本多忠勝・忠朝応援チーム2011年初登場です。
本年もよろしくお願いします。
NHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国」の第5話より本多忠勝公が登場するようで、皆様ワクワク、ドキドキですね 大河ドラマをもっと楽しくご覧いただける話題を!!
三重県の とし様が、『無明堂』というサイトで本多忠勝公を主人公に「合戦師」、本多忠朝公を主人公に「戦鬼の血脈」を書いていらっしゃいます。歴史小説を書く練習作品とのことですが、まるでその場にいたかのような情景描写や心理描写には、読み手はグーッと引き込まれてしまいます。NHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国」の歴史背景や、忠勝公の見た戦国が、よりリアルに味わえると思います。皆様も是非ご訪問ください 三重県&千葉県「本多忠勝公を大河ドラマにしよう!」がスタートしました。ね?
キハ52~姫たちの大多喜城~ ?
NHK大河ドラマに負けない、美しい大多喜城の姫さま達
鍋之助さんのイラストです。 左から「於久と本多忠朝」「小松姫」「乙女と本多忠勝」
では、久我原さんの妄想の入った小説第25話、はじまり~はじまり
第2部 忠朝と伊三 25
これまでのお話 1~24 は コチラ
岩和田から国吉に戻る前に、伊三は大多喜城に立ち寄り組頭の長田をたずねた。新年の挨拶と岩和田への使いの報告のためである。岩和田の名主茂平が、新田開発に人が必要なら協力は惜しまないと言っている事を誇らしげに報告した。長田は、
(殿様は伊三を岩和田に帰らせる口実を与えただけだから、特に茂平の返事は期待していないだろう。)
と、思ったが、伊三があまりにも誇らしげに報告するので、
「わかった。よく、やったぞ。」
と、長田はまるで子供の使いを褒めるようにうなずいた。伊三は挨拶と報告だけを済ませて帰ろうとしたが、長田は、
「まあ、良いではないか。雑煮でも食っていけ。」
と、伊三を引きとめた。
「いや、とんでもねえ。サキもホリベエも一緒だから、御迷惑になる。」
「だから、もうしばらくゆっくりしていけと言っているんだ。」
「?」
「まあ、そのなんだ、サキもホリベエも去年は良く働いてくれた。ねぎらいのつもりだ。遠慮するな。」
長田は伊三が一人で来ていたら、ひきとめはしなかったが、サキとホリベエが一緒に来ている事を知り、いっしょに正月を祝いたい気分になっていた。長田に勧められて、伊三は表で待たせているサキとホリベエを呼んできた。
「ほんじゃあ、お言葉にあまえて、、、」
伊三たちはすまなそうに長田の家に上がり込んだ。
サキは長田の前に座り、手をついて新年の挨拶をした。
「おお、サキ、去年は御苦労であったな。今年もよろしく頼むぞ。」
長田はにこやかにサキの挨拶を受けた。サキも長田に声をかけられてうれしそうである。
「あのう、奥方様は、、、」
「あいつなら畑に大根を取りに行っている。もうそろそろ帰ってくるだろうが、、、、」
サキは去年、ホリベエと共に城に来た時に長田の妻、きよと共に過ごした時の事を思い出していた。偶然、自分の母親と同じ名前の長田の妻と台所仕事をしているとき、
(ああ、おかさんが生きていればこんなかんじなのかなあ、、、)
と思った。しかし、伊三はそんなことがあったことは知らないので、長田とサキが親しげにしている事を不審に思った。
「ただいまあ。あら、お客様ですか?」
そのうちに、長田の妻きよが帰ってくると、サキは立ち上がり入口まできよを迎えに出た。
「奥方様、お帰りなさい。明けましておめでとうございます。」
「あら、サキちゃん、来てたのね。明けましておめでとう。今年もよろしくね。でも、その奥方様って言うのはやめてちょうだい。主人が真似して、『奥方、奥方』っていうもんだから、気味が悪くて。ゆっくりしてらっしゃい。私は、これから大根を漬けものにするから、終わったらゆっくりお話ししましょう。」
玄関の外には畑から引っこ抜いてきたばかりの大根が三本ほど転がっている。サムライといっても長田の様な下級藩士の家では畑仕事ぐらいするのは当たり前のことであった。
「お手伝いします。」
「いいわよ、あがって主人の相手をしてあげて。あの人、サキちゃんみたいな娘がいたらなあって、いつも言っているのよ。」
サキは頬を、赤らめながら、
「むすめなら、、、、、おかさんのお手伝いをするのは当たり前のことだ。」
と言って、大根を抱えて井戸端で洗い始めた。その様子を部屋の中で聞いていた長田が伊三の顔を見た。
「いい娘だなあ。お前にはもったいねえ。あんな娘がほしいと言っているのはきよの方だ。」
長田にそう言われて、伊三はなるほど、母親がいないサキは長田の妻になついているのかと合点がいった。長田はホリベエに向かって、
「どうだ、ホリベエ、サキと一緒にうちの養子にならないか?」
と言った。
「ヨウシ?」
「そうだ、養子だ。」
ホリベエは長田の言っている事がわからず、伊三の顔を見た。
「そ、そんなことできるわけねえべ。組頭、からかわないでください。漁師の娘と異国人がサムライの養子になるなんて、、、」
長田と伊三のそんなやり取りがあったことなど知らずに、きよとサキが楽しそうに話しながら家に入ってきた。
こうして、伊三親子は長田夫妻の親切なもてなしを受け、国吉に帰って行った。
翌日、どんよりとした冬の空の下、伊三は行元寺を訪れた。本堂に向かう伊三は、懐に妻キヨの位牌を抱えている。。
本堂からは読経の声が聞こえてくる。行元寺の住職、定賢が朝の努めをしているところである。伊三は本堂の前で立ち止まり、合掌をした。
読経の声が止むと伊三は本堂に声をかけた。
「定賢様、おはようございます。伊三でございます。」
「ああ、伊三か。帰ってきたのか。」
「はい、昨日帰ってまいりました。お陰さまで岩和田でキヨの墓参りができました。それに、、」
と、キヨの位牌を懐から取り出した。
「今度は、キヨも国吉につれてきました。」
定賢は伊三からキヨの位牌を受け取り、祭壇に安置すると、お経をあげ始めた。
定賢の読経が終わると、伊三は礼を言った。
「ありがとうございます。定賢様にお経をあげていただき、キヨは幸せ者でございます。」
「伊三、これで心おきなく、国吉で働けるな。良かったな。」
伊三は、ハッとした。今まで、定賢のことを尊敬しているはいるものの、こわい存在だとも思っていた。こんなにやさしい言葉をかけられたのは初めてだと思った。
「はい、ありがっがっが、へっくしょい!」
「なんだ、どうした。」
「あ、すみません。なんだか、昨日から体がだるくて、、、風邪でも、、、くっしょい!」
定賢はくすりと笑い。
「そうか、風邪か。それはいかん、早く帰って、寝た方がよい。」
「はい、そうします。あらためて、、、へっくしょい!」
伊三は頭を下げると、本堂に背を向けた。すると、定賢が怒鳴りつけた。
「これ!伊三。」
伊三は驚いて、振り返ると、
「キヨさんをおいてきぼりかい?」
と、キヨの位牌を祭壇から取り上げた。伊三はあわてて定賢からキヨの位牌を受け取り、頭を下げた。
ふらふらと行元寺の参道を降りてくると、伊三は笠をかぶった男に出会った。みすぼらしいなりはしているが、さむらいの様である。伊三が頭を下げると、その男はちらりと伊三を見たが、片足を引きずりながら、参道の坂を上がって行った。
(足がわるいのか?戦で怪我でもしたのかな?)
伊三は見かけない人ではあると思ったが、特に気にも止めないで家に帰って行った。伊三はそのまま、三日間寝込んでしまった。
さて、伊三と出会ったその浪人風の男は行元寺の本堂の前で立ち止まると合掌した。合掌を解き、しばらく感慨深げに本堂を見つめていたが、一礼して参道の方へもどろうとしたとき、本堂から声をかけられた。
「どなたじゃな?」
男はピクリとして立ち止まり、ゆっくりと振り返り、それが初老の僧であることをみとめると、
「もしや、定賢様ではございませんか?」
と問い、笠を外した。異相である。顔の右半分は焼けただれていた。
定賢はその顔を見ても何も動じる様子もなく、
「はい、定堅でございます。」
と、答えた。
異相のさむらいは、わなわなとふるえながら、
「私は、、、、、旧土岐家家臣、、、、平沢嘉平と申します。」
浪人風の男、、、平沢嘉平はじっと定賢を見たが、定堅は平沢の顔を見つめて、
「ほう、土岐の、、」
と言って沈黙した。
「定堅さま、、、、」
平沢の呼び掛けに、
「ま、、まあまあ、こちらに上がられよ。」
定堅は平沢を本堂へといざなった。
異相のさむらい平沢は本堂に上がると、振り絞るような声で話をしだした。
平沢は旧土岐家の足軽組頭であった。天正十八年、豊臣・徳川連合軍による北条攻めの時、北条方に味方した土岐氏は徳川軍の本多忠勝により、その本拠地、万喜城を攻められ落城した。
平沢はその時、鉄砲で右足を撃たれ戦場に倒れた。必死になって槍を杖に立ち上がったが、その後の記憶はない。気がついた時は養老渓谷の山小屋の中にいた。
「嘉平、大丈夫か?・・・・」
と言う声を聞いたが、顔にひどい痛みを感じ再び気を失ってしまった。平沢が起き上がれるようになったのは半年も過ぎての事だったと言うが、平沢自身はその間、自分が生きているのか、死んでいるのかわからなかったと言う。
誰が平沢を戦場から救い出したのはわからないが、山小屋には老夫婦がいて平沢の世話をしてくれた。その老夫婦も五年ほど前に亡くなり、それ以来、平沢は養老渓谷でひっそりと暮らしていると言う。
「定賢様。土岐が滅んで二十数年たちますが、未だに私はあの時の夢を見ます。戦場に倒れた仲間の屍の上を鬼の様な本多の軍勢が走り抜けていく姿を、、、、」
平沢は床に手を付き、肩を震わせて泣き始めた。
定賢は黙って平沢の事を見つめている。
平沢は再び話し始めた。
「機会があれば、かなわぬまでも本多に一太刀でもきりつけてやりたいと、、、、しかし、私も年をとりました。それにこの体では何もすることができません。」
「平沢殿、今でも本多様をうらんでおられるか?」
「いや、恨みと言うものはもう、とうのむかしに忘れました。忘れましたが、、、」
平沢の言葉が途切れた。
「忘れましたが、どうされた。」
定賢の問いに平沢は小さい声で答えた。
「恨みは忘れましたが、、、、悔しい、、、、」
「悔しい?」
「はい。弱いものが滅びるのは戦国の掟であることは、わかっております。我が主、土岐頼春様が御存命ならば、土岐家の再興に力を尽くしたいとも思いますが、今となってはそれもかなわなぬ夢のこと、、、ひっそりとこの身が朽ち果てるまでと思っていましたが、本多の新田開発のうわさを聞き、私の胸の奥から何ともいえぬ悔しさと怒りがわきあがってまいりました。」
「新田開発が何故、お前様の怒りを生み出したのかな?」
「はい。土岐家の旧家臣が本多に召し抱えられているということを聞きました。そやつら、何を考えて、本多のもとでめしを食っているのかと思うと、腹がったって仕方がありません。それに、、、」
平沢は定賢をぎろりとにらんだ。
「この行元寺も、もとは土岐家の祈願寺。なれど、今は本多と徳川の親交が深いと聞きます。」
定賢は瞑目した。
「この地を治めていた土岐家は次第に忘れられていく。土岐家の恩を受けた者たちが敵である本多のもとで新年開発を進めている。私は本多を憎むよりも、その昔の仲間が許せないのです。・・・・・・・・私は間違っているのでしょうか?」
定賢は瞑目したままである。二人の間に沈黙が続いた。
静かな時が流れていく。平沢は瞑目する定賢を睨み続けている。定賢はゆっくりと目をけると、静かに話し始めた。
「平沢殿。お前様の悔しさは良くわかる。体に傷を負い、山奥で暮らした歳月、さぞつらかったろう。主を失い、本多への恨み、悔しさを持つのは当然じゃ。それが人の心と言うもの。わしのことも恨んでいるのであろうな。わしも本多が民を苦しめる暴君であれば、土岐の再興を願うことであろうが、本多は先代の忠勝公、その後を継いだ忠朝公も民のことを慈しむ名君であるぞ。今回の新田開発もこの土地を豊かにしたいという思いから。土岐家の旧臣の本多への反抗が続けば民に迷惑がかかる。それを避けるために旧土岐家の人々を召し抱え暮らしが成り立つようにして、この土地の平穏を生み出そうと言うのが、今の殿さま、忠朝公のお考えじゃ。」
「そ、、、そうですか、、では定賢様は土岐ではなく、本多が治めた方がこの国は幸せだと、、」
「そういうことではない。民が望んでいるのは本多でも、土岐でもない。安心して働ける平和な世の中を作ってくれる領主さまだ。それが今では本多と言うこと。」
平沢の鋭い眼光が弱まり、「ほう」とため息をついた。
「では、私はどうすれば。」
「それは、お前様ご自身で決めること。養老渓谷に帰って静かに暮らすか、万喜で忠朝公に協力するか。それはわしが指図することではない。それとも忠朝公を闇うちでもするかな?」
「うう、、、、」
平沢は再び手を付き、唸るように泣き始めた。
「定賢様、、愚か者の私にはどうしたらよいかはわかりませんが、今日はお会いできてうれしゅうございました。実のところ、本多の新田開発がどんなものかをこの目確かめてみたく、やってまいりました。懐かしいこの地に来て、思わずこちらに伺いましたが、お目にかかれてうれしゅうございました。なれど、今は山に帰り、静かに暮らしたいと思います。」
平沢は足を引きずりながら、参道の緩やかな坂を下りて行った。その後ろ姿を見つめながら、定賢は思った。きっと、平沢は再び戻ってくるだろうと。
続く