大多喜町観光協会 サポーター

大多喜町の良いところを、ジャンルを問わず☆魅力まるごと☆ご紹介します。

ムーミン列車1周年☆おめでとうございます(いすみ鉄道)

2010年09月30日 | 頑張れ!いすみ鉄道

ーミン列車1周年おめでとうございます

いすみ鉄道は存続が決まりましたが、安心してはいられませんね

どんどん乗って、バンバン買ってください。

この動画は何度見ても楽しいよ♪

 

ムーミン列車1周年記念1日乗車券セット

10月1日発売!

1日乗車券セットは2種類。各セット2,000セットの限定発売。各2,500円です。

詳細は10月1日 いすみ鉄道WEBショップで。http://rail.shop-pro.jp/


 

どんどん行って、バンバン応募しよう!!

いすみ鉄道と笑顔フォトコンテスト 10月15日(必着)

お問い合わせ、詳細 デンタルサポート㈱

http://www.dentalsupport.co.jp/archives/2010/08/post_324.html

僕らの夢を乗せて走るいすみ鉄道

よろしく お願いします。


大多喜町の 『たけのころっけ』

2010年09月29日 | 葵の会 

大多喜町は、国体のキンボール会場です。 

詳細は こちら


10月2日(土)は、キンボール会場・海洋センター体育館,

大多喜小体育館で、

「たけのころっけ」は海洋センター前販売を致します。

 

アッツアツで おいしいですよ!!

 

地元「平沢産のたけのこ」がふんだんに入っています。

11月23日(火・祝) 二十八市 

 葵の会  http://blog.goo.ne.jp/aoi20090302


大多喜観光ボランティア (大多喜町観光本陣)

2010年09月28日 | 大多喜町の観光スポット

10名以上の団体様にボランティアによる観光案内をいたします。

いすみ鉄道大多喜駅前にある、観光本陣までお申し込みください

場所 大多喜町大多喜270-1(いすみ鉄道大多喜駅前)

電話 0470(82)2111(大多喜町役場代表番号) 内線 701、702、703、704
直通0470-80-1146 FAX 0470-82-6860

休館日 毎週月曜日(祝日等の場合は翌日)及び12月29日から1月3日

開館時間 午前9時から午後5時


第36回大多喜お城祭り 「うえるかむ大多喜」より

2010年09月27日 | 大多喜町の観光スポット

第36回 大多喜お城祭り 

あんなこと~、こんなことあったでしょう♪  

大多喜町民のおもてなしの心が、ぎゅ~っと詰まっています。

第36回大多喜お城祭りの思い出が、皆様の胸にいつまでも残りますように。

最後に、華やかなお城祭りの陰で支えてくださったデンタルサポート大多喜駅ボランティアの皆さん、ありがとうございました。 黄色いTシャツは神奈川県の方。

うえるかむ大多喜  http://otakitown-1.bbs.fc2.com/

いすみ鉄道ファン http://blog.goo.ne.jp/isumitetudo 


大多喜お城祭りにご来場ありがとうございました

2010年09月26日 | 大多喜町のイベント

大多喜お城祭りにご来場ありがとうございました。

お城祭り第1弾!写真は、いすみ鉄道ファンtassさんよりお借りしています。 http://blog.goo.ne.jp/isumitetudo いつもありがとうございます。

掲示板「うえるかむ大多喜」にて写真投稿お待ちしております\(^o^)/

http://otakitown-1.bbs.fc2.com/


通行止めのお知らせ

2010年09月26日 | 大多喜町の観光スポット

   国道465号線筒森地先

トンネル内崩落に付き全面通行止め

現在復旧の見通しは無いもようです。

 

 現場は、国道465号線老川交差点より君津方面に向かい700メートルぐらい行ったところのトンネルです。現場の標識に従い通行願います。大型車は、かなりの迂回となると思われます。

 

詳しくは大多喜幹部交番

0470-82-2024まで

お願いします。


「ゆめ半島千葉国体記念」いすみ鉄道1日フリー乗車券販売中

2010年09月25日 | 頑張れ!いすみ鉄道

 いすみ鉄道からのお知らせ http://www.isumirail.co.jp/

「ゆめ半島千葉国体記念」

いすみ鉄道1日フリー乗車券販売中

千葉国体が9月25日から10月5日まで開催されます。
いすみ鉄道沿線のいすみ市(ホッケー)と大多喜町(キンボール)も会場になっています。
これを記念して国体マスコット「チーバくん」を採用して、1日フリー乗車券を作成しました。

発売枚数 限定1,000枚
発売期間 平成22年9月15日から(国体開催期間に関係なく売り切れまで)
販売箇所 デンタルサポート大多喜駅、風そよぐ国吉駅、大原駅 及び 車内

いすみ鉄道WEBショップでも販売しています。http://rail.shop-pro.jp/

 

大多喜町はデモンストレーション競技として行われる「キンボール」の開催地となっております。10月2日(土) 詳細

 


9月23日から大多喜城ライトアップ! 本多忠勝没後400年

2010年09月25日 | 本多忠勝 本多忠朝 大多喜城

本多忠勝公没後400年

大多喜城のライトアップ

9月23日から26日 午後6時から12時まで

徳川家康時代の四天王、十六神将のひとりであり、上総大多喜藩十万石の初代藩主である、本多忠勝公は、生涯五十七度の合戦に出陣し、如何なる窮地においても決してあきらめず、ただの一度も傷を受けなかった強運の持ち主。御宿岩和田浦でドン・ロドリゴ一行を乗せたサン・フランシスコ号が座礁し、それを救助した忠勝の次男・本多忠朝公。

動画はイラストレーター福田彰宏さんの戦国画、音楽は、moka(モカ)さんの「ロボット」、大多喜城のライトアップ写真はtassさんからお借りしています。

また、大河ドラマ誘致活動、いすみ鉄道利用者増の一助になればと、館内エントランスホールでは、地元生まれ大多喜高校出身・福田彰宏さんの本多忠勝公のパネル展示を行っております。ポストカードも3種類販売してます。 是非お立ち寄りください。

 

大多喜城( 千葉県立中央博物館 大多喜城分館) 

http://www.chiba-muse.or.jp/SONAN/


どんどん応募 いすみ鉄道と笑顔フォトコンテスト

2010年09月25日 | 頑張れ!いすみ鉄道

いすみ鉄道と笑顔の写真を応募しよう!

11月8日【いい歯の日フォトコンテスト】開催のお知らせです。

テーマは いすみ鉄道と笑顔 です。


楽しい笑顔、輝く白い歯、見ているだけで幸せな気持ちになってしまうような健康的な笑顔の写真を募集しています。
いすみ鉄道で楽しく過ごしたとびっきりの笑顔の写真を応募してみてはいかがでしょうか。


携帯電話のカメラで撮影した写真もご応募いただけますよ♪

■応募期間  2010年8月1日~10月15日(必着)

お問い合わせ、詳細 デンタルサポート㈱http://www.dentalsupport.co.jp/archives/2010/08/post_324.html


山ガールさん向け養老渓谷・大福山~梅ケ瀬コース 

2010年09月25日 | 大多喜町 養老渓谷

全国でブーム かわいいファッションでアウトドアを楽しむ

山ガール初心者のみなさん!

養老渓谷・大福山~梅ケ瀬コースに挑戦してください 

画像提供: フォートラベル様

山ガールのみなさんの最終目標は富士登山とか。 

その前の練習としてはちょうどぴったりの歩き応えがあるコースです。

このコースのマップhttp://www.yorokeikoku.com/access/04map-aki.jpg

山ガールファッションをしてみたいというミッチーさんからのリクエストでした。


小説 本多 忠朝と伊三 17

2010年09月25日 | ☆おおたき観光協会大河ドラマ 本多忠朝

忠朝と伊三 17/久我原

「ううむ、なかなか思うようにはいかんな。」
 桑名城の自分の部屋の縁側で本多忠勝は晩秋の陽だまりの中で左手に持った小さな木片を見て、つぶやいた。昨年の慶長十四年に長男の忠政に家督を譲り隠居の身になり、平穏な日々の無聊を慰めるために仏像を彫り始めたのは最近のことである。この日は小さな弥勒菩薩像を作るつもりだったが、出来上がってみるとお地蔵様になってしまっている。
「地蔵菩薩は弥勒菩薩が現れるまで、我々を守ってくださっているというが、まだまだ弥勒菩薩がお姿を見せるときではないということか。」
 雲ひとつない秋の青空を見ながら、忠勝はため息をついた。
「わしも年を取ったのう。」
 この時、忠勝は六十三歳。徳川の四天王と呼ばれた忠勝も今は隠居の身だが、将軍職を譲った家康はまだまだ対豊臣の政治活動を精力的に続けている。去年は忠朝が助けたドン・ロドリゴと会見をし、イスパニアの親交を勧めようとしているという話も聞いた。そのような家康についての話を聞くと、忠勝は胸の奥に何かがうごめいているのを感じる時がある。
(わしも、まだまだ働けると思うのだがな。)

「父上、今日は何をおつくりになりましたか。」
 ぼんやりとしている忠勝に長男の忠政が声をかけた。
「おお、忠政。今日はこんなものができた。」
 忠勝はできたばかりの木像を忠政に見せた。
「ほう、お地蔵様ですか。これはまた随分をかわいらしい。」
「そう見えるか。そうか。弥勒菩薩を作るつもりだったのだが、、、まだまだ修練がたりんな。」
「いいえ、私は良い出来栄えだと思います。いつ現れるかわからない弥勒菩薩を作るより、現世の民の幸せを願ったからこそ、お地蔵様ができたのでしょう。」
「忠政。」
「はい。」
「それは、ほめておるのか?」
「はい、そのつもりですが、、、」
「わしには先の事を考えず、今のことしか考えていないから地蔵しか作れなかったと聞こえるがのう。」
 忠政は唖然とした。現役を退き、無傷の鬼の武将であった父も気が弱くなったものだと思った。
「そ、そんなことはありません。父上の心に平穏が訪れているということでしょう。」
「そうか、、、、」
 忠勝はどことなくさびしそうである。
「わしももう、長くはあるまい。できることなら戦場で死にたかったが、そうはさせてもらえそうもないな。」
「父上、、、、」
 今日の父は少しおかしいと思った忠政は話題を変えた。
「そういえば、忠朝から知らせがありました。国吉原の新田開発は順調に進み、今年は豊作だったようです。これも父上から譲り受けた土地とその民のお陰だと感謝しているそうです。」
「そうか、順調か。この一年、異人の世話をしたり、新田開発と忙しそうだな。結構なことだ。後は徳川家のために戦場で手柄を、、と言ってももう大きな戦もあるまいか。」
「いえ、まだまだ豊臣の事で不穏の動きがあるとのこと。紀州の信繁も今はおとなしくしていますが、早まったことをしなければよいと願っています。」
「小松にも思わぬ苦労をかけることになったのう。」
 忠勝の娘、小松姫は真田昌幸の長男の信之に嫁いでいる。信繁とは、真田幸村として知られている信之の弟である。関ヶ原の戦の時に、父昌幸と供に徳川方から西軍に奔り、その敗戦のため、紀州九度山に流された。当初、家康は昌幸と信繁の親子を死罪にすると言ったが、忠勝が婿の信之と供に強烈な命乞いをしたため、罪を減じて九度山への流罪となった。この時、忠勝は真田親子の命を助けなければ、家康と一戦も辞しないと啖呵を切ったのである。その迫力に負けて家康はしぶしぶと真田親子の命を助けることにした。その時の迫力も今は大分しぼんでしまっている。
「父上、まだまだお働きになることもあるでしょう。お気を強くお持ちください。」
 忠政が去ると、忠勝はもう一度、手の中の木像を見つめて、
「気にいらんな。」
とつぶやき、小刀で木像を再び刻み始めた。
「ちっ!!!」
 ごつごつとした忠勝の手の中で小さな木片を削っていた小刀がつるっと滑ったかと思うと指にすっと触れた。指に小さな傷を負い、わずかに血が流れ始めた。忠勝はこの時、生まれて初めて自分の皮膚から流れ出る血を見た。
「乙女!!おーとーめー!」
 その傷をなめると大声で叫び、もう一度傷を負った指をくわえた。
「はい、はい。殿さま、何事ですか、大きな声で。」
 忠勝の側室の乙女がやってきて、子どもの様に指をくわえている忠勝を見ると、思わず笑いが漏れてしまった。
「なんですか、子どもみたいに指をしゃぶって。」
「笑いごとではない。今、しくじって小刀で指に傷をつけてしまった。」
 忠勝は怪我をした指を乙女に見せた。
「まあ、無傷の大将がついに負傷ですか。」
 乙女がからかうと忠勝は眉毛を吊り上げた。
「冗談を言っている場合ではない。このようなことで傷を負うとは、もうわしの命も長くはあるまい。」
「殿さま、そんな大げさな。」
「大げさではない。」
 乙女は心配になった。関ヶ原の後、大きな戦も無く、家督を忠政に譲り、その人生のほとんどを修羅場で過ごしてきた忠勝にやっと平穏な日々がやってきたかと思ったら、ここのところ元気がない。そんなところに指を切って、この弱気な態度だ。
「殿さま、お手を貸して下さい。」
 忠勝が怪我をした指を乙女の前に差し出すと、乙女はぺろりとその傷口をなめた。
「な、何をする。」
「大丈夫ですよ。このくらいの傷はすぐに治ります。ちょっとしばっておきましょう。」
 たまたま持っていた手ぬぐいで忠勝の指をしばってやると、
「四天王さまともあろう者が、このぐらいの傷がなんですか。」
と乙女は言った。乙女は側室であるが、忠勝が若いころから苦労をともにしてき、誰よりも心が通い合っている。忠勝は乙女にそう言われると、なんとなく安心をした。思えば、こんな小さな傷、生まれて初めての怪我とはいえ、うろたえた自分が恥ずかしかった。

 しかし、その夜、忠勝は高熱を発して倒れてしまった。

 桑名で忠勝が倒れてから数日後、大多喜では、忠朝は中根忠古と相談をしていた。
 去年から始めた、国吉原の開墾がうまくいっているので、今度はその近くの万喜原の新田開発を始めようと言う相談だ。
「忠古、どうやら国吉の開墾もようやく先が見えはじめてきた。そろそろ、万喜原の事も始めても良いと思うが、お前はどう思う?」
「はい、人手が足りないのが少々不安ですが、国吉の成功を近在の民に知らしめ、開拓者の年貢や雑役の免除をし、種の貸し付けなどをすれば人は集まるかと。ただ、十分な準備をして、あまりあせらない方が良いとはおもいますが。」
「そうだな、来年はさらなる準備をして、再来年ごろから始めようと思っていたところだ。」
「それでよろしいかと。」
「それに、もうひとつ考えがある。」
「それは?」
「万喜といえば、父上が滅ぼした土岐氏の城があったところ。土岐氏の旧臣もいくらか本多でめしかかえ、そのほかの多くは帰農して本多家に反抗するということは今のところはないが、まだまだ恨みを持っているものいると聞く。そこでだ、万喜原の仕事にはできるだけ土岐の旧臣を登用したいと思っている。仕事を与え、生活が成り立つようにすれば、本多に対する恨みも時間と供になくなると思うのだが。」
「それは、良いお考えです。安房の里見も今はおとなしくしていますが、万が一事を構えるようなことになれば、領内の結束は大切なものとなりましょう。」

 忠朝の父、忠勝が大多喜を支配する前、房総は長く群雄割拠の時代が続いた。都からも遠く、袋小路になっている半島は、大勢力に飲みこまれることはなく、安房の里見氏とその家臣の正木氏、万喜の土岐氏、下総の千葉氏、真理谷の武田氏などが覇権を争い、長い間戦い続けてきたが、ついに房総を統一する勢力が現れる前に北条が豊臣・徳川に敗れ、徳川家が房総半島に侵入してきたのである。
 徳川が侵入してくる前、房総の大名たちは小田原の北条氏、古河公方や関東管領の上杉と同盟する形で、その関東の大勢力が争う事があれば、必然的に房総の諸勢力も争いを繰り返してきた。海を隔てているとはいえ、船を使えば、小田原の北条軍は容易に房総を攻めてくるので、里見氏にとって北条は脅威であった。
 忠朝の時代から約五十年前の永禄六年の暮れ、江戸城を守る太田氏が北条を裏切り上杉謙信に寝返った。この時、上杉の要請を受け太田氏の救援に向かった里見氏は房総の諸将とともに一万六千の軍を率いて出陣し、下総の国府台に入城したのは明けて永禄七年の正月であった。それを迎えた千葉氏は北条に救援を求めると、北条氏康は二万の兵を率いて国府台に向かった。こうして里見軍と北条軍は江戸川を挟みの対峙することになった。当初、北条軍と千葉軍の連携作戦の失敗から里見軍が優勢だったが、その勝利に浮かれて兵士に酒をふるまった後、北条の夜襲を受けて大混乱のうちに里見は敗走した。この機に乗じて北条軍は房総半島深く侵攻し、その時里見側だった土岐氏が里見を裏切り北条側に寝返った。北条が房総に進出すると北条と里見の争いは一進一退を続けたが、里見氏は上総からは大きく後退し、半島の南端の安房に押し込められる形となった。
 その後、徳川家康が豊臣秀吉とともに、北条家を倒した時、北条に従っていた土着の諸勢力は房総から一掃され徳川家の家臣の支配するところとなり、生き残ったのは徳川家に味方した里見家だけだった。

「殿、国府台合戦の折の里見の敗因は完全な勝利が確定する前に酒宴を持ったことだと聞いています。ですから、、、」
「わかっておる。酒はほどほどにせよと言いたいのであろう。」
 忠朝と忠古が万喜原の開墾の相談から、里見と北条の争いに話題が移ってくると、大原長五郎がやってきた。
「殿、一大事でございます。」
「どうした、大原。また、面倒なことか?秋も深まってきたというのに、相変わらず汗っかきな奴じゃのう。」
「冗談を言っている場合ではございません。今、桑名から使者が参り、大殿さまがお倒れになったとのことです。」
「何?父上が倒れた?何故じゃ。」
「詳しい事はわかりませんが、すぐに桑名においで下さるようにとのことでございます。」
「よし、わかった。忠古、聞いての通りだ。わしは支度ができ次第桑名に向かう。わしの留守の事は頼んだぞ。」
「はい、お任せ下さい。道中お気をつけて。」
 忠古は淡々と答えた。忠朝がその場を去ると大原は忠古を睨みつけた。
「中根殿、おぬしは相変わらず冷たいな。大殿の具合が心配だとか言うことが言えんのか?」
 忠古は黙って大原を見返して、その場を立ち去った。
「全く、相変わらず何を考えているのかわからんの。」
 一人残された大原は額の汗を拭いたが、日に日に日没が早まる晩秋の夕暮れの空気は冷たかった。

 数日後、急ぎに急いだ忠朝一行は桑名に到着し、旅装を解いた。
 落ち着いたところに忠古の父、中根忠実がやってきた。
「若様、遠路はるばるとお疲れ様でございました。」
「おお、じいか。久しいな。」
「若様、、御立派になられた。御幼少のころのいたずら坊主からは想像がつきません。」
「それをいうな。わしもいい年じゃ。いつまで鼻たれの小僧ではないぞ。」
「わかっております。わかっております。」
 忠実は涙ぐみ、御立派になられた、を繰り返した。息子の忠古と違ってこの忠実は感情をあらわにする性質の様だ。
「それよりも父上の具合はどうだ。大分悪いと聞いているが。」
「はい。この二、三日はほとんどお眠りになっていますが、目を覚ますと、忠朝はいつ来るのかとおっしゃいます。まだお着きにならないと申しますと、力が抜けたようにまた眠ってしまいます。」
 忠実はそう言って止まらない涙を拭き、忠朝を忠勝のもとに案内した。忠勝は眠り続けていた。忠朝は愕然とした。目の前に眠っているのは、あの無傷の猛将ではなく痩せこけた小さな老人であった。
「ち、父上、、、」
 思わず、忠朝が声をかけると忠勝の眉毛がピクリと動いたが、目を覚ます様子はなく眠り続けた。中根忠実は忠勝、忠朝の親子を残して部屋から出て行った。忠朝にはその後ろ姿が、何か悲壮な決意を固めているように思え嫌な予感がした。
 


小説 本多忠朝と伊三 16

2010年09月25日 | ☆おおたき観光協会大河ドラマ 本多忠朝

忠朝と伊三 16/久我原


 鶏の鳴く声でサキは目を覚ました。
(ここはどこだ?)
 一瞬、サキは自分がどこにいるかわからなかったが、すぐに昨日は忠朝の勧めで城に泊まったことを思い出した。城と言ってもここは家臣たちが住む城内の長屋である。
 サキは床から起き上がると、昨日大原から借りた着物を身につけたが、思いなおして自分の衣類に着替えなおした。今日は早く家に帰らないといけない。おとうがいなくなって、国吉の人たちには迷惑をかけているから、おとうの分まで働かなくては。
 外に出ると、一人の中年女性が井戸で水を汲んでいた。
「あら、おはよう。まだ、ゆっくりしていたら良かったのに。」
「おはようございます。そうゆっくりはしてられません。帰って仕事をしなくてはいけません。ホリベエさんはどこにいるんでしょう?」
「ホリベエさん?」
 この女性は夕べ屋敷からつれてこられたサキの世話をするようにと言われたが、サキがどういう娘で何故、城内に泊まることになったかは知らなかった。サキは簡単に事情を話すと、
「ああ、伊三さんの娘さんってあなたのことだったんですか。」
「おとうのこと知っているんですか?」
「いえ、お会いしたことはありませんが、主人から話を聞いていますので。」
「主人?」
 そこへ長田が現れた。
「おお、サキ、もう起きたか。今日はゆっくりしていてもいいぞ。」
「お頭さま。じゃあ、この方は?」
「わしの女房のきよだが。」
「あ、奥方様ですか。」
「はは、奥方様なんて偉そうなもんではないわ。」
 長田の妻のきよはにっこり笑うと、
「ご飯ができるまで休んでらっしゃい。後で呼びに行きますから。」
「いえ、とんでもねえ。おらも手伝います。」
「そうですか、じゃあ、お願いしましょうか。」
 井戸から汲んだ水桶を持って、サキはきよの後をついて台所に入って行った。
「良い娘だな。伊三にはもったいないのう。」
 そう呟いて長田は井戸から水を汲み、がらがらとうがいをした。

 そのころ、屋敷ではホリベエとロドリゴはまだ眠っていた。別れを惜しみ、昨夜遅くまで語り合っていたようである。一方、忠朝は城内の馬場で馬に乗っていた。しかし、今日の忠朝はいつもの様な元気はなかった。やはり、昨夜は飲みすぎて少し頭が痛いらしい。今朝もむりやり母に起こされて、日課の乗馬に来たのだが、力が入らない。
「大原、今日はもうしまいだ。」
「殿さま、元気がありませんね。」
「いや、元気がないということはないが、昨日もちと飲みすぎてな。」
「左様で。昨夜はロドリゴ殿と随分と楽しそうな様子でしたな。部屋の近くを通ると笑い声が良く聞こえました。」
「うん、伊三の娘からもおもしろい話がたくさん聞けてな。ついつい、飲みすぎた。」
「ついついですか。」
「ついついだ。」
「ついついねえ。うらやましい。」
 忠朝は大原が悔しそうな顔をしているのに気がついた。実は大原も酒飲みで食しん坊だ。
「大原、お前、妬いているな。」
「な、何をおっしゃいます。」
「わかっておる。酒の席にはいつも飲めない忠古が呼ばれることを妬いているのであろう。」
「そ、そんなことは、、、」
「考えても見よ。お前とわしの酒好きの二人がともに飲んでいたら、留まるところがあるまい。飲めない忠古がいるくらいがわしにはちょうど良いのじゃ。があ、はははは。それにしても、今日も暑いのう。しかもお前の顔を見ているとますます暑くなってくる。」
 小太りで丸い顔の大原は額に、今日も汗をびっしょりとかいている。

 朝食をすましたサキは長田につれられて、屋敷に向かっていた。今日のサキは饒舌だった。昨日、行元寺で会った伊三のよそよそしい態度、ロドリゴとホリベエが親子の様に思えたこと、あの忠古が意外と優しい人だと感じたことなど、サキは一人で喋っていた。そのサキの話を長田はいちいちうなずきながら聞いていた。
「長田様はお幸せです。」
 サキが唐突に言った。
「おれが幸せ?どうして?」
「あんなに良い奥方様いらっしゃる。」
「そうかな?特別に良い妻と思ったことも無いけどな。」
「いいえ、良い奥方様です。おらは今日、奥方様のお手伝いをしていて思いました。おらのことを、料理が上手だとほめてくだすった。うれしかったあ。おらのおかさんは死んじまったけど、お手伝いをしていておかさんのことを思い出しました。おらのおかさんもやさしい人だった。あんなバカなおとうに文句も言わず、いつもにこにことおとうの話を聞いていた。奥方様はおらのおかさんと少し似ている。あ、これは失礼かな。」
「そんなことはない。あれでも、おこると怖いぞ。」
「そうですか?奥方様でもおこることがあるんですか。信じられねえ。」
「サキ。」
「はい?」
「そんなにあいつが気にいったか?」
「いいえ、気にいるなんて、おこがましい。でも、おかさんが恋しくなりました。」
「じゃあ、うちの娘になるか?」
「え?また、冗談を。」
「そうだな。伊三に叱られるな。あいつは頭に血が上ると何をするかわからんからな。」
 ほおを赤らめて、長田は冗談だ、冗談だと繰り返した。長田夫妻には子供がいない。

 屋敷では大原がサキを待っていた。サキの姿を見るとふうと大きなため息をついて言った。
「サキ、なんじゃ、その格好は。昨日、貸した着物はどうした。」
「今日は国吉に帰ります。おとうの分まで働かないといけないから。」
「その必要はない。ロドリゴ殿が帰るまで、二人には城に留まれと殿がおっしゃっている。」
「いえ、おらは帰ります。でも、ホリベエさんは残して行きますから。」
 大原は額の汗を拭きながら、また、ふうとため息をついた。
「殿の仰せに従え。お前が帰るというとまた面倒なことになるからの。」
「何が面倒なことだと?」
「こ、これは殿さま。」
 大原とサキがいる部屋に現れた忠朝に突然声をかけられて、大原はあわてた。
「お前はすぐに、面倒だ、面倒だという。少しは忠古を見習え。あいつは文句も言わずに働くぞ。まあ、何を考えているかはわからんがな。」
「また、忠古ですか。」
 大原はぷうとふくれっ面をした。
「サキ、そう急がなくてもよいだろう。一日や二日休んでもどうということもあるまい。」
「いいえ、おらは帰ります。でも、ホリベエさんはロドリゴ様が帰るまでここにいさせて下さい。お願いします。」
「そうか。」
「はい。」
 忠朝はにたりとした。
「でも、ホリベエがいなくてさびしくないか?」
「大丈夫です。ホリベエさんが国には帰らないと言ってくれたので、国吉で待っています。」
「そうか。では、仕方がない。しかし、まあそう急がなくてもよい。ゆっくりして、適当な時に帰ればよい。」
「ありがとうございます。ホリベエさんのこと、よろしくお願いします。」
「ほほう。まるで女房のような言い方じゃな。」
 サキは赤くなってうつむいた。
「大原、サキが帰る時、お前が送ってやれ。」
「えっ、わたしがですか。」
「そうだ、お前がだ。」
「それは、、」
「面倒か?」
「・・・・・・」
 大原は黙って汗を拭き始めた。

 ホリベエを城に残し、その日の昼過ぎ、サキは大原と供に国吉に帰った。サキは国吉の仲間の農民に仕事に遅れたことを詫びながら、いつにもまして働いた。
 その日の夕方、サキは再び伊三を訪ねた。そして、お城での出来事を伊三に話したが、それを聞いている伊三は不機嫌な顔をしている。
「なんだ、おとう、しかめっつらして。具合でも悪いのか?」
「そんなんじゃねえ。」
「なら、どうした?」
「お前、殿さまと一緒にめし食ったのか?」
「そうだ。」
「長田様の長屋に泊めてもらって、奥方様と一緒に朝飯の支度をした。」
「そうだ。」
「お前、城に行くのは初めてだったな。」
「そうだ。」
「おれは二度お城に行ったことがある。」
「うん、それは聞いた。」
「でも、俺は部屋にあげてもらったことも無ければ、殿さまとめし食ったこともねえ。」
 サキはにやりと笑った。
「サキ、おめえはおれに自慢しに来たのか。」
「ははあ、おとう、悔しいんだな。」
「おお、悔しいわい。俺が城に行ったのは失敗して捕まった時だけだ。それなのに、おめえは、、、」
「くくく、、、」
「何がおかしい。」
「すまねえ。くくく、、、でもよ、おとう、おとうもそのうちお部屋に入れもらえるよ。」
「どうして。」
「殿さまは、今度は伊三と三人で城に遊びに来いと言ってくださった。」
「ほんとうか?」
 思わず、伊三は立ち上がった。そこへ参道を登ってきた老婆が声をかけてきた。
「あんのう、住職さまはいらっしゃるかね?」
 伊三は老婆の声を聞くと答えた。
「ああ、これはおせきさん、こんにちは。今、呼んできますので待って下さい。」
「あんた、誰かね?会ったことあるかい?」
「四、五日前にお参りに来てたろう。」
「うん。そんとき会ったかね?」
「帰り際に和尚様と話をしているのを隣の部屋で聞いていたもんで。」
 伊三はその老婆の声を覚えていたので、顔がわからなくてもその老婆がおせきだとわかったらしい。伊三は本堂の中に入って行った。老婆、せきは不思議そうな顔をして本堂に入っていく伊三の後ろ姿を見送った。サキが伊三に声をかけた。
「おとう、今日は帰るぞ。また来るからな。」
 伊三は振り返らずに片手をあげた。

 数日後、ロドリゴが江戸に帰る日、城内の馬場で忠朝とロドリゴは馬に乗っていた。
「ロドリゴ殿、今日でお別れじゃな。我らの友情の証しにその馬を差し上げよう。」
 ケンがロドリゴに通訳すると、ロドリゴは馬から降りて、片膝をついた。
「トノサマ、アリガトウゴザイマス。」
「そのような真似をされるな。」
 忠朝も馬から降りて、ロドリゴの手を取った。
「Mi amigo de corazon.(我が友よ)」
「もう、お会いすることもあるまいが、ロドリゴ殿のお国での活躍をお祈りしております。」
 ケンがそれを通訳するとロドリゴは忠朝と抱擁をした。その後、今度は忠古に握手を求め、やはり抱擁をした。
「タダフルサマ、アリガトウゴザイマス。」
 ロドリゴが言うと忠古も言葉を返した。
「お元気で、お元気で。」
 いつもは青白い忠古の顔が幾分、桃色に輝いて見えた。輝いてみえたのはなんと、一筋の涙だった。ロドリゴはホリベエに聞いた。
「ホルヘ、本当にここに残るのか?今なら、まだお前を連れて行ってやれるが、ここで別れたらもう二度と会えないぞ。」
「はい。もう決心したことですから。」
 ロドリゴは後ろ髪ひかれる思いで大多喜を去り、江戸に帰っていった。

 ロドリゴ一行が三浦按針が建造した「サンタ・ブエナ・ベントウーラ号」で江戸から故郷に向けて出航したのは八月一日のことだった。江戸湾を抜け、左手に見えた房総半島はやがて水平線の向こうに消えていった。
(ハポン(日本)よ。私は幸運だった。嵐にあったのは不運であったが、その嵐のお陰で忠朝殿と忠古殿という友人を得ることができた。まずしいながらも、おだやかですがすがしい人々に会うことができた。皇帝(家康の事)にも親しく会うことができた。できることなら、イスパニアの正式な使者としてまた訪れたいものだ。しかし、それはかなうまい。サキよ、ホルヘの事はよろしく頼むぞ。ホルヘはイスパニア人では無いが、いつかイスパニアと日本の交流の役に立つことを願っている。Adios, amigos. Adios, Japon. Ahora yo salgo de Japon y deje Jorge como mi corazon. (さらば友よ、さらば日本。私は日本を去るが、ホルヘを私の魂として残してきた。))

 ロドリゴが大多喜を去った日、ホリベエは国吉に帰ってきた。
「お帰り、ホリベエさん。」
 ホリベエを待っていたのはサキの笑顔であった。その笑顔を見た時、やはり自分は個々に残ることにして良かったとホリベエは思った。
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小説 本多忠朝と伊三 15

2010年09月25日 | ☆おおたき観光協会大河ドラマ 本多忠朝

忠朝と伊三 15/久我原

 ロドリゴはホリベエ、いや、今はホルへと呼ぶ事にしよう。
 ロドリゴはホルへにスペイン語で話しかけた。
「ホルへ、元気そうで安心したぞ。」
「ドン・ロドリゴ、お気にかけていただき光栄でございます。去年ご出発されたときは、もう二度とお目にかかることはないと思っていましたが、思いもかけず、うれしく思います。」
 ロドリゴは穏やかな顔つきでホルへを見つめた。
「お前を残した事は心配だった。言葉も通じない異国に取り残されて、さぞ不安なことであったろう。」
と、言ってロドリゴは「おや?」と思った。小さく首をふるホルへの顔が一瞬微笑んだような気がした。

 昨年、岩和田で遭難し岩和田の住民と本多忠朝に助けられたドン・ロドリゴ一行は江戸では将軍徳川秀忠、駿府では徳川家康と会見した。家康との会見でロドリゴはキリシタン(カトリック)の保護、イスパニア国王フェリペとの親交、オランダ人の追放を願い、家康はキリシタン保護とイスパニア殿との親交については快諾したが、オランダ人とはすでに保護を約束していたのでその追放は拒絶された。オランダ人追放はかなわなかったのは残念ではあったが、家康からは嬉しい申し出があった。ヌエバ・エスパーニャに帰国するためにあの三浦按針が建造した船を貸し与えると言うのである。
 家康は家康でイスパニアとの交易に魅力を感じていたという下心はあったであろうが、初対面の自分に船までよういするという便宜を図ってくれるとは、この日本の皇帝はなんという度量の大きな人物であろうと感激した。
 その後、京見物をし、大坂を経て豊後臼杵(大分県臼杵市)に向けて出発した。臼杵にはマニラをともに出港し、やはり嵐にあったサンタ・アナ号が漂着していた。ロドリゴのサン・フランシスコ号の乗員とサンタ・アナ号の乗員は再会を喜び合った。
 各地で歓迎を受け、再び江戸にもどってきたロドリゴは帰国の日程が決まると、もう一度、恩人であり友人である忠朝と忠古に会いたいと思って、再び大多喜を訪れていたのである。
 そして、ロドリゴにはもう一つの目的があった。それは、、、

 ロドリゴは大多喜城で久し振りに再会したホルヘに聞いた。
「ところで、足の具合はどうだ?」
「はい、だいぶ良くなりました。走ったり、急ぎ足で歩くと力が入らないような感覚がありますが、普通に生活する分には不便はありません。それもこの娘、サキのおかげです。」
「おお、そうか。ん?確かあの漁村でお前を看病していた娘だな。」
 サキはホルへが自分の名前を言ったと思うと、今度はロドリゴが自分を見て、「Gracias, senorita.(ありがとう、おじょうさん。)」と言ったので思わず、「へえ。」と言って頭をさげた。しかし、サキは二人が何を話しているかは当然わからなかった。
「ところで、ホルへ、やっと帰国のめどがついたぞ。徳川様が三浦按針殿に命じて、ヌエバ・エスパーニャ行きの船を用意してくれることになった。徳川様も我国との通商を望んでいるらしい。一緒に帰ろう。帰国したら、お前を私の部下に取り立てて、働いてもらいたいと思っている。」
 ロドリゴはホルへの表情が曇ったのを見逃さなかった。
「どうした、ホルへ。あまりうれしくなさそうだな。それともフィリピンに帰りたいのか?私としては残念だが、それなら徳川様にお願いしてやってもいいぞ。」
「いいえ、私はここに残りたいのです。」
「何?残る?」
「はい。故郷のフィリピンには身寄りもいませんし、ヌエバ・エスパーニャも私にとっては異国です。もちろん、はじめはヌエバ・エスパーニャに行きたいと思って船に乗ったのですが、嵐に会い、もう船に乗るのは嫌だと思いました。それに、ここの人たちは親切です。最初は変な目で見られましたが、今では言葉も通じないのに〝ホリベエサン、ホリベエサン〟と声をかけてくれます。ここの人たちはJorge(ホルへ)と発音するのが難しいらしく、私の事をホリベエと呼んでいます。幸い、ここの王は新田開発に熱心な様で、私のフィリピンでの農民の経験が生かせそうですから。」
 王というのは忠朝の事であろう。その忠朝はロドリゴとホルヘの様子をじっと見守っていたが、ホルヘが渋い顔をしていることを不審に思った。忠朝は後ろに小柄な男が控えていたが、その男が忠朝になにやら耳打ちをしている。その言葉にうなずいていたが、話を聞き終わると忠朝はロドリゴに向かって言った。
「ロドリゴ殿、この男はここに残りたいと申すのか?」
「Si.(はい。)」
 その言葉を聞くと、サキの曇った顔が晴れてホルヘを見つめた。ホルヘ、いやここからはまた、ホリベエと呼ぶことにするか。ホリベエはサキの笑顔に、これもまた笑顔でうなずいた。二人の様子を見た忠朝は、なるほど、この男が大多喜にとどまりたいというのはこの娘のせいかと思った。
 ドン・ロドリゴがまた、ホリベエに何か話しかけたが、ホリベエは首を振るばかりである。そんな二人のやり取りを見ていたサキは思わず殿さまに声をかけてしまった。
「殿さま、二人は何をしゃべってんでしょうか?殿さまは言葉がわかるんですか?」
「まさか、わしにもロドリゴ殿の言葉はわからん。通辞がおるのでな。」
と、忠朝は後ろに控えている男を振り返った。
「サキさん、お久しぶりで。うちのこと覚えてはりますか?」
 サキは聞きなれないが、あの懐かしい西国言葉に驚いた。
「も、もしかして、ケンでねえか?」
「ああ、覚えていておいでで、おおきに、おおきに。」
 なんと、去年難破したロドリゴの船に偶然乗り合わせていた日本人のケンであった。
「まあ、そんな立派な格好しているからわからなかった。殿さまの家来かと思った。」
 ケンは遭難時、薄汚いシャツを着た下働きの水夫という格好だったが、今は髪をきれいに結い上げて、上等ではないが落ち着いた着物を着ていた。
「ホリベエさんがサキさんと一緒に大多喜にいるとは驚いた。やっぱ、二人は好きあってんやろ?うらやましいこって。」
「そ、そんな。お互い言葉が通じねえし、ホリベエさんもおらのことなんかなんとも思っちゃいねえべ。」
「でも、ドン・ロドリゴがヌエバ・エスパーニャに帰ろうと誘っても、ホリベエさんはここに残る言うてます。」
「えっ、本当に?」
「ほんま、ほんま。」
 と、サキとケンが話をしていると中根が咳払いをし、サキに向かって言った。
「サキ、控えよ。」
 中根に睨まれて、サキの顔がこわばった。サキの顔も中根のように白くなってきた。
「も、申し訳ありません。懐かしい人にお会いしたので、なれなれしくして、、、」
 サキは中根にひれ伏してあやまった後、ケンにも頭を下げた。
「ケンさん、懐かしくて失礼な物言い、お許し下せえ。こんなご出世されたのになれなれしくしちまった。」
 中根は忠朝の御前でサキとケンが勝手にはなしをしている事をしかったのだが、サキは殿様の通辞であるケンになれなれしい態度をとった事をとがめられたものと思った。中根はサキの様子を見て、口元がゆがんだ。口は笑っているようだが、目は笑っていない。
「サキ、勘違いするな。わしは、殿さまとロドリゴ殿の前で勝手に二人で話をするなと申したのだ。伊三も娘もあわてものじゃ。」
「忠古、まあ良いではないか。サキ、聞いての通りホリベエはここに留まりたいという。今は新田の開発に人手はいくらでもほしいところじゃ。伊三はまだ家には帰れないが、ホリベエと力を合わせて新田の開発の手伝いをしてくれ。のう、ロドリゴ殿、それで良いかな?」
と、問いかけられてもロドリゴには忠朝が何を言ったかわからなかった。
 サキの白い顔が今度は真っ赤になったかと思うと、今度は一筋の涙をこぼした。
「殿さま、、、ありがとうございます。おとうの言う通りだ。殿さまはおやさしい方だ。」
 ドン・ロドリゴはケンから忠朝の言った事を聞いて、腕を組むと小さく首を左右に振って、うなだれた。それを見て、忠古が忠朝に声をかけた。
「殿、今日はもう夜もふけました。今夜は二人とも、城に泊らせてはいかがでしょう?ロドリゴ殿もホリベエと過ごすことをお望みかと。」
「忠古、わしもそう思っていたところだ。ロドリゴ殿も国に帰れば、再び戻ってくることもあるまい。今宵はみなで酒でもくみかわしながら、、、」
「殿、御酒をめしあがるは結構ですが、、、」
「わかっておる。ほどほどにせいというのであろう。全く、母上の様な事を言うやつよ。」
 忠朝がむっとしてつぶやくと、サキは思わず噴き出した。
「サキ、何がおかしい。」
 忠古がサキを睨むと、
「も、申し訳ありません。殿さまがおとうと同じことを言うものですから。」
「何、どういうことだ?」
「殿さまもご存じでしょうが、うちのおとうはだらしなくて、挨拶もできねえ、庭でしょんべんはする、食べながらしゃべるで、おらがいちいち注意すると『ばあさんみてえな事言うな!』っておこるんです。」
「そうか、伊三もか。がははは。これはいい。わしに忠古がついているように、伊三にはサキがおるということか。がははは、こりゃ、おかしい。があははは。」
 どうやらサキが伊三を叱りつけてるところを想像し、忠朝の笑いのツボを捕えてしまったらしい。
「そうだ、サキ、伊三の話を聞かせてくれ。岩和田の漁師の仕事についても興味があるし。なあ、忠古。」
「………」
 忠古は返事をしなかった。それにしても、、、
 サキは忠古がその見た目とは違って、意外と情けが深いのには驚いた。あの日、伊三を城に連れて行った忠古は鬼のように見えたのだが、、、、

 一同は場所を移して、別れの宴を始めた。楽しそうなのは、忠朝、ロドリゴ、ケンの三人だけで、ホリベエとサキは緊張し、忠古は蒼白な表情で黙って三人の話を聞いていた。
 しかし、時間がたつにつれ、サキが話す伊三の話に場が和んでくると、サキもホリベエもようやくくつろいだ感じになってきた。そこで、サキは気になっている事を確かめたいと思い、忠朝に言った。
「殿さま、おら、ホリベエさんが言っている事はまだよくわからねえんだけど、気になることがあるんで、ケンさんに聞きたいことがあるんです。ケンさんと話して言いでしょうか?」
「気になること?ああ、かまわんとも。ケン聞いてやれ。」
「ありがとうございます。ケンさん、ホリベエさんがよくボニートとかボニータって言うんだけど、なんのことだ?」
 ケンはにたりと笑った。
「なんだ、いやな笑い方するな。どういう意味だ?」
「それはどんな時に言うんです?」
「そうだな、最初は猫を捕まえてきて、ボニート、ボニートって言っていたんで、猫の事を言うのかと思ってたんだけど、近所の子供を抱き上げてボニートって言うかと思ったら、ホタルを見てもボニートだ。」
「そうですか。サキさんにも言いますやろ?」
「うん、おらにはボニータって言うけどな。」
 すると、ホリベエがケンに言った。
「Si, ella es muy bonita. Me gusta mucho.」
「ケンさん、なんて言ったんだ。」
 ケンはまた、にやにやと笑った。ロドリゴもホリベエの肩をたたきながらにやにやしている。
「なんだ、みんな気持ち悪いな。教えてくれよう、ケンさん!」
「それはな、サキさんは可愛い、大好きだって言ったんですわ。」
「えっ?」
 サキは顔が赤くなってきた。ホリベエを見返すことができなかった。
「やっぱりね。去年、岩和田にいるときから、そうやないかと思ってたんや。Bonitoっていうのは可愛いらしいっていう意味です。女性にはbonitaって言いますけどね。」
「そ、そんな。おら、こんな図体でかいし、可愛いなんて言われたことはねえ、、」
 確かにサキは父親の伊三に似て、頑丈な体つきをしていて、岩和田の漁師や、大多喜の農民に交じって仕事をしていると姿を見ると女性とは思えないこともあるが、その顔だちは幼さが残り、かわいらしい印象を与える。体つきの小さい日本人から見れば、「大女」ということになろうが、スペイン人の血を引く大柄なホリベエと並んで座っているとサキもそれほどの大女には見えない。
「ふむ、確かに体は大きいが、見ようによっては整った顔だちをしているのう。」
 忠朝はうつむくサキの顔を覗き込んだ。その時、一人の女性が宴の部屋に現れた。忠朝の母、お久である。
「なにやら、楽しそうでございますねえ。」
「これは、母上。」
「忠朝殿、妙福寺からそうめんが届きましたので、みなさんに食べていただこうと思ってゆでてまいりました。」
「ああ、そうですか、妙福寺から。ロドリゴ殿、珍しいものが届きました。是非、めしあがってください。」
 お久についてきた待女が一同の前にそうめんを置いて行った。勧められて、まずロドリゴがぎこちない手つきで箸をつけて、忠朝に向かった。
「Oh, sabroso!」
「ロドリゴ殿、わしは三郎ではない、次男じゃからの。」
 すると、ケンが笑った。
「はは、殿さま、sabrosoっていうのはイスパニア語でおいしいって言う意味です。」
「そうか、ロドリゴ殿の国の言葉は我らの言葉と似たようなところがあるからややこしいのう。」

 こうしてロドリゴとホリベエのが再会した宴は和やかなうちにお開きとなった。ロドリゴのたっての希望でその夜はホリベエと枕を並べて眠ることになった。ホリベエは身分違いを理由に辞退したが、忠古が強く勧めるので恐縮しながら受けることになった。ロドリゴがホリベエの肩を抱いて寝所に向かう後ろ姿がサキにはまるで親子のように思えた。
(ホリベエさん、本当にここに残っていいのか?ロドリゴ様とお国に帰った方がいいんではないか?)
 そう、思いながら庭を見ると、青白い光が三つ点滅しているのを見つけた。三匹のホタルであった。サキにはそれがなぜか、伊三、ホリベエそしてサキが再び一緒に暮らしている姿に思えた。
(おとう、ホリベエさんは大多喜に残るんだってよ。おとうはいつ帰ってくるんだ?)
 サキは伊三とホリベエの先行きが心配だったが、なぜか胸の奥が心地よく暖かくなっている事を感じた。


小説 本多忠朝と伊三 14

2010年09月25日 | ☆おおたき観光協会大河ドラマ 本多忠朝

忠朝と伊三 14/久我原

 

 長田がサキの家を訪ねた日から、二十日ほど過ぎたある日、サキは行元寺を訪れた。サキが行元寺を訪ねてきたのは今日で二度目である。
 長田に伊三が行元寺に預けられ、伊三は家に帰ることは許されないが、サキが伊三に会いに行くことは禁じられていないと言われたので、翌日早速、行元寺に行ってみた。もうひと月以上も伊三に会っていない。伊三とこんなに長い時間離れて暮らしたことはなかった。世話の焼ける父だが、そこは二人きりの親子のこと、サキはさびしくもあり、父が心配でもあった。ところが、ひと月ぶりにサキが見た父の姿は、、、伊三は十歳ぐらいの小坊主に叱られて背中を丸めてうなだれた姿だった。
「伊三さん、昨日も言いましたが、本堂の前を通る時はご本尊様に会釈をしてください。それと、部屋にあがるときは脱いだ草履はきちっとそろえて下さいね。」
 サキは久し振りに見る父が子どもに小言を言われているのがおかしかった。サキが
「おとう、挨拶はちゃんとせえ。」
とか、
「食べながらしゃべるな、何言ってんだかわかんねえ。」
と注意しても、
「ばあさんみてえにうるさい事言うな。」
と言って聞かなかったが、その時は「へえ、へえ。」と言いながら小坊主にぺこぺこ頭を下げていた。サキは山門の陰からしばらく伊三の姿を見ていた。
(おとう、少し小さくなったようだな。)
 ひと月の牢暮らしで伊三はやせていた。背が縮んだわけではないが、伊三がひとまわり小さくなったようにみえたのは、小坊主に叱られてしょげているからかもしれなかった。最初は滑稽に見えた伊三の姿も哀れに思えてきて、サキは伊三に声をかけることをためらい、その日はそのまま家に帰った。
 あれから二十日ほどの日々が過ぎ、サキのもやもやとした心配は膨らむばかりである。この日仕事中にたまたま長田に出会い、伊三の様子はどうだと聞かれて行元寺で見た伊三の様子を感じたまま話すと、
「伊三もさびしいだろうな。殿さまからはうまい米を作れと言われているが、和尚様の許しがでるまで寺から出てはいけないと言われているらしい。励ましにいてやったらどうだ。」
と言われた。そこで再び行元寺を訪ねる気になったのである。

 日に日に暑さが増している。サキは大汗をかきながら参道の緩やかな坂を上って行った。運が良い事にちょうど山門のところで伊三が誰かと話をしているところだった。
「おーい、おとう!」
 サキは伊三に手を振った。それに気づいた伊三はサキに向かって深々と頭を下げた。ササキは違和感を感じた。
(?、、おとう、おらのことがわからないのか?おらのこと忘れちまったのか?)
 すると、伊三と話をしていた男が伊三の肩をたたき、サキを指さし笑った。
 サキはもう一度手を振った。
「おとう、おらだ。サキだ。」
 今度は伊三は右手をちょっと上げ、もう一人の男と一緒にサキの方に歩いてきた。近づいてみてわかったが、もう一人の男は平吉だった。
「あれ、平吉さんでねえか。久し振りです。」
「おお、サキちゃん、久し振りだな。おめえも伊三が心配で来たのか?」
 平吉は伊三が田んぼで暴れて捕えられ、行元寺に預けられていることを聞いて心配になり見舞いに来たようだ。平吉はサキに笑顔で話しかけてきたが、伊三は相変わらず固い表情でサキを見つめている。
(あれ、おとうはまさか本当におらのこと忘れちまったんじゃねえだろうな。)
と思った時、伊三がサキに話しかけた。
「久しぶりです。達者でいましたか。」
 伊三の他人行儀な態度にサキは心配が増した。
(お寺の修行で頭がおかしくなっちまったんじゃないだろうか?)
「伊三、自分の娘にそんなよそよそしい態度をとるんじゃない。サキちゃん、俺に対してもこんな調子なんだ。全くいやになるよ。」
「平吉さん、和尚様に人には丁寧に接するように教えられたんです。そんな言い方しないでください。」
 サキは唖然として、口をぽっかりと開けて、伊三を見た。
 久し振りの再会だったが、伊三の態度にサキと平吉は閉口し、重い沈黙が三人にのしかかってきた。そこへ山門をくぐって、一人の僧侶が現れた。年齢は五十歳ぐらいだろうか、満面の笑顔でゆったりと三人に近づいてくる。
「伊三、お客さんかい?」
「あ、これは和尚様。友達の平吉さんと娘のサキです。」
 サキは僧侶に頭を下げた。
「おお、伊三の娘さんか。住職の定賢じゃ。」
「伊三の娘のサキといいます。おとうがご迷惑おかけします。」
 定賢は噴き出した。普通は「お世話になります。」と言うところを「ご迷惑をおかけします。」とサキが言ったので、サキはよっぽど伊三に手を焼いているのだと思った。
「和尚様、おとうは大丈夫でしょうか?おらに頭を下げたり、薄気味悪い口のきき方をするんです。なれないお寺の暮らしで本当におかしくなっちまったんじゃないかと。」
「ははは、それはわしが礼儀正しくしろ言ったからだろう。これ、伊三、娘や友達にまでそんなにバカ丁寧にせんでもよろしい。」
 そういうと伊三は緊張が解けたのか、「ふう。」とため息をつくとサキのほっぺたに手を置いて、
「元気そうでよかった。」
と言ってひやりと笑った。笑ったが、その眼はうるんでいた。そして、サキを抱きしめた。
「会いたかった。会いたかった。」
 定賢は平吉を促し、山門の方に向かって歩き出した。
「おとう、やめろ。恥ずかしい。」
「恥ずかしいもんか。俺はうれしいんだ。お前にまた会うことができてうれしいんだ。」
(ああ、やっぱりおとうはおとうのままだ。)

 ちなみに、、、
 行元寺の和尚定賢は本多忠朝の信頼が厚く、後にあの天海僧正と供に徳川家康の講師を務め、名を「厳海」さらに「亮運」と改め、天海亡きあとは徳川家光の師となり、九十二歳の天寿を全うした。しかし、サキは定賢和尚がそんなに偉い僧だとは知らずに、やさしそうなお坊様で良かったと思った。

「おとう、あれがこのお寺の和尚様か?もっとおっかねえ人かと思ったが、にこにこしてやさしそうなおじいちゃんって感じだな。」
「ばかいえ、おっかねえ和尚様だ。俺はいっつも怒鳴られている。」
 そんなことはなかった。定賢は常に静かに、伊三にわかりやすいように丁寧に話をしていたが、伊三には厳しい口調に聞こえていた。やはり、ひと月の牢の生活が伊三の気をなえさせていたのだろうか。
 しばらくすると定賢がやってきた。
「サキさん、せっかく来たのだから、お参りをしていってください。それに今日はまた暑いですから、冷たい水でも差し上げましょう。」
 すると伊三は首をすくめてサキに耳打ちをした。
「な、おっかねえだろう。頭にガンガン響くようなおっきな声だ。」
「?」
 サキには、やはりやさしいおじいちゃんに思えたのだが、、、

 お参りをした後、伊三、平吉、サキの三人があの小坊主が持ってきた水を飲みながら本堂の前で話をしていると、参道の向こうで馬のいななきが聞こえた。しばらくすると、サムライが一人山門をくぐり三人の所にやってきた。
「サキというのはお前のことか?」
 サムライがサキに声をかけた。
「へえ、おらがサキですけど、おサムライさんは?」
「私は本多忠朝様の家来、大原長五郎と申す。本日は殿さまの言いつけでお前を迎えに来た。ホリベエと供に城に参れ。」
「えっ?おとうでなくて、おらがお城に?ホリベエさんも一緒に?」
「そうだ。」
 サキは不安そうに伊三の顔を見た。伊三が呼び出しを受けるのならわかるが、何故自分が呼び出されたのか。しかも、ホリベエも一緒に来いという。一体何の用事だろう?
「ふふふ、そう心配そうな顔をするな。本来は伊三に来させるべきところだが、今は謹慎の身である故に、代わりに娘を連れて来いと言うことだ。悪い知らせではないということだ。」
「でも、なんでホリベエさんも一緒に?」
「詳しい事はよくわからんが、、、、まあ、城に来ればわかることだ。ごちゃごちゃ言わないでついてこい。」
 大原は吹き出る汗を拭きながら、面倒くさそうに答えた。
「それにしても、よくここにいることがわかりましたね。」
「ああ、お前の家に行ったんだが、ホリベエしか居なくて大変だった。まさかホリベエが異人だとは思っていなかったからな。何を言っても話が通じなくて困っていたところに長田が現れて、サキが行元寺にいると聞いたのでこちらにまわってきたのだ。」

 サキとホリベエが大原に連れられて城に着くと、中根が迎えに出てきた。
「おお、大原殿、御苦労であった。その二人、殿に目通りするにはちとむさいのう。何か小ざっぱりしたものに着替えさせてやれ。」
「中根殿!私は殿さまに二人を迎えに行けと言われたが、着るものの面倒まで見ろとはいわれておらん。そなたに指図される言われない!」
「大原殿、頼みましたぞ。」
「中根殿、私は忙しいのだ。そんなことは、、、、」
 だれかほかの者に頼んでくれと言おうとしたところ、例の冷たい微笑みを見せて、中根は屋敷に向かって立ち去ってしまった。
 大原のひたいから汗が噴き出してきた。暑さのせいばかりではなく、中根に対する怒りから噴き出した汗であろう。
「あのう、、、おらたちどうしたら、、、」
 サキに問いかけられ、大原はサキをぎろりと睨んだ。サキが一歩後ずさりすると、その肩をホリベエが支えた。
「仕方がない、ついて参れ。私がお前たちをきれいに着飾ってやる!ああ、めんどうじゃのう、、」

 サキとホリベエは着替えをすると、意外にも客間に通された。伊三でさえまだ屋敷にはあがったことがないのに。サキは緊張でかたかたと震えていたが、ホリベエは事情がわからず部屋の中を見回していた。日が暮れて、部屋が暗くなってくると、小間使いの者が明りと冷たいお茶を持ってきた。サキは冷たいお茶を一口すするとなんとなく心が落ち着いた。
 小半時ほど待たされたところで中根がやってきた。
「サキ、ホリベエ、殿さまのお出ましだ。頭をさげよ。」
 言われて、サキが畳に手をつき頭を下げ、ホリベエもそれをまねた。そうして待っていると、上座にだれかが座った気配を感じた。
(と、殿さまだ。)
 一度、解けた緊張が再びサキを押しつぶしそうになってきた時、忠朝がサキに声をかけた。
「伊三の娘、サキだな?わしが忠朝じゃ。」
 その声を聞くとサキは緊張で返事ができず、ひれ伏したまま、口をパクパクさせていた。
「はは、そんなに緊張せんでも良い。」
「へ、へえ、、」
 サキはやっとのことで返事をした。ははと笑った後に忠朝は意外なことを言った。
「さあ、ロドリゴ殿、この者がホリベエでござるか?」
「Si, si. Cuanto tiempo, Jorge. Como estas? (はい、そうです。ホルヘ久しぶりだな。元気だったか?)」
 サキとホリベエは驚きのあまり、同時に顔をあげた。
 目の前には、忠朝とロドリゴが座っていた。
「Don Rodorigo!!」
 ホリベエはそう言って絶句した。サキは嫌な予感がした。


小説 本多忠朝と伊三 13

2010年09月25日 | ☆おおたき観光協会大河ドラマ 本多忠朝

忠朝と伊三 13/久我原


「おい、伊三、どうした、いい年をして何を泣いているんだ。」
「いや、殿さまにご迷惑をおかけし、情けないやら、恥ずかしいやら、、、、、殿さまのお顔を見ていると今にもどなりつけられようで、おっかなくて、、、」
「なんだ、子どもみたいなやつじゃのう。」
 ううう、と唸ると伊三はひれ伏した。
 忠朝は笑いながら言った。
「はは、お前を見ているとわしも二十年前のいたずら小僧に戻ったような感じがする。あの時はお前に叱られたが、、、」
 忠朝はにたにたとした笑顔を引き締めた。
「今度はわしが叱る番じゃ。国吉の領民たちが汗水流して作った田んぼを荒らしまわったことは大変な罪だ。お前はわしに申し訳ないと言ったが、申し訳ないという相手が他にもいるのではないか?この罪を償うのは大変なことだ。」
「?」
「ボケっとした顔をしおって。わしはお前は見どころのある奴だと思っている。中根から伊三が国吉で暴れていたので連れてきたと聞いたとき、すぐに会いたいと思った。しかし、中根がお前は大勢の人間に迷惑をかけたから簡単に許してはならないという。そこでひと月の間牢に閉じ込めることを命じたのだ。」
「申し訳ないと思っています。あんときは夢中だったもんで、、、」
 しょんぼりと肩を落とし、相変わらず涙を流してぐちゃぐちゃの伊三の顔を見て、忠朝はため息をついた。
「ふーん。本当に反省しているのかの?お前、ひと月牢に入っていて何かわかったか?」
「何かって、何のことで?」
 忠朝は伊三の正直に自分の感情を隠そうとしないところが好ましく思っていたが、自分の行動がまわりにどんな影響を与えているかをあまり考えていないことにあきれてしまった。
 忠朝は一人、牢の中で伊三が自分の行動を反省し、忠朝自身だけでなく、国吉の農民に迷惑をかけていることはもちろん、残された娘のサキがどれほど心配しているかということに気がつくことを期待したが、それはむなしい期待であったか、、
「伊三、なんでも良い。思ったことを述べてみよ。」
 忠朝は静かにやさしく言ったつもりだったが、伊三には威圧的な命令に聞こえた。
「も、申し訳ありません。とんでも無い事をしてしまったおれは本当にバカだと思いました。それと、、そのう、、、」
 伊三は言おうか言うまいかと言い淀んでいると長田が声をかけてきた。
「伊三、思うことを申し上げろ。殿さまは慈悲のある方だ、反省していれば罰も軽くしてくださるに違いない。」
 長田がちらりと忠朝の顔を見ると、忠朝はわずかに首を振った。長田は伊三が哀れに思えた。なぜか二十年前に大多喜の町普請で懸命に働く伊三の姿、幼い殿さまが若い日の伊三にじゃれついてくる姿を思い出した。
 しばらく沈黙が続いた後、伊三がもそっと言った。
「めしがまずかった。」
 忠朝は思わず前のめりになって、伊三にどなりつけた。
「なに?めしがまずかっただと?」
 長田はもう駄目だと思った。
「伊三!何を言うんだ!反省しているのかと思ったら、めしがまずいとは何ということを!殿さま、申し訳ありません。長い間、牢に入れられ頭がおかしくなっているんです。こ奴の身は私にお預けください。殿さまのお心がわかるように鍛えなおしてやります。」
「長田、よい。こ奴の処分はわしが決める。伊三、残念だがわしはお前を許すことはできん。」
 忠朝は一言でも仲間にすまない、娘にすまない、今後も一緒懸命に田を耕すと言えば、条件付きで許すつもりでいたが、言うに事欠いてめしがまずいとは、、、、この時ばかりはこいつは一体何を考えているのだと、心の底から腹が立った。
「この男を牢に戻せ。めしも食わせんでいい。こいつの口には合わないようだからな。」
 忠朝は感情的になり、長田に命じた。すると、伊三がぽつりと言った。
「こんなまずいめしを殿さまも食っているのかと思うと、本当に申し訳ないと思いました。」
「何?」
 忠朝は怒りの表情を和らげた。
「どういうことだ?」
「おれは国吉の米を食ったとき、さすが御城下で作る米はうめえ。岩和田の米とは大違いだ。こんなうめえ米を作ることができたら、さぞ殿さまも喜ぶだろうと思いました。ところが、お城で出るめしは毎日毎日まずかった。殿さまはこんなまずいめしを食っているのか。昔、殿さまが下さった握り飯はあんなにうまかったのに、今は米がまずくなっちまった。それで殿さまは新しい田んぼを作ってうまいめしを食いたいと思ったんだろうに、その田んぼをめちゃめちゃにしちまって、俺は本当にとんでも無い事をした。」
 伊三は牢で食べためしがまずかったので、お城の人たちもまずいめしを食っているのだろうと思いこんでいた。忠朝の新田開発は収穫の石高をあげて国を富ませようという経済政策だが、伊三は単純に殿さまはうまいめしを食いたかったと思っていたようだ。
「伊三、お前そんなこと考えていたのか?あきれたな。」
「殿さまがこんなまずいめしを食ってるかとおもうとおかわいそうで、、、それで、、、」
「これ、伊三、失礼なことをいうな。殿さまが囚人と同じ飯を食っているわけないだろう。」
「へっ?」
 伊三は長田を振り返った。長田が忠朝に向かって言った。
「殿さま、こいつはこういうやつなんです。バカだけど心根はいいやつです。イライラするけど憎めないやつなんです。なにとぞお慈悲を。」
 忠朝は伊三に聞いた。
「それで、どうした。それから何を思ったんだ?」
「牢に閉じ込められていたら、殿さまのためにうまい米を作ることができなくなる。もしかしたらサキも岩和田に追い返されかも知れねえ。茂平さんに岩和田に住むことは許さんと言われたから、もしかしたらホリベエさんと異国に行ってしまうかもしれねえ。みんな、俺のせいだ。」
 伊三はまた泣き出した。話も取りとめのないものになってきたが、忠朝の心が揺れた。そして大声で笑い出した。
「があ、はははは、があ、ははは。長田、伊三の罰を申し渡す。今、決めた。」
 さっきまで怒りに満ちた顔をしていた忠朝が突然笑い出したので長田はびっくりしたが、これで伊三は助かったと感じた。
「伊三、娘の待つ家に帰ることは許さん、行元寺に預ける。そこに住み込み、わしのためにうまい米を作れ。そして、米の収穫ができたらその米をわしのところに持ってこい。それを伊三への罰とする。うまい米ができたらお前の罪を許してやろう。しかし、まずい米を持ってきたら、いつまでたっても娘には会えないぞ。わかったか?」
 伊三は相変わらず泣いているが、長田が忠朝に答えた。
「ありがとうございます。殿さまのご慈悲に答えるように、わたしが伊三をしっかりと面倒を見ます。これ、伊三、お前も礼をいわんか。」
 うながされて伊三は泣き顔のまま忠朝を見た。
「あぃがとう、、ごぜえます。おれはまた、殿さまに助けられた。本当にすまねぇぇぇ。ありがてぇぇぇぇ。」
「伊三!勘違いするな。わしはお前を許すとは言っておらんぞ。一人前に米が作れるようになるまではな。」

 こうして伊三は国吉原の北の山裾にある行元寺に預けられることになった。
 伊三が行元寺に預けられた晩、サキのもとに長田が伊三の処分を知らせに行った。
「そうか、おとうはお寺に預けられるのか。あの年になってお坊様の修行は辛かろうなあ。」
 伊三が寺に預けられると聞いたサキは伊三が坊主にされるものと勘違いをしているようだ。
「サキ、お前、勘違いをしているようだな。伊三は何も坊主になるわけではない。行元寺の住職に身を預け、大多喜の領民として恥ずかしくない人間になってもらいたいという殿さまのご慈悲だ。しかし、殿さまのお許しが出るまでここには戻れないぞ。わかったな?」
「へえ、そうですか。わかりました。お頭さま、あんなバカなおとうだけど、会えないと思うとやっぱりさびしい。」
 サキの頬を涙が一筋流れた。長田は少し哀れに思った。
「まあな、辛抱せい。今年の秋には戻ってこれる。それに行元寺はここから近いしな。」
「?」
 サキは長田が何を言わんとしているのかよくわからなかった。
「なんだ、サキ、目をぱちくりさせて、俺の言うことがわからんか?」
 サキの横に座っているホリベエは長田が何を言っているのかはわからなかったが、「伊三」という言葉とサキが泣いている姿を見て、とらわれた伊三の身に良くないことがおこっていることは感じ取っていた。
 沈黙する三人の間に薄緑色の光がゆらゆらと飛んできた。ホタルが三匹、サキの家に迷い込んできたようだ。三つの光は寄り添うように飛んでいたが、そのうちのひとつは仲間から離れて外に出て行ってしまった。家の中には残った二匹のホタルが壁に止まった。
「サキ、伊三はこの家には帰れないが、お前がどこに行ってはいけないとは殿さまは申されなかった。」
「はあ。えっ?では、お寺におとうに会いに行っていいのか?」
「さあて、俺はそんなことは言っていないが、、、、」
 サキは長田の、忠朝の気遣いがうれしかった。
「ありがとうございます。お頭さまも殿さまもお優しい方だ。」
 サキがぺこりと頭を下げると、ホリベエもそれにならって頭を下げた。
「さあて、礼を言われるおぼえはないがのう、、、」
 二人に頭を下げられた長田は照れながら言った。
 ふと、長田が壁に止まったホタルを見ると示し合わせたように二匹とも壁を離れて外に飛んで行った。先に外に飛んで行った仲間を追うように。長田にはそれが伊三の後を追うサキとホリベエのように思えた。
 しばらく長田は二十年前の殿さまと伊三の出会い、今回のお城での再会のことなど話した。サキは伊三から若いころ忠朝と出会ったことは聞いていたが、詳しい事は知らなかった。伊三が若様とは知らずに忠朝を叱りつけたということは初めて聞いたが、(おとうらしいことだ。)と思わず微笑みが漏れた。そんなサキを見て、長田は大柄だが愛嬌がある娘だと思った。
「さて、夜も更けた。明日も仕事だ、帰るとするか。ホリベエ、伊三の分まで働いてくれよ。」
 長田に声をかけられ、ホリベエは思わず「ハイ。」と答えた。サキはホリベエの顔を見て、(この人はどこまでわかっているんだろう?)と思った。
 長田を見送り、家の外に出ると近くの田んぼからカエルの鳴く声が聞こえる。長田が持つ明りが田んぼの中をゆらゆらと動いて遠ざかって行くのを二人はいつまでも見送った。
「Bonita.」
 ホリベエが闇を指さした。サキがその方向を見るとさっきのホタルだろうか、三つの緑の光が闇の中を揺れていた。
「ホリベエさん、ボニータってどういう意味だ?口癖みたいでよく言うけど、おらにはわかんねえ。ねえ、どういう意味だ?」
 サキの問いかけにホリベエはにっこり笑って、
「Bonita.」
ともう一度言った。サキはホリベエとの会話がまだまだ通じ合えないのがもどかしかった。いつの間にかホタルは林の中に消えていった。
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本多忠勝没後400年記念≪動画≫ 制作:いすみ鉄道応援団 写真はいすみ鉄道応援団、戦国画は福田彰宏さん、音楽は、moka(モカ)さんの「ロボット」。大多喜城へは、世界で唯一のムーミン列車・いすみ鉄道をご利用ください。   

大多喜城讃歌

大多喜城讃歌   作詞 尾本信平  作曲 市角源一 ≪1≫ 世は戦国の 房総に    武田や正木の 根古屋(ネゴヤ)城   万喜(マンギ)の土岐(ドキ)と 幾度か   干戈(カンカ)交へし 刈谷原   ああ夢遠し 大多喜城   鐘の音何処 無縁堂 ≪2≫ 三河の本多 忠勝は   徳川勢の 四天王   里見に備へ 舞鶴(ブカク)城   夕陽きらめく 天守閣   ああ夢遠し 大多喜城   冑の絵姿(スガタ) 今に見る ≪3≫ 慶長秋に ロドリゴは   ルソンを出でて 岩和田に   漂着難破 忠朝(タダトモ)の   なさけは世界に 伝はりぬ   ああ夢遠し 大多喜城   支倉(ハセクラ)ローマの 縁かな ≪4≫ 天下を分つ 関ヶ原   大阪冬や 夏の陣   忠朝あはれ 討死す   苔むす墓石(ハカ)や 良玄寺   ああ夢遠し 大多喜城   名将ここに 眠れるか ≪5≫ 京洛の秋 風寒し   薩長土肥か 徳川か   城主の老中 正質(マサタダ)は   幕軍率いて 鳥羽伏見   ああ夢遠し 大多喜城   調練励む 民人も ≪6≫ 昔を偲ぶ 大井戸や   空壕(カラボリ)跡も 草しげし   若殿輩(ワカトノバラ)も 此の城門(モン)を   立ち出てたらむ 花吹雪    ああ夢遠し 大多喜城   影こそ映れ 御禁止(オトメ)川

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