釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

資本主義の「大いなるリセット」

2020-08-22 19:19:20 | 経済
1944年6月6日のヨーロッパ反攻作戦、いわゆる史上最大の作戦と言われた連合軍のノルマンディー上陸作戦を連合国遠征軍最高司令官として指揮したドワイト・デビッド・アイゼンハワーDwight David Eisenhowerは、戦後の1953年に米国大統領となった。中佐から大将へわずか4年で昇進した異才の主であるが、トルーマン大統領の原爆投下に反対した人物でもある。1961年、彼は大統領退任演説の中で、「軍産複合体Military-Industrial Complex」が民主主義の脅威となっていると警告していた。そして今では国防総省 (ペンタゴン) を中心とする軍部と巨大な軍需産業群が容易に御することの出来ない存在にまでなっている。米国の軍産複合体は、世界最大の軍事予算を米国にもたらし、常に世界のどこかに「軍事的脅威」を見出して来た。ソ連が崩壊すると、中東に「脅威」を見出し、安定よりも混乱を残した中東に次いで、現在は標的を中国に定めている。ちょうど11月の大統領選で、コロナ対策の失敗で支持率の低下している現大統領の思惑とも合致している。国民の目線を国外へ向ける失策を犯した政治家の常套手段である。1968年にニクソン大統領の補佐官となったヘンリー・アルフレッド・キッシンジャーHenry Alfred Kissingerは、その前の1960年の大統領候補に立候補していたネルソン・ロックフェラーの外交政策顧問を務めたりしていた。後にロックフェラー家が中国に銀行進出する際にも助言している。1971年、彼は中国とソ連の対立の中で、極秘に中国を訪問し、周恩来に会いベトナム戦争の終結を取り付けた。1973年からはフォード大統領の補佐官兼国務長官に就任している。副大統領はネルソン・ロックフェラーである。1979年米中国交が樹立されると、鄧小平は訪米しカーター大統領と会談後、米国の工業地帯を実見し、中国の「遅れ」を新たに認識し、帰国後すぐに深圳をはじめとする経済特区を設置し、外資導入による輸出志向型工業化政策を進めた。この時から米中経済は相互依存の関係を築き、相互に経済を成長させたが、米国だけでなく主要国は工場を自国から次々に中国へ移転させて行った。トランプ大統領が2018年に仕掛けた対中貿易戦争までの38年間は、貿易により相互が利益を得る関係が成立していた。しかし、中国の成長はあまりにも目覚ましく、軍事的脅威と言うよりも、米国にとり経済・科学・技術などでむしろ脅威となって来た。米国にとって軍事的に真に脅威と言えるのは、むしろロシアだろう。現在、世界最大の企業となっているのは株式時価総額が2兆ドルとなった米国Apple社である。米国にはそうそうたるIT産業が肩を並べている。しかし、そこに肉迫して来たのが鄧小平が育てたアジアのシリコンバレー、深圳のIT企業群である。ファーウェイ、アリババ、テンセントなど。米国の攻撃に晒されているTikTokもWeChatもそこから生まれた。米国商務省産業安全保障局(BIS)は17日、ファーウェイおよび世界21カ国のファーウェイ系列関連会社38社に対して、米国の技術・ソフトウェアで生産されるものへのアクセスを制限すると発表した。21カ国には英国・ドイツ・フランスなど欧州、ブラジルなど南米、タイなどアジアが含まれる。英国経済紙フィナンシャル・タイムズはこの措置はファーウェイにとって「死」を意味すると報じている。韓国の中央日報も「息を止められたファーウェイ…米国の半導体「死の攻撃」にサムスンも緊張」と報じている。しかし、米国の措置は、米国企業クアルコムにもファーウェイへの部品販売で最大80億ドルの受注を失わせてしまう。クアルコムは販売制限の撤回を米国政府の議員や官僚に積極的に働きかけているとも言われる。ファーウェイにメモリーチップを供給する韓国の半導体大手サムスン電子とSKハイニックス、アップルに次ぐイメージセンサーの大口顧客を失う日本のソニーへも影響する。ASEAN10ヶ国に、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6ヶ国を含めた計16ヶ国で協議が進められている世界最大の貿易協定である東アジア地域包括的経済連携RCEPにも米国は楔を打ち込むだろうか。米国は安全保障上の懸念をファーウェイなどの排斥理由に上げているが、米国自身が他国への諜報活動を積極的に行って来たことは元中央情報局(CIA)職員のエドワード・スノーデンの暴露を待たないでもよく知られたことである。大国で諜報活動をしていない国などないだろう。米国でFaceBookやGoogleなどのIT企業が個人情報を政府に開示していることはすでに明かにもなっている。米国、特に軍産複合体は、米国の覇権を維持しようと懸命である。昨年1月23日、日本の首相と外務大臣はスイスの世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に出席したことが今も外務省のHPに記されているが、世界経済フォーラムは、「経済、政治、学究、その他の社会におけるリーダーたちが連携することにより、世界、地域、産業の課題を形成し、世界情勢の改善に取り組むことを目的とした国際機関」であるとされる。その世界経済フォーラムは6月3日、「Now is the time for a 'great reset' (今こそ「大いなるリセット」の時だ)」と題した記事をHPで載せた。「To achieve a better outcome, the world must act jointly and swiftly to revamp all aspects of our societies and economies, from education to social contracts and working conditions. Every country, from the United States to China, must participate, and every industry, from oil and gas to tech, must be transformed. In short, we need a “Great Reset” of capitalism.(より良い結果を達成するために、世界は、教育から社会契約および労働条件に至るまで、私たちの社会および経済のすべての側面を改革するために、共同で迅速に行動しなければなりません。 米国から中国まで、すべての国が参加しなければならず、石油、ガスから技術まで、あらゆる産業が変革されなければなりません。 つまり、資本主義の「大いなるリセット」が必要です。)」とある。「a “Great Reset” of capitalism」なのである。後段には「According to the Financial Times, global government debt has already reached its highest level in peacetime. (フィナンシャル・タイムズによると、世界の政府債務はすでに平時で最高水準に達しています。)」とも書かれている。果たして、米国大統領は、「リセット」を早めようとしているのだろうか?
都忘れ