まるで梅雨の時期のような日々が続いている。市街地周辺の山々には常に霧が立ち込めている。勢いよく降るよりも霧雨のような雨の日が多い。夏の日射しが途切れた中でも、職場の裏山では藪椿の大樹をはじめ、多くの木々が葛(くず)の葉で覆われてしまった。今では雑草として嫌われものになってしまったが、葛は根や蔓や葉など全てが人々の暮らしに用いられていた。中国では紀元前4300年頃の遺跡で、葛の蔓から得られた繊維で織った布が発見されている。日本の縄文時代もやはり葛の蔓の繊維を利用した布が使われている。万葉集にも葛布を詠った歌がある。「をみなへし佐紀沢の辺の真葛原いつかも繰りて我が衣に着む」この歌を含めて葛を詠った歌が万葉集には21首ある。757年に成立した養老律令では葛布を皇太子を表す黄丹に染めている。また、葛布は官位十二階の上五階までが染め方が定められている。葛の根は葛粉として、葛湯や葛餅などに使われ、晩夏から秋に咲く濃赤紫色の花と共に漢方にも利用されている。柔らかい蔓先や若葉、花は天ぷらとしても食べられる。かっては葉は馬や牛の飼料としても使われた。葛にはイソフラボンやサポニンが豊富に含まれている。とても繁殖力の強い植物で、それだけに利用されない葛は雑草として見ると、除くのにとても厄介な植物となる。裏山の葛の蔓をよく見て見ると、蔓から葉が伸び出している辺りに、3〜4本の極く細い枝が出ており、最初はそれらはまっすぐに伸びているが、支えとなる他の木の枝に行き着くと、その枝に巻き付き、伸びた極く細い枝全体がコイル状になり、しっかりと蔓を支えている。バネのようになり、大きな葉が風に吹かれて、蔓が不安定にならないようにしっかり弾性を保ちながら、蔓を支えている。これを見た時、少し感動してしまった。まさに自然の妙である。以前、パキスタンの秘境、長寿村のフンザについて書いた。春には渓谷に杏の花が咲き乱れ、桃源郷と呼ばれる。フンザの人々は杏の実と種を乾燥させて、日常的に食べている。しかし、種には分解されると毒である青酸となるアミグダリンと呼ばれる成分がたくさん含まれており、医学的には好ましくないとされる。日本だと梅の種にも同じようにアミグダリンがたくさん含まれている。しかし、地方によってはその梅の種も殻を割って食べる。自然との共生が長く続いて来た環境では、人は何が身体の健康を保ってくれるか、自然から一番よく教えられるのかも知れない。
裏山の木々を覆い尽くす葛
葛の葉
駐車場のフェンスにまで絡み付く葛