福島第1原発 1号機注水9割漏出か 現場、水圧で認識
東京電力福島第1原発事故で、電源喪失後に1号機原子炉へ注入した冷却水の約9割が途中で漏れていた疑いのあることが、東電の社内テレビ会議の録画映像で分かった。現場は消火栓の吐出圧で漏出を認識していたとみられる。原子炉へ水が十分入らなかったため2011年3月20日から22日にかけて炉心損傷が進み、放射性物質の拡散につながった可能性がある。
東電は11年3月12日から、建屋の消火設備ラインを通じて原子炉へ注水していた=図=。
テレビ会議映像によると22日午後1時半ごろ、吉田昌郎所長(当時)が本店に「1号機の注水ラインをチェックしたら、途中にある消火栓で吐出圧が0.1メガパスカルしかない」と報告。「1メガパスカルで注入しているのに途中で0.1メガパスカルということは、流出しているとしか考えられない」と述べた。
東電は消防車の送水圧力から原子炉への注水量を算出、公表しているが、吉田所長の発言は送水のほとんどが途中で漏れたことを意味する。
東北大流体科学研究所の円山重直教授(熱工学)は、原子炉の温度や圧力のデータから「1号機は20日から22日、3号機は21日から23日ごろにかけて水がほとんど入らず、空だき状態だった。入った水もすぐに蒸発した」と分析。「格納容器の破損した部分から蒸気とともに放射性物質が大量に出ていた」と指摘する。
国立環境研究所の計算では、3月20日に放出された放射性物質が風に乗って宮城県北から岩手県南に到達。雨と一緒に地上に降ったとされる。東電は20日以降の放射性物質の漏えい量と原因を「未解明」としている。
1号機は20日午後、原子炉圧力容器周辺の温度が400度近い高温と判明。原子炉へ注水できていないと考えた現場が注水ルートを調査していた。22日朝には原発内で「1号機の炉心損傷割合がここ数日増えている。水が入らずカラカラの状態の可能性が高い」との報告があった。
東電の姉川尚史原子力設備管理部長は「注水量に不確実性があることは認識している。今後、当時の炉の状態と放射性物質の拡散状況を明らかにしたい」と話している。
◎全映像公開こそ責務/放射性物質拡散解明の鍵
東京電力福島第1原発事故で、1号機原子炉への注水が機能していなかった疑いが浮上した。放射性物質の広域拡散につながった可能性のある問題で、詳細な調査が必要だ。
東電が事故直後に公表したデータでは2011年3月20日ごろから、1、3号機で注水量が激減していた。東電は11年9月、送水元だった消防ポンプの流量計の値を基に注水量を上方修正し、大量の水を入れたと発表した。
テレビ会議映像に残る吉田昌郎所長(当時)の水圧に関する発言は、修正前の注水量が実態に近かったことを示す。ほかにも東電が格納容器の損傷を早い時期に認識していたことを示すやりとりがあり、テレビ会議の映像は事故の詳細分析に役立つ資料だ。
東電は、社員のプライバシー保護を理由に映像の一部しか公開していない。多くの人がチェックできるようにして、さまざまな視点から検証を求めることが、事故を起こした企業として当然の責任ではないか。
自ら積極的に調べたり公開したりする姿勢に欠ける東電。「事故を反省し世界トップレベルの安全文化を有する組織に生まれ変わる」(広瀬直己社長)と強調しても、そうした体質を根本から変えない限り企業としての再生はあり得ない。
(解説=報道部・末永智弘)
2013年03月31日 河北新報
東京電力福島第1原発事故で、電源喪失後に1号機原子炉へ注入した冷却水の約9割が途中で漏れていた疑いのあることが、東電の社内テレビ会議の録画映像で分かった。現場は消火栓の吐出圧で漏出を認識していたとみられる。原子炉へ水が十分入らなかったため2011年3月20日から22日にかけて炉心損傷が進み、放射性物質の拡散につながった可能性がある。
東電は11年3月12日から、建屋の消火設備ラインを通じて原子炉へ注水していた=図=。
テレビ会議映像によると22日午後1時半ごろ、吉田昌郎所長(当時)が本店に「1号機の注水ラインをチェックしたら、途中にある消火栓で吐出圧が0.1メガパスカルしかない」と報告。「1メガパスカルで注入しているのに途中で0.1メガパスカルということは、流出しているとしか考えられない」と述べた。
東電は消防車の送水圧力から原子炉への注水量を算出、公表しているが、吉田所長の発言は送水のほとんどが途中で漏れたことを意味する。
東北大流体科学研究所の円山重直教授(熱工学)は、原子炉の温度や圧力のデータから「1号機は20日から22日、3号機は21日から23日ごろにかけて水がほとんど入らず、空だき状態だった。入った水もすぐに蒸発した」と分析。「格納容器の破損した部分から蒸気とともに放射性物質が大量に出ていた」と指摘する。
国立環境研究所の計算では、3月20日に放出された放射性物質が風に乗って宮城県北から岩手県南に到達。雨と一緒に地上に降ったとされる。東電は20日以降の放射性物質の漏えい量と原因を「未解明」としている。
1号機は20日午後、原子炉圧力容器周辺の温度が400度近い高温と判明。原子炉へ注水できていないと考えた現場が注水ルートを調査していた。22日朝には原発内で「1号機の炉心損傷割合がここ数日増えている。水が入らずカラカラの状態の可能性が高い」との報告があった。
東電の姉川尚史原子力設備管理部長は「注水量に不確実性があることは認識している。今後、当時の炉の状態と放射性物質の拡散状況を明らかにしたい」と話している。
◎全映像公開こそ責務/放射性物質拡散解明の鍵
東京電力福島第1原発事故で、1号機原子炉への注水が機能していなかった疑いが浮上した。放射性物質の広域拡散につながった可能性のある問題で、詳細な調査が必要だ。
東電が事故直後に公表したデータでは2011年3月20日ごろから、1、3号機で注水量が激減していた。東電は11年9月、送水元だった消防ポンプの流量計の値を基に注水量を上方修正し、大量の水を入れたと発表した。
テレビ会議映像に残る吉田昌郎所長(当時)の水圧に関する発言は、修正前の注水量が実態に近かったことを示す。ほかにも東電が格納容器の損傷を早い時期に認識していたことを示すやりとりがあり、テレビ会議の映像は事故の詳細分析に役立つ資料だ。
東電は、社員のプライバシー保護を理由に映像の一部しか公開していない。多くの人がチェックできるようにして、さまざまな視点から検証を求めることが、事故を起こした企業として当然の責任ではないか。
自ら積極的に調べたり公開したりする姿勢に欠ける東電。「事故を反省し世界トップレベルの安全文化を有する組織に生まれ変わる」(広瀬直己社長)と強調しても、そうした体質を根本から変えない限り企業としての再生はあり得ない。
(解説=報道部・末永智弘)
2013年03月31日 河北新報