仕えていた。武者修行の旅をしていた伊東一刀斉が万喜を訪れたのもそのころだった。小野忠明はじめ、長田や平沢の様に腕に自信のある下士達まで一刀斉から剣術の指南を受けた。一刀斉が万喜から旅立つ時、小野忠明は弟子となり一刀斉と共に旅に出てしまったが、長田と平沢は万喜に残り、その教えを守りながら、稽古に励んだ。その後、本多忠勝の城攻めに遭い、現在に至るのはすでに語った通りだ。
一刀斉と忠明には比べ物にはならないが、当時の長田と平沢は下士の仲間うちではその実力は群を抜き、二人が木刀を持って立ち会えば互角であった。いや、実のところは三対二の割合でわずかに平沢の方が優位であったが、稽古で勝ち越されて悔しがる長田に、
「本当にどちらが強いかは、真剣で戦ってみなけりゃわかるめえ。」
と、言って平沢は長田の力を決して侮ってはいなかった。切磋琢磨し、互いに「あいつにだけは負けたくはない。」と思っていたが、その仲は親密であった。
しかし、平沢は万喜での敗戦以来、剣を握ることは無く、満身創痍、気持ちがなえ、山奥で静かに暮らしてきた一方、敗戦後本多家に仕えた長田は身分は低いながら新しい町づくりという充実した仕事をしながら、朝の稽古を欠かさなかった。無口な平沢と陽気な長田は、その性格のままの両極の環境に置かれ、剣術の力に差が開いてしまったのは仕方ないと言えよう。
「なぐさめはいらん。せめて、五本に一本でもお前に勝つ力が無くては、話にもならん。こんなことではだめなんだ。」
平沢は粥の入った椀を床に置き、長田に背を向けて頭を抱えた。
「平沢、どうした?何が、だめなんだ。長い事、稽古をしてこないのに、これだけが感が戻ってきたのは大したもんだ。ゆっくりとやっていこうではないか。なあ。」
平沢は頭を抱えたまま返事をしない。長田は嫌な予感がした。
(誰かと果たしあいでもするつもりか。まさか、、、)
平沢が長田に稽古をつけてくれと言いだした時は、昔を懐かしんでのことと思っていたが、なにか考えがあるらしい。長田は平沢の考えがわかったような気がしたが、その本心を平沢の口から聞くことを恐れた。
「おい、炭焼きは夏になっても続けるのか?」
重い空気を吹き払うように長田は突然と話題を変えた。
「くそ暑いのに、良くやるのう。そんなに炭焼きが楽しいか。」
「楽しいとか、楽しくないとかではねえ。俺はじじばばの恩に報いるために炭を焼いているんだ。」
背をむけたまま平沢が答えると、長田はうっすら笑った。
「今日もやるんだろう。ちょっと俺にも手伝わせろ。」
「何言うんだ。本多のお侍さんにそんなことさせられるか。」
平沢が振り向いて長田の笑顔に気付くと、にやりと微笑みを返し、
「そうだ。炭焼きは楽しいさ。俺の楽しみを横取りしようったって、そうはいかねえ。」
と言った。
「なあ、いいじゃねえか。ちょっとだけやらせろ。」
「いやだ。」
「頼むよ。」
平沢は体ごと長田の方を向くと腕を組み目をつぶった。
「うううん、、、、、、やっぱり駄目だ。」
「そんなこと言わずに、なあ、ほんの少し手伝うだけだ。」
「しょうがねえな。稽古をつけてくれた礼だ。でも、少しだけだぞ。」
「そいつはうれしい。ありがとな。」
長田は平沢の肩をぽんと軽く叩いた。
炭焼き小屋に行き、長田は炭のもとになる木を斧で割った。さすがに火の加減や窯の中の木の組方は手を出さなかったが、この旧友とこんな仕事をするのが、長田には本当に楽しく感じられてきた。
どれだけの時間が経ったのか、すっかり日は天の中央にかかっている。
「平沢、あまり考え込まずに、ゆっくりとやろうや。お前が大多喜に来てくれるまで、何度でも来る。」
「ああ、何度でも来い。でも、俺はいかねえぞ。」
「そうか、そうか。」
長田は平沢は自分が訪ねてくることを楽しみにして、大多喜行きを断り続けているのだろうと感じたが、(まあ、それもよかろう。)と思った。
「今日はもう帰る。次に来たときはお前を引きずってでも大多喜に連れて行くからな。」
平沢は答えない。
「それではな。」
と、長田が背を向けると、
「もう一晩泊って行かんか。」
と、平沢が長田の背に声をかけた。
「頼みたいことがある。」
「なんだ?」
「それは、今晩話す。」
長田はもう一晩粟又にとどまることにした。
その夜、平沢は驚くべき決意を長田に告げた。いや、それは長田がうすうすと気づいていたことではあったが、、
続く
*画像はtassさんよりお借りしています。