のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

忍路について

2009-08-21 | 小説 忍路(おしょろ)
 忍路と書いてオショロと読みます。アイヌ語から来たのでしょうか、文字の印象と合わせて、とても心に沁みるように広がるのです。 そしてその浸透力が伊藤整の詩に増幅され、その果てに現実の場所に立った時、それまで意識の中で膨れ上がった忍路と現実が違和感なく結びつきました。  そんな経験はまれなことです。たいていは想像が上回り幻滅するか、想像を超える現実に圧倒されるということになるのですが、それだけに忍路 . . . 本文を読む
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忍路 14

2009-08-20 | 小説 忍路(おしょろ)
 いろいろに考えを巡らせていると、ついに行かずに終わろうとしている余市に対する未練がわずかに湧き上がってきた。だがそれは、今日のうちに札幌に帰らなければならないという思をしのぐものではなく、やがて私は忍路のバス停に立っているのであった。  そこには数人の先客が並んでいた。私はこのバス停が小樽方面かどうかを訊いただけで、列の後尾で黙々と自分の世界をさ迷うのだった。  すぐ横に見えるトンネルは、ひっ . . . 本文を読む
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忍路 13

2009-08-19 | 小説 忍路(おしょろ)
 忍路の岬の付け根の所にバス停の赤い丸板のついた支柱が小さく見えていた。そこで国道が岬と直角に交差している。この岬を貫いて道は蘭島に至り、そこからさらに余市へと続いてゆく。蘭島から余市の方に向かうと、すぐにまた小さな岬があって、トンネルが穿たれている。トンネルを抜けると小さな川が流れている。  伊藤整と根見子はその川に架かる橋を渡り、海岸の方に下りて砂浜の渚を余市に向かって歩いて行ったのである。 . . . 本文を読む
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忍路 12 

2009-08-18 | 小説 忍路(おしょろ)
 現実の重みから逃れて気持ちがふと軽くなるような、そんなひと時を感じていた。見ると水面は一層深い陰りを見せ始めていた。  私はようやくそこを離れる決心をして港から目を転じた。私は人を選ばず、辺りの村人に忍路のバス停までの道を訊き、その方向に向かってあるき出した。  その道は蘭島から峠を越えてきた路とは違って、ゆったりとした真っ直ぐな坂道であった。この緩やかな登坂にはのんびり歩く人々の姿があって、 . . . 本文を読む
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忍路 11

2009-08-17 | 小説 忍路(おしょろ)
 船と網、そして礒の香りが海の男を連想させるものだとしたら、その香りの失われた質素な忍路の港に清廉な少女の面影を感じたとしても、それはあながち私の一人合点ということにはならないだろう。そんな事を考えながら私はこの港を胸一杯に開いて眺め渡した。  するといつしか、私は里依子を思っている自分に気付いた。  この港が里依子を呼び起こしたのではなかった。無論それを否定するととは出来ないけれども、それ以 . . . 本文を読む
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不思議な出会い

2009-08-16 | しあわせさがし
   お盆に田舎に帰ってきました。山の中の寒村です。毎日ほとんど何も起こりません。  そんなところに、詩人せいさんが引っ越してきました。それも私の実家の隣の空き家にです。  私の村は、人口数十人、都会に出ていくものはいても、村にやってくる人は皆無の寒村ですが、実家に帰るとこんな人が引っ越してきたよと一冊の小さな本を見せてくれた。「出会ってくれてありがとう」心のこもった書と詩で優しさと幸せ、出会いの . . . 本文を読む
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忍路 10

2009-08-16 | 小説 忍路(おしょろ)
小さな櫂の舟が浜辺の所々に引き揚げられた簡素な船着き場で、しばらくこのうっとりした湖のような港を眺めながら、私はこの忍路を最後にここを去らねばならないと考えていた。  しかしふとしたことから、私の思いは再び忍路に引き戻された。それはこの港の持っている不思議な感覚の中である一つの事実に気付いたからであった。  礒の香りがない。私がしきりに湖のようだと感じていたのは、ただ水面の穏やかさと入江の . . . 本文を読む
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忍路 9

2009-08-15 | 小説 忍路(おしょろ)
この静かな港が心をとらえるのは、黒々と眠る海面と水際の所々に不思議な岩のせいかも知れない。  その岩は蝋燭の炎のような形をして水面に立っており、見る者の心に不意打ちを与えた。近寄れば随分大きいだろう岩柱は、化石となった大木が元折れて風化したような趣があるのだ。  あるいは海岸にそって佇む質素な家のたたずまいがこの忍路の港をより印象付けているのかも知れない。それは言ってみれば、この地が観光地と . . . 本文を読む
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忍路 8

2009-08-14 | 小説 忍路(おしょろ)
小さな漁船が二艘、入江の口付近で停泊していた。暗い鏡のような海面の上に、その漁船は鉛色にうかびあがり、まるで絵を見るような心持になる。そこには心を激しく惹きつけるような不思議な物語が流れているように思われた。  二艘の漁船は互いに寄り添うようにして静まり、その情景が私の心のリズムとよく合って響きあう。私はしばらくそこから目を離すことが出来なかった。  あたかもすべてを許しあった恋人たちであっ . . . 本文を読む
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忍路 7

2009-08-13 | 小説 忍路(おしょろ)
私はそんな老婆の姿を心の方に焼き付けてそのまま通り過ぎた。まばらに立ち並ぶ家々はどれも寂滅とした感があって、そこをぬって通る小道を歩きながら私の思いもまた内の方に向って行くようであった。  様々なことを思い描きながら道をしばらく行くと、突然目の前に忍路の港が広がった。その一瞬のイメージが、私が思い描いていたものを越えた。大きすぎもせず、小さすぎもしない、心いっぱいいっぱいの港がそこにあった。 . . . 本文を読む
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