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小樽の駅から右に行くと、すぐガードの下をくぐる坂道に出、それが小樽商科大学に続く上り坂のゆったりとした坂道であった。
この坂道を、伊藤整たちは女学生とあと先にになりながら、それぞれに青春の思惑を抱いて学校に通ったのだ。遠くに向かう思いが懐かしさに似た感情を伴って浮かんできて、その思いと歩調を合わせるように私はゆっくりと坂を上りはじめた。
雪解けの水が絶えず流れ下って来るその坂道を、清楚な面持ちで踏みしめながら撫ぜるようにあたりを眺め渡した。
道に面した家並みには思い思いにショベルをもった人々があって、まだ溶けずに残っている家の周りの雪をアスファルトの道の上に投げ出していた。雪は水となってアスファルトを黒々と光らせ、細かな砂を運んでは路上に縞模様を作りながら、音もなく下へ下へと流れていく。それは何かおとぎの国のようにも思われた。
その一方で、雪かきをする人々は現実を思わせる表情で作業をこなしており、なんだか私はそちらのほうが不思議に思えるのだった。
目の前に来ている春の饒舌の中にあって、人々はもっと明るい顔をしているはずだと思うのは私の浅はかな考えなのかもしれない。
そんなことを思いながら、高みにゆくに連れて広がってくる小樽の美しい港の光景を目にすると、それはいとも簡単に私を現実から引き離し、ただ美しい世界に自分を埋没させるのだった。
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