秋が次第に深まって来て、釜石では1日の気温差が10度にもなって、夜はセーターを着るようになった。自然は毎年変わらないかのように一見同じような風景を見せてくれる。自然だけではなく、人々の暮らしも変わらないように過ぎている。東北へ初めて来て、東北の自然に感動し、そんな自然の東北の歴史にも興味をそそられた。都会の喧騒から解放された環境にいると、かえって世の中の動きが見やすくなる。次第に世の中の動きにも心を動かされるようになった。特に近年は日本や世界の経済にとても特異な状態が続いており、世界にパラダイムシフトが起ころうとしていることが見えて来た。今後5〜10年のうちに世界は大きく変化するだろう。歴史を振り返れば、全ての超大国は必ず凋落し、新たな超大国に変わっている。現代の超大国、米国もやはり例外ではない。米国は世界一の経済大国であると当時に、世界一の軍事大国でもあるが、所詮はその軍事力も経済力に支えられたものであり、経済大国であるが故の軍事力である。そして、経済力の柱は自国通貨が基軸通貨であることだ。基軸通貨とは簡単に言えば、世界通貨である。世界のどこへ行ってもドルが使える。物を買ってドルを差し出して、拒否されることはないだろう。そのドルはただ印刷しただけの紙切れでしかないのだが。ただの紙切れでしかないのは無論ドルだけではない。しかし、全ての通貨が紙切れであっても世界で通用するのは基軸通貨ドルだけである。何故、ドルだけなのか?それは主要国がドルを基軸通貨として、つまり世界通貨として認めているからだ。ドルを信用して来たからだ。では、そのドルへの信用が揺らぐとどうなるか?1920年代に、それまでの超大国、大英帝国の通貨ポンドが信用を失い、ポンドに替わってドルが信用を集めるようになり、1944年に国際通貨基金IMFが設立され、同じ年のブレトン・ウッズ会議で、ドルが基軸通貨となって以来、米国は「とてつもない特権」を享受して来た。「とてつもない特権」という言葉は、米国の経済学者カリフォルニア大学バリー・アイケングリーンBarry J. Eichengreen教授の著書『とてつもない特権 君臨する基軸通貨ドルの不安』で使われた言葉だ。ドルは基軸通貨である特権で、海外から安い金利で制限なく借金が可能であった。財政赤字21兆ドルも、対外的な経常収支赤字32兆ドルも全て海外からの容易な借金で拡大して来た。これだけの借金を抱えても、これまではドルへの信用が維持されて来た。しかし今、そのドルへの信用が大きく揺らぐ事態が密かに進行して来ている。米国の現在の大統領は、本来、不動産屋であり、大統領になる前には、日系4世の投資家ロバート・キヨサキと何冊かの共著を出し、ドルの価値の低下を主張していた。大統領になると、今貿易戦争を仕掛け、同盟国にも強引な姿勢を取っている。もともと欧州では英国は別として、フランスやドイツは必ずしも米国を信頼仕切っていなかった。欧州は1968年の関税同盟から始まって、ドルとは距離を置いて、ユーロと言う欧州の共通通貨を設けた。新興国としての大国、中国も自国通貨、人民元の国際化を狙っている。しかし、これまではいずれの通貨もまだ国際化には距離があった。ところが、米国大統領が貿易戦争を仕掛けたり、イラン核合意から離脱し、イランと取引する欧州企業への制裁を打ち出したために、欧州はイランとの取引で独自の決済システムを構築すると先月決めた。中国も米国への輸出に関税をかけられることを避けるために、ユーラシア大陸内での取引を加速させる方向にシフトせざるを得なくなった。つまり米国大統領は、自ら他国のドル離れを促進しているのだ。さらに米国内では2008年以上に債務で膨らんだバブルがいずれ近いうちに弾ける。投資銀行のJPモルガンでさえ、「連邦準備理事会(FRB)が2019年までに四半期ごとに金利を上昇させるとすれば、実質金利は2019年中頃にレッド・ゾーンに入るだろう。」と予想していることを14日のBLOOMBERGが伝えている。金利上昇は債務で膨らんだ株式だけでなく、債券にも打撃を与え、世界の債券が1週間で100兆円の価値を失っている。これほどの価値の低下は40数年間なかったことだ。世界恐慌をはじめ過去の金融危機は金利上昇で引き起こされて来た。次のバブル崩壊は歴史上かってない規模であるため、米国経済は極めて厳しい状況に追い込まれ、世界にもそれは波及する。これによりドルの凋落は決定的になるだろう。大統領は自国中央銀行の金利引き上げを先週水曜日に「Crazy」と批判したが、これは来月の中間選挙を勝ち抜くために、やがて来る金融危機の責任を中央銀行のせいにするためである。別に中央銀行に圧力をかけているわけではない。対米従属一辺倒の日本や日本の円は国際的には問題外だ。
アキアカネ