時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

希望は遠く海の彼方:地中海難民・移民の苦悩

2016年12月03日 | 終わりの始まり:EU難民問題の行方

 

復活する移民・難民アフリカ・ルート
今日、地中海を超える移民・難民ルートは大別して3つある。
1)東ルート  エーゲ海を渡り、ギリシャへ
2)中央(イタリア)ルート  リビアからイタリアへ
3)西ルート  チュニジアなどからポルトガル、スペインへ
Travelling in hope, The Economist October 22nd 2016 

 

新たな道を求めて
 昨年来のヨーロッパを目指す難民・移民の大移動で世界に広く知られることになった「バルカン・ルート」は、いまや閉ざされてしまった。あの大脱出 Exodus ともいわれた人の流れはほとんど見られなくなった。それでも、あえて危険を冒しても、このルートを辿る人たちもいるが、多くは別の道を探し求める。その道は、すでに知られている。アフリカのリビヤあるいはチュニジアなどの沿岸から地中海を渡り、イタリアやポルトガルを経由し、ドイツなどヨーロッパを目指すルートだ。これにもいくつかの経路がある。

 これまでこのルートを辿ったのは、ほとんどアフリカ内陸部ソマリアやナイジェリアなどからヨーロッパを目指すアフリカ系移民、難民であった。そこへ、シリア、アフガニスタンなど中東紛争国からの難民・移民が加わった。

 IT時代、ある経路が閉ざされると、人々は新たな情報を求め、必死に他の経路を探し求める。スマートフォンひとつが彼らの命をつなぐ。

   昨年は百万人を越える人々が地中海を渡った。際立って大きな流れは、トルコ経由でギリシャへ渡った85万人近いシリア難民だった。この突然の流入は、ヨーロッパの難民救済システムを崩壊の一歩前まで追い込んだ。

遠い解決への道
 この問題の究極の解決は、紛争の根源である彼らの祖国における内戦の集結以外にはない。それはいつになったら達成できるか、まったく光は見えない。人々は戦火に家を焼かれ、家族を失い、故国を捨てる。

 EUはトルコのエルドガン大統領と協定を結び、ギリシャへ渡ろうとする流れをなんとかトルコで引きとどめようとした。しかし、その後のクーデターの失敗などを経て、エルドガン大統領は一段と専横的になり、この協定が果たして守られるか、見通しは暗くなっている。ギリシャへの渡航成功者は今年8月には2月の55,000人から3,000人に激減したが、最近エルドガン大統領は自国のEU加盟を早めないなら、ヨーロッパへ向けて再び国境を開くと脅迫まがいの発言をしている。

危ういアフリカからの海路  
 アフリカに目を転じると、かつてリビアをカダフィ大佐が支配していた頃は、海上に出た難民を軍艦で送り戻していた。しかし、カダフィが2011年に死去すると、EUとの協定は壊れ、2012年にはヨーロッパ人権裁判所は彼らをリビアへ送り戻すのは人道的な違法とした。

  2013年イタリア政府は、Operation Mare Nostrumという難民救済システムを発足させた。これについて、イギリス政府はこうした救済はかえって移民を志すものを増加させると反対した。実際にはこうした危険な旅を試みる者は増加し、海上での溺死者などが増加した

  2015年には、ソフィア作戦と名付けた対応で人身売買業者の小さなボートに満載状態で、イタリアを目指す人々への対応が動き出した。

 シリア、アフガニスタンなどからの中東難民・移民を別にすれば、多くはアフリカ大陸の奥地からやってくる。その経路には、宿舎、車、ブローカーなどさまざまな密航へつながる手段がそろっている。いうまでもなく、手配をしているのは、ヨーロッパという一筋の希望にすがる難民・移民をビジネスの対象とする悪質なブローカー、トラフィッカーである。彼らは、言葉巧みに密航希望者をその術中に誘い込み、多額の金品を奪い取る。

 これらの拠点のひとつは、上掲地図のほぼ中央に位置するニジェールの Agadez である。サワラ砂漠を超える直前に位置する人口約12万人の砂漠の中の都市である。IOM(国際移住機構)によると、今年の2月から9月の間におよそ27万人がここを通過したと推定されている。人身売買などにかかわる業者は、渡航希望者が多く集まる拠点で活動している。

 本年8月からニジェール政府はこうした業者を犯罪取り締まりの対象としたことで、渡航者の数は表面的には減少している。しかし、危険な砂漠を越え、海も渡る移民・難民は各所でブローカーの手を借りねば、目的を達成することは到底できない。


終わりなき旅路
 密航希望者はブローカーに高額な金を手渡し、彼らの手引きで砂漠を通り、地中海沿岸にたどりつく。いかに海が荒れても、彼らには戻るところがなくない。これからの季節は海が荒れ、密航は危険が増す。しかし、新年になり海が穏やかになれば、再び密航の船が増える。

 人道的観点から、彼らを救出し、収容することは、EU諸国にとっては思いがけない結果につながる。海上での救出体制が充実するほど、難民・移民にとって危険度は減少する。地中海を渡りきることのできない老朽ボートで洋上まで乗り出し、ITなどの手段で近くを航行中の船舶、救援組織に救助を求めることが増えてきた。通報を受けた当事者としては、救助を求める人々を目前にして、彼らを見殺しにすることはできない。直ちに救援に当たり、イタリアなどの収容施設へ向かう。彼らの中で難民の認定を受ける者はきわめて少ない。残りは不法移民の判定となるが、その多くは帰国することなく、イタリアなどの不法就労の世界は紛れ込んでしまう。しかし、この予期せぬ悪循環を断ち切る術は未だ見つかっていない。

Source: 
"Traveling in hope" The Economist October 22nd 2016

 


お知らせ(2016/12/08)

関連資料として『終わりなき旅:アメリカ移民制度改革展望』を政策検討フォーラム (2016年11月17日)に掲載してあります。 筆者の講演資料ですが、最近のアメリカ移民制度改革の主要点を展望しています。近く改めて論説として拡充掲載予定。

 

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