モルモニズムの情報源、主要な主題を扱うサイト。目次を最新月1日に置きます。カテゴリー、本ブログ左下の検索も利用ください。
NJWindow(J)




[交差対句法の例]

1 交差対句法とは
 交差対句法というのは主として旧約聖書の韻文にあらわれる修辞
法の一つで、表現される思想があるいは語句がたすきがけのように、
配置されるものをいう。例えば次のようなものがある。

   a わが思いは、 b あなたがたの思いとは異なり
          X
   b’あなたがたの道は、 a’わが道とは異なっている (イザヤ 55:8)

(ヘブライ語原典の語順による。KJV, RSV, NEBなど多くの英文翻訳
もそれに従っている。邦訳聖書は2行目の要素を逆にして「わが道
はあなたがたの道とは・・」と普通の順序にしている。) 配置がX
のようになっているので、ギリシャ語のχ(カイ)をとって
χιασμό ς(キアスモス)と名づけられたものである。英語ではカ
イアズマスと発音されるが、キリストをクライストと発音するのと
同じく英語読みで冒頭はやはり「キ」が自然で「ス」を濁らせる必
要もない。

 なお、旧約聖書の修辞法には他に次のような対句法(平行法
parallelism)があることを忘れてはならない。 1) 同義的 二行
目が一行目の思想を繰り返すもの、詩38:1, ヨブ6:2など 2) 対立
的 二行目が一行目と対照的なもの、詩1:6, 箴言15:1 3) 総合的
一行目の内容が二行目で完成されるか継続するもの、詩7:1, 箴言
20:1

[交差対句法について述べた資料]
1. E. Kautzsch,“Gesenius’Hebrew Grammar”1910 pp.352, 456
2. Herbert Weir Smyth, “Greek Grammar”1920 p.677
3. 松浦嘉一「CHIASMUSの様式に就いて」英文学研究 9巻第3 1929 pp.466-470
4. Nils Wilhelm Lund, “Chiasmus in the New Testament”1942, 1970 rev. 1992
5. 研究社新英和大辞典 1960 「交錯配列法」と訳している
6. 関根正雄「十二預言者」下 1967 p.193 ゼカリア9-14章の単元の配列に関して
7. Willarm L. Wonderly, “Bible Translations for Popular Use” 1968 pp.139-141
8. 寺沢芳雄他「英語の聖書」1969 p. 176 「併行体の変形」として紹介している(寺沢)
9. Sidney B. Sperry, “The Spirit of the Old Testament” 1970 p.65
10 講談社「聖書の世界 IV」1970 p.425
11. いのちのことば社「新聖書注解」1976 pp.84, 85 創世2:4 について舟喜信執筆
12 John W. Welch, ed., “Chiasmus in Antiquity – Structures, Analyses, Exegesis” 1981
13 William Ramay, “Introduction to Chiasmus” 1996-2008 http://www.inthebeginning.org/chiasmus
14 Dan Vogel, "The Use and Abuse of Chiasmus in the Book of Mormon Studies" Sunstone symposium, delivered Aug. 2001
15 Boyd F. Edwards, W. Farrell Edwards, “Does Chiasmus Appear in the Book of Mormon by Chance?” BYU Studies 43/2 2004
16 Earl M. Wunderli, "Critique of Alma 36 as an Extended Chiasm" Dialogue 38:4 Winter 2005
17 muslimwiki.com, “The Inimitability of the Qur’an” 6/14/’08 downloaded, コーランsura 3:27にchiasmus
18 A Chiasmus Archive in the L. Tom Perry Special Collections in the Harold B. Lee Library at BYU

2 ジョン・ウエルチ(John W. Welch)と交差対句法
ブリガム・ヤング法学大学院教授ジョン・W・ウェルチは、1967年
ドイツで伝道中モルモン書に交差対句法があることに気付いて、2
年後BYU紀要に論文「モルモン書の交差対句法」を発表し、一躍
注目を集めるにいたった。その後交差対句法はモルモン書と切り離
せない研究テーマの一つとなっている。ウェルチはBYU卒後オッ
クスフォード大学で古代ギリシャ・ラテン文学を(そこに含まれる
交差対句法を含めて)学び、1981年に「古代の交差対句法」という
本をドイツの出版社から出している。緒論を含め10章のうち5章を
執筆し、巻末に旧新約聖書、モルモン書などの交差対句法の索引が
あって大変便利である。交差対句法に該当するかどうか、ウェルチ
自身が判断基準をまとめている。(末尾参照)

3 交差対句法の知識の効用
旧約聖書、特に韻文を読むときに交差対句法の知識は大変役に立つ。
分かりにくい聖句や解釈に異論のある節を読むとき、交差対句法で
あることに気づけば、著者の意図した思想がはっきり読み取れて有
効である。構造の異なる日本語よりも英語諸版、ヘブライ語本文を
参照するときに正確に把握することができる。英語では倒置法が日
本語より多く許容されるためであろうか。

 例 エッサイの株から一つの芽が出、
a b c
   その根から一つの若枝が生えて実を結び  (イザヤ 11:1)
a’ b’ c’

ヘブライ語: 生える 根から 枝が 株から 芽が 出る ☜
(右から読む) a’ c’ b’ c b a - - - abc b’c’a’ の形で交差
 (モルモンフォーラム誌9号 1992年秋季号 p. 47 参照)

4 モルモン書の体裁に実現
交差対句法を含めて韻文の修辞法を配列上わかりやすくしたモルモ
ン書が2回実現している。一つは1992年ドナルド・W・パリーがFARMS
から出した「修辞法の書式によるモルモン書」(The Book of Mormon
Reformatted according to Parallelistic Patterns) で興味ある試
みであった。もう一つは 2003年イリノイ大学出版局からグラント・
ハーディが編集刊行したもので、散文と韻文を体裁上分け、段落や
章の初めに見出しをつけて読者に親切な、今日最も読みやすいモル
モン書となっている。

5 モルモン書の拡張(敷衍)説
「古代の資料を拡張(敷衍)したモルモン書」という考え方が、
1987年ブレーク・T・オストラーによって提出された(ダイアログ
誌20/1, The Book of Mormon as a Modern Expansion of an Ancient
Source)。これはモルモン書の中に19世紀初めのアメリカとジョセ
フ・スミス個人と家族の状況が反映されているとする諸説が出され
る中、様式史の視点から古代に遡るものがあると考える著者が折衷
型の説明を提出したものであった。彼自身は交差対句法の存在がモ
ルモン書を古代の書物であると証明するに足るものと見ていなかっ
たが、この修辞法の存在をもってモルモン書を古代の書物と考える
人にとってもオストラーの拡張(敷衍)説は一つの懸け橋となるの
ではないかと思われる。

6 交差対句法に対する冷めた見方(反論)
1) この修辞法はモルモン書に限られることなく教義と誓約(88:34-
38, 93:18-38, 132:19-26, 29-36)、高価なる真珠(アブラハムの
書 3:16-19, 22-28)、そのほか19世紀の数多くの作品に見られる
し、ジョセフ・スミスのエマ宛の手紙にも見られるのでジョセフ・
スミスの文体であったと考えられる。また、シェークスピアは交差
対句法をよく知っていて好んで戯曲の中に何百と用いている。従っ
て英語国民の間に少なくとも500年にわたってよく知られていた、
など。(deseretnews.com, Reader comment: ‘MormonTimes.com:How
missionary found Book of Mormon secret’ downloaded 6/14/08)
2) ウェルチなどこの対句法の長短さまざまな例を次々提示する人々
がいるが、仔細に吟味してみると必ずしも厳密な意味で思想や語句
が対応しているとは言えない、と反論する記事も最近見受けられる。

7 結語
ともあれ交差対句法をはじめ対句の形をとった聖典(特に韻文部分)
の修辞法を知っていると、著者のメッセージがそれだけよく理解で
き、モルモン書を含めて聖典の価値を感じ味わうことができる。そ
して読者は自分で本文理解を深める重要な手立てを得ることになる。

Criteria
Several factors need to be addressed before one can establish the presence of chiasmus in a given text.
1 Objectivity
2 Purpose
3 Boundaries
4 Competition with Other Forms
5 Length
6 Density
7 Dominance
8 Mavericks
9 Reduplication
10 Centrality
11 Balance
12 Climax
13 Return
14 Compatibility
15 Aesthetics
John W. Welch, “Criteria for Identifying and Evaluating the Presence of Chiasmus” Journal of Book of Mormon Studies 4/2 (1995): 1–14.




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )



« 1978年の啓示... アラビア語 中... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。