短歌味体 Ⅲ | 日付 |
短歌味体Ⅲ 602-604 グローバルシリーズ | 2016年02月25日 |
短歌味体Ⅲ 605-608 春シリーズ | 2016年02月26日 |
短歌味体Ⅲ 609-611 言葉の渡世シリーズ・続 | 2016年02月27日 |
短歌味体Ⅲ 612-614 ほっと一息シリーズ・続 | 2016年02月28日 |
短歌味体Ⅲ 615-618 百人シリーズ | 2016年02月29日 |
短歌味体Ⅲ 619-621 音遊びシリーズ | 2016年03月01日 |
短歌味体Ⅲ 622-624 百人シリーズ・続 | 2016年03月02日 |
短歌味体Ⅲ 625-627 わかれ目シリーズ | 2016年03月03日 |
短歌味体Ⅲ 628-630 わかれ目シリーズ・続 | 2016年03月04日 |
短歌味体Ⅲ 631-633 物語論 シリーズ・続 | 2016年03月05日 |
短歌味体Ⅲ 634-636 見てるだけシリーズ | 2016年03月06日 |
短歌味体Ⅲ 637-640 即興シリーズ | 2016年03月07日 |
短歌味体Ⅲ 641-643 ずれシリーズ | 2016年03月08日 |
短歌味体Ⅲ 644-647 どうしたものかシリーズ | 2016年03月09日 |
短歌味体Ⅲ 648-650 どうしたものかシリーズ・続 | 2016年03月10日 |
短歌味体Ⅲ 651-653 即興シリーズ・続 | 2016年03月11日 |
短歌味体Ⅲ 654-656 即興シリーズ・続 | 2016年03月12日 |
短歌味体Ⅲ 657-659 即興シリーズ・続 | 2016年03月13日 |
短歌味体Ⅲ 660-662 シミュレーションシリーズ | 2016年03月14日 |
短歌味体Ⅲ 663-665 シミュレーションシリーズ・続 | 2016年03月15日 |
短歌味体Ⅲ 666-668 即興シリーズ・続 | 2016年03月16日 |
短歌味体Ⅲ 669-671 即興シリーズ・続 | 2016年03月17日 |
短歌味体Ⅲ 672-673 物語シリーズ | 2016年03月18日 |
短歌味体Ⅲ 674-675 | 2016年03月19日 |
短歌味体Ⅲ 676-678 言の葉シリーズ | 2016年03月20日 |
短歌味体Ⅲ 679-681 言の葉シリーズ・続 | 2016年03月21日 |
短歌味体Ⅲ 682-684 入口シリーズ | 2016年03月22日 |
短歌味体Ⅲ 685-687 グローバルシリーズ・続 | 2016年03月23日 |
短歌味体Ⅲ 688-690 入口シリーズ・続 | 2016年03月24日 |
短歌味体Ⅲ 691-693 世界視線シリーズ | 2016年03月25日 |
短歌味体Ⅲ 694-696 誰にでも通じるかなシリーズ | 2016年03月26日 |
短歌味体Ⅲ 697-700 | 2016年03月27日 |
[短歌味体Ⅲ] グローバルシリーズ
602
風吹き来るブローブリュー
ブロウン
世界中を巡りに巡り
603
方々の土は言葉の
花開き
夜は岩盤の同一夢を見る
604
手を出してネコと遊ぶ
つもりが
思わぬ所(赤)ズキズキズッキン
註.(赤)は、置き字で読みません。
[短歌味体Ⅲ] 春シリーズ
605
生き物はみな感知する
崩れ出し
押し寄せ来る柔らかな春波
606
なみなみと注(つ)がれてなくても
下水(したみず)の
ようようと染み渡る春波
607
春波寄せものみなすべて
肌ふるる
耳目より速く染み匂い立つ
608
つっぱる根がはる芽がはる
手がはる
ふくよかにはる春の岸辺
[短歌味体Ⅲ] 言葉の渡世シリーズ・続
609
言葉にムチ当てなくても
自然に溶け
響き合い眠る静かな部屋がある
610
走り出しギャロップになっても
手綱締め
〈あい〉が〈愛〉に急変はしない
611
歩み出す ぶんぶんぶん
歩みは続き
〈ぶんぶんぶん〉言葉の路に入る
[短歌味体Ⅲ] ほっと一息シリーズ・続
612
実際に穴掘っていたら
あ、横道も
あるじゃん、ふいと道が開ける
613
自転車に初めて乗る
知らなかった
こんなにも柔らかな風の
614
人の世はあくせくあくせき
自力の走法
宇宙では他力の人間(ひと)よ
[短歌味体Ⅲ] 百人シリーズ
615
〈あっ 火の鳥だ〉と耳捉えても
ひとりは
後ろへ駆けゆきひとりは盆栽に
616
〈みんな知ってるよ〉と耳にしても
百人
みんなが知ってるとはかぎらない
617
〈避難せよ〉と警報出て
でんぱする
ひとりは山へひとりは川へ
618
ひゃくにんの濃度及ぶよ
島々に
等質の宇宙巡るように
註.「世論調査」というものをちらり思い浮かべて。
[短歌味体Ⅲ] 音遊びシリーズ
619
いちごにごさんご量り越え
日差し赤
赤夕日の海に沈みゆく
620
ぷるぷるとあまえび淡く
照り映えて
ふれる視線はあまく折れ曲がる
621
かまくらの灯り見てると
くらくらと
おもいは飛ぶよ「北の国から」
[短歌味体Ⅲ] 百人シリーズ・続
622
百人の匂い立つ色
一色(ひといろ)も
千差万別(いろいろ)あり千変万化(めまぐるしい)よ
623
色々と色決めかねて
とりあえず
揺れ揺られつつ苦海に舟出す
624
街路には服も色々
咲き出して
百人町も華やぐ春は
[短歌味体Ⅲ] わかれ目シリーズ
625
なべの中だいこんやにんじん
しゃべってる
とってもふしぎとは思わなかった
註.小学校低学年の頃、図書室での映写の授業だったと思う。まだ幻灯機と言ってたか。
626
いつの間にかサンタクロースは
ベール溶け
三太苦労す物語の始まる
627
あの一縫い余分なかったら
はるうらら
さらさらさらと歩み過ぎたのに
[短歌味体Ⅲ] わかれ目シリーズ・続
628
人はみな生まれ出るより
わかれ目の
峠を越えこえを限りに内向す
629
越えゆけば後振り返る
わかれ目は
際だってイメージばかり細る
630
大人になり小学校に踏み入って
座ってみた
椅子の異和感例えようもなく
[短歌味体Ⅲ] 物語論シリーズ・続
631
幻の時空を自在に
飛翔する
と見えて主の引く手に付き添う
632
造花でも滴したたる
花のように
幻の朝が降りて来る
633
深みからふかいふかい殻
ふるえる
突き抜け来る無意識の叫び
[短歌味体Ⅲ] 見てるだけシリーズ
634
見てるだけナノなのにざわ
ざわざわわ
目の差し伸べるじれったいぞ〈手〉
635
見てるだけと言ってもずん
ずんちゃちゃ
奥深い部屋でステップを踏んでいる
636
見てるだけでさざ波立ち
草なびき
涙に滲(にじ)む丘陵(おか)に静かに立っている
[短歌味体Ⅲ] 即興シリーズ
637
ほんとはかんたんなこと
なのぬねに
始まり遙か糸糸糸の
638
一言が道案内の
面倒さ
に入り込んで前前右……
639
一言が道案内の
面倒さ
迷い込んでメドゥーサ!
640
閉じていく「異議はないですか」
吸い込む
風圧に黙って踏み耐えている
[短歌味体Ⅲ] ずれシリーズ
641
普通に声も言葉も
出ているが
ふと気づけば手足そろって歩いてる
642
銀行員じゃないんだから
十円
ぐらいちゃちゃちゃのちゃ鼻歌歌う
643
銀行員になったつもりで
アジアの
軍隊の行進を観てしまった
[短歌味体Ⅲ] どうしたものかシリーズ
644
今年は40個だけの
まばらな
夏みかんどうしたものか
註. 父の遺した果樹のひとつである一株の夏みかんの。何年か放っていたが、ここ五六年収穫して夏みかんジャムを作っている。例年は100個ほど夏みかんがなっている。 |
645
夕暮れにどうしたものか
カーナビ
なしの手作業に霧中(むちゅう) あっ月。
註.農作業していて。
646
飢饉がイナゴの大群のように
伝播する
救荒作物(あれ)でいつまで……どうしたものか
註.遠い時代を思いつつ。
647
プリクラでつるつるつるんと
写っても (しょぼ)
まだまだまだだどうしたものか
[短歌味体Ⅲ] どうしたものかシリーズ・続
648
歯が痛む世界は一色
赤々と
安らぐ椅子を奪い続ける
649
知らぬ間にトゲトゲ波は
暗転し
痛みの記憶夢に溶けてる
650
約束の日にちまでには
そこに立つ
加速加加速減中加速
[短歌味体Ⅲ] 即興シリーズ・続
651
鼻歌のしらずしらずの
角曲がり
あらあ こんなとこにこんなものが
652
ええっとね ミーちゃんはね
マーちゃん
ミーちゃんのね マーちゃんミー
653
庭に来る鳥のしぐさの
今日はまだ
みかんがないねと言ってるような
[短歌味体Ⅲ] 即興シリーズ・続
654
ああ そおか そおだったねえ
見上げれば
寒空遥か鳥の飛びゆく
655
椅子からふっとずり落ちた
心は今
はない柱時計(とけい)の振り子と揺れる
656
シーソーのガッツンする
ことのない
揺れ揺らる朝は春の微風の
[短歌味体Ⅲ] 即興シリーズ・続
657
外見にはなんてことない
カップでも
共に山越え小皺もある
658
訪れる他人(ひと)には圏外
見え聞こえ
の向こうにはなだらかな丘陵地(おか)の
659
岩ないと伝わらぬ水
があり岩
なくてもあっても伝わる水の
[短歌味体Ⅲ] シミュレーションシリーズ
660
本番のずっと前から
セリフに入り
しぼんだ風船と成り果て休む
661
ヒコーキに乗ってる積もりが
シームレス
危うい岩肌通り抜け出る
662
紙を次々に折り畳む
だんだんと
苦しさ増すよ 山登り詰む
[短歌味体Ⅲ] シミュレーションシリーズ・続
663
小さい子がママゴトしてる
ぶつぶつと
何か唱えつつ手足動かす
664
ええっと…司会が言って
次の次
まずは「おめでとう」……そんでそんで
665
知りません十年後(さき)のことなんか
保険の
確率分布の滲んだ手の伸び来る
[短歌味体Ⅲ] 即興シリーズ・続
666
おお寒は記憶の方へ
退いて
春の花びら舞い落ち始む
667
衣更え近くなりなりて
蟻さんの
手こする音の聞こゆるような
668
蟻さんの不明の高度
よじ上り
幻の世界線を拡張す
[短歌味体Ⅲ] 即興シリーズ・続
669
スピードを上げても伝う
漂い
流る朝の気配に「おざーす」
670
異国語は知らず知らずに
「しゃらっぷ」
こちらの軒下重力下
671
じゅげむの魂の地形
たどり来て
ゆっくり腰上げ「彼は」と語り出す
[短歌味体Ⅲ] 物語シリーズ
672
明け方に鶏鳴く声は
消え果てて
失意の内に幻聴する者ある
註.新聞の事件の記事を読みながら、聖書のイエスの予言思い浮かべつつ、不可避の悪ということを思う。 |
673
ひとつ道へ羊のように
促されるも
心の地面にはただ異邦の文字の
註.「私の胸の奥の白絹に、なにやらこまかい文字が」(「父」太宰治)を思い浮かべつつ。 |
[短歌味体Ⅲ]
674
お腹の深みの方から
声は出さない
朝 曇り 今日もまた舟を出す
675
やわらかな雨に濡れる木々
や草花の
ゆったりと飲む朝のコーヒー
[短歌味体Ⅲ] 言の葉シリーズ
676
ぐるぐると巡りに巡り
ふいと踏む
ふいごの音に春溶け匂う
677
さわさわと幹揺すっても
落ちてくる
ものはなく深、静まり返る
678
葉脈のみどりの道を
たどるとき
言の葉揺れて影差して来る
[短歌味体Ⅲ] 言の葉シリーズ・続
679
言葉へと喜怒哀楽の
葉となって
音楽のように鳴り響きうねる
680
言葉たち手品みたいに
瞬時に
変身する 鳥・舟・水・火
681
どこからか言葉舞い上がり
どこかへ
落ちていく感情線を通り
[短歌味体Ⅲ] 入口シリーズ
682
入口では遙か太古と
同(おんな)じに
こんにちわなど言い掛け通さる
683
入口がホームグランド
でないならば
周囲の気配に触手伸ばしてる
684
入口では白、手ぶらでも
日々巡り
日差しに焼けてゆったりと出て来る
[短歌味体Ⅲ] グローバルシリーズ・続
685
グローバル政経巻きこみ
我らにも
津波のように大地を寄せ来る
686
硝煙染み込んでいても
われらは
ラフな普段着でグローバルに出会う
687
肌色や言葉風俗
違っても
遙か遙かのアフリカの同一夢(ゆめ)
[短歌味体Ⅲ] 入口シリーズ・続
688
入るのはとても簡単
足抜けは
干潟抜け行くに似て 集団の
689
入るも去るも大道無門
と言ってても
去り際に互いの水の重く濁る
690
感情は個々の出入り口
とは言っても
太古からおんぶお化けのように
[短歌味体Ⅲ] 世界視線シリーズ
691
バンジーの視線ゆらゆら
迫り来る
ピカソの風景掻き分け流る
692
見渡して衛星の高度から
のぞき込む
目くるめく(遙か太古からの)時間の深み
693
ホラホラ、これが世界視線
突き抜けて
死後の表情までもが見える
註.「世界視線」 「ランドサット映像が世界視線としてあらわれたことの意味は、わたしたちがじぶんたちの生活空間や、そのなかでの営みをまったく無化して、人工地質にしてしまうような視線を、じぶんたちの手で産みだしたことを意味している。この視点はけっして、地図の縮尺度があまりに大きいために細部を省略しなくてはならなかったとか、さしあたり不必要だから記載されなかったということではない。ランドサット映像の視線が、かつて鳥類の視線とか航空機上の体験とかのように、生物体験としての母胎イメージを、まったくつくれないような未知のところからの視線だということに、本質的な根拠をもっている。いわば、どうしても人間や他の生物の存在も、生活空間も、映像の向う側にかくしてしまう視線なのだ。」(『ハイ・イメージ論Ⅰ』「地図論」P155 吉本隆明 ちくま学芸文庫) |
[短歌味体Ⅲ] 誰にでも通じるかなシリーズ
694
頃合い超えて立ち合えば
いくつもの
ザボンはや落ちて草に埋もるる
695
椅子取りのゲームでさえも
はぐれた子
言葉を超えて佇む峠
696
「八時だね」「うん八時だよ」
暗転の朝
八時の駅は見知らぬ人ばかり
[短歌味体Ⅲ]
697
例えば買ったばかりの
靴履いて
約束の地へ足早に行く
698
新しい靴にふれふる
肌合いの
気に懸かりつつ橋を渡る
699
初めての店に入る時
幻の
バリアフリーをふと思い浮かぶ
700
よそ行きはふだんぎ着てても
よそ行きの
心模様の絞り染めつつ