第43代紫組要領次第

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救急車の有料化がもたらす効果には何があるのだろう

2011-07-13 14:47:47 | Weblog
医師の友人が、(おそらく象徴的な事例として、)救急車のタクシー化現象を憂えていた。ここでは、「救急車のタクシー化」については「大した用事でないのに、そして、おそらくそれを本人が意識しているのにもかかわらず、病院に行きたい、でも自分で行くのはめんどくさい、じゃあ救急車呼んじゃえ、という流れで救急車を呼ぶこと」と定義しておこう。彼が医師として持っている、現代の医療が持っている種々の非効率に対する憤り、さらには彼が持っている医療の質の低下への懸念、に対しては心から理解と、その努力に敬意を示す。とともに、ここでは、一般に話題にあがってくる、救急車の有料化がどういう効果をもたらすかについて、一つの知見を紹介しておこう。

本問題に対しての有効策はあるのだろうか?ということに対してこういう主張がたまになされる。それは、「救急車を有料化すべきである。」という主張だ。この主張は「救急車は現状では公共財(正確には準公共財の中のコモンズ※ですな)であり、利用価格がゼロである。価格がゼロであるから消費量が多すぎて、混雑現象を引き起こして社会的に望ましくない状態になっている。だから有料化にして、消費量を減らすことで解決できる。」という前提に基づいている。

※コモンズとは、だれでも使用できるけど、使用しすぎるとだんだん混雑していまいちな状態になること。詳細な説明は省略。要するに道路のイメージ。道路ってだれでも無料で使えるけど、みんなが使うと渋滞していまいちになるよね。救急車もだれでも無料で使えるけど、使いすぎているから、救急車が不足してしまっている(のかな?現状の調査はしていないのでわかりません。まあ、とりあえずそうだとする。)。

(もちろん有料化については、「一律有料化すると本来なら救急車を呼ぶべき患者が呼ばなくなって、不利益をこうむることがあるかもしれない。かわいそー」などの、まあ、朝□新聞みたいな議論(笑)がなされるかもしれない。さらにそうした反論に対してさらに「悪質な利用を同定してそういうひとから料金を取ればいいじゃないか」という再反論が、まあとにかくいろんなアイデアがそれこそアイデアベースで出てくるだろうけど、まあそういうところはここでは扱わない。そういう朝□新聞(笑)みたいな議論は朝□新聞(笑)に任せておく。ここで書きたいのは以下のこと。)

そもそも有料化が、救急車需要を減少させるだろうか?この点について一度立ち止まって疑問を投げかてみる人が意外と少ない。という、その点について共有しておきたい論文がある。紹介しておこう。本来なら論文自体にアクセスしてちゃんと読みたいのであるが、今は無職に付きアクセス権がない。(嗚呼早く大学に戻りたい)。ただ、そのエッセンスがミクロ経済学(奥野)に書かれているので、それに基づいて書く。

そこに書かれているのは、保育園の遅刻問題、である。「遅刻問題」とは、以下のよう。

本来、親は閉園時間までに迎えにこないといけない。その時間を超えた場合、職員の帰宅が遅くなる。子供だからその辺に放置して明日来てください、と張り紙をして職員が帰ってしまうわけもいかず、ひたすら職員(とその子供)親の迎えを待たなければならない。これは、困る。しかし、罰則は定められておらず、職員は、はてどうしたものか、と悩んでいた。

そこで導入された、罰金制度。遅刻すると時間に応じてお金を取る。

この構図は救急車の有料化の構図に似ている。「もともと遅刻分の保育については無料でサービスを提供していた。」→「無料だからみんなが甘えるんだ」→「だから有料化すれば遅刻する人は減るに違いない」

どういう結果が起きただろうか?
それは、遅刻が増加したってことだ。

預ける親の考え方としてはこうである。

「遅刻したら罰金、か。」→「罰金は料金みたいなもので、むしろ、遅刻サービス代?」→「罰金払えば遅刻していい」→「今までは遅刻はなんだか気まずい感じがしていたけど、これからは払えば大手を振って遅刻できる」→「よし払おう」→遅刻が増える。

参照したい方はGreezy(2000)のA fine is a price を見てください。(自分は見れていないけど。自分はミクロ経済学(奥野)を参照しました。かなりいい本です。)

なにが言いたいか、というと、罰金導入前までは、社会規範が意外と遅刻の抑制に役に立っていたということだ。ここが面白いね。そして、この保育園の構図と救急車の構図が似ていることから類推するに、救急車の有料化は必ずしも、利用の抑制(っていうと怒られるね)、利用の適正化(日本語って難しいねw)をもたらすとは限らないのではないか。「ああ、救急車って一回につき、○千円払えば使っていいのね。じゃあ呼ぶかなあ。」「うーん、救急車を呼ぶかどうか悩むね。でも、なんだか明日まで待つのも心配だから、この状況を考えると○千円だったら安いもんだ。、使おう。」という人が増えるかもしれない。それによって、全体的な需要が増加する可能性もある。


遅刻=社会規範に反するからやらないようにしよう

という保育園を利用する親たちの意識が

遅刻=料金を払えば提供されるサービス

と変わってしまうことがこういうことを生み出すんですね。

面白いね。

できれば、こうした先行研究を踏まえて、望ましい政策提案を書けたりしたらおもしろいんだけど、どうもこのテーマをおもしろく切り込む視点がまだ見つかっていないから、そういう生産的なことは今後の課題としておく。

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