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日本刀鑑賞の基礎 by ZENZAI  初心者のために

日本刀の魅力を再確認・・・刀のここを楽しむ

短刀 甘呂(俊長) Kanro Toshinaga

2016-11-11 | 短刀
短刀 甘呂(俊長)


短刀 甘呂

 生ぶ無銘の甘呂(俊長)と極められた、一尺をごくわずかに下回る短刀。造り込みは、南北朝頃に隆盛した小脇差。反りを控え、元先の身幅が広く重ねは比較的しっかりとしている切刃造の構造。地鉄は揺れるような板目肌に杢目が交じり、地沸が付いて地景も顕著に現れ肌模様は複雑で明瞭。刃文は浅い湾れで、形状が明確ではない。刃境がほつれ掛かり、大きく乱れる風や沸筋、砂流し、金線もそれほど多くはない。焼き幅の低さ、切刃造などから、激しい打ち合いを想定した作と思われる。甘呂俊長は近江の刀工で、同国の高木貞宗の門人。即ち相州貞宗の系流。激しい互の目よりも、本作のような控えめな湾れ刃を特徴としている。激しい乱刃だけが相州伝ではない。

短刀 藤原正弘 Masahiro Tanto

2016-11-08 | 短刀
短刀 藤原正弘


短刀 藤原正弘

 國廣の門人。國廣の甥にあたり、近しい関係から、その手足となったようだ。この短刀も、國廣に見紛う出来。同じ彫刻が師にもある。刃長は一尺七分だからこれも短刀とすべきか小脇差とすべきか迷うところ。反りが付いているので、南北朝時代を手本とした小脇差とした方が良いのだろうか。小板目状に緊密に鍛えられた地鉄は、國廣風にザングリと肌立っており、水影映りも顕著。刃文は互の目を主調に浅い湾れを組み合わせ、焼出しは直調。小沸を主体に匂を交えた焼刃は、明るく冴え、刃中に穏やかに砂流し沸筋が流れる。帽子は乱れ込んで先小丸に返る。

短刀 肥後大掾貞國 Sadakuni Wakizashi

2016-10-27 | 短刀
短刀 肥後大掾貞國


短刀 肥後大掾貞國

 貞國は、越前康継と近しい関係にあった刀工の一人。慶長年紀の作が現存することによって活躍期が判明しているが、作刀を始めた年代はもっと古くからであり、康継に先行する古刀期に主に活躍していた刀工というべきであろう。造り込みが片切刃で、表裏の樋も形状を異にし、武骨さと繊細さが同居した作。地鉄は一見して詰んだ小板目状だが、その中に杢を交えた板目肌が良く詰んで交じっており、それが流れるように刀身全体に及んでいる。刃文は小沸に匂の複合になる湾れ主張に互の目交じりで、相州振りを鮮明にしている。刃縁には細かな沸がほつれとなって掃き掛け、互の目の一部は尖り調子に地に突き入っている。本作を見ても、高い技術を備えていたことが良く判る。

短刀 國廣 Kunihiro Tanto

2016-10-26 | 短刀
短刀 國廣

 
短刀 國廣

 江戸時代に活躍した多くの刀工の初祖的な存在の一人。戦国時代末期にすでに、古作のような鍛え肌が強く出た作より、綺麗に詰んだ地鉄鍛えが求められる気風があったようで、孫六兼元や兼定に、新刀の地鉄を見るような出来が間々ある。江戸時代初期に隆盛した三品一門も、緻密な地鉄へと変化しているように、この流れは他の流派でも同様であった。國廣は各地を巡って作刀技術を学び、後に独自の思考によるものであろう、斬れ味を追求した地鉄を創造した。ザングリと表現される、少し肌立つ小板目鍛えがそれだ。造り込みや刃文は相州伝を基礎においている。この短刀が良い例だろう。刃長は一尺強。身幅広く重ねは控えめに、斬り込んだ刃の抜けが追求されているのは南北朝時代の再現。わずかに先反りがあり、地鉄は板目交じりの小板目鍛えで、総体にザングリとして、刃味が良さそうだ。刃区から斜めに水影映りが生じており、これも國廣の特徴。刃文は小沸出来の浅く湾れた直刃で、刃縁ほつれ、所々に湾れが強まり、刃縁に沸筋や砂流しが流れ掛かる。これまでに紹介してきた國貞や國清の源流の作として捉えると、まだまだ古刀期の気配が濃厚であることがわかる。もちろん戦場を潜り抜けてきた、実戦のみを求めてきた刀工の作である。斬る道具としての凄味があって、しかも美しさの片鱗が窺えるところがすごい。□



短刀 播磨守輝廣 Teruhiro Tanto

2016-10-18 | 短刀
短刀 播磨守輝廣


短刀 播磨守輝廣

 輝廣は何度か紹介している、尾張から安芸に移住し江戸時代を通して安芸にて活躍した刀工の名流。地鉄鍛えに古風なところがあり、時に南北朝時代の相州伝、志津に紛れることがある。この短刀は、九寸四分強の手頃な寸法に、重ねは比較的しっかりとして先反りが付き、いかにも古作を手本とした戦国時代の造り込み。地鉄鍛えが均質に詰み、肌目が地景で綺麗に起ち、鋒辺りが棟側に流れている。古風な地鉄だが、刃文は新刀期のそれ。端正な互の目が連続して帽子は小丸返り。焼刃は小沸と匂が調和して明るく冴えている。江戸期の相州伝の一。

短刀 國路 Kunimichi Tanto

2016-10-03 | 短刀
短刀 國路


短刀 平安城住國路

 出羽大掾國路の初期の作。國路は國廣の門人だが、三品派にも学んだものか國廣風というより、三品風の焼刃構成からなる志津写しを得意とした。いずれも相州伝の工。この短刀も、南北朝時代を思わせる平造の寸伸びのスタイル。地鉄は板目が流れた肌間を小板目肌が埋めて良く詰み、地沸が付いて古作に紛れる出来。刃文も湾れに浅い互の目を交えた沸主調とし、刃境には沸筋、砂流し、金線が走る。帽子は、ふくら辺りが乱れ、先尖り調子に掃き掛けて返っている。

短刀 菅原包則 Kanenori Tanto

2016-09-30 | 短刀
短刀 菅原包則


短刀 菅原包則

 茎を見なければ鎌倉時代の則重と見間違えてしまうかもしれない。帝室技芸員包則の、古作を手本として製作した明治三十六年の短刀。姿格好はもちろん鎌倉時代。地景が顕著に表れて板目肌が明瞭になり、さらに地沸が肌目に沿って流れるように現れて鍛え肌を強調している。刃文は浅い互の目乱で、互の目は不定形に湾れを交え、帽子は掃き掛けを伴う小丸返り。小沸に匂が加わって冴え、刃縁ほつれ、沸筋が刃境をきりっと引き締め、刃中には淡い砂流が掛かり、沸が広がり匂もこれに伴って刃先に迫る。相州伝の短刀である。

短刀 宇多國宗 Kunimune Tanto

2016-09-27 | 短刀
短刀 宇多國宗


短刀 宇多國宗

 宇多派は大和宇陀郡から越中国に移住した刀工群。大和伝の作風かというとそうでもなく、相州伝の技法を取り入れたものであろう、柾調に流れる地鉄に沸による働き、特に地中に湯走りの広がる作風に特徴を示した。この短刀も地鉄は揺れて流れるような柾目で、地沸が付いて地景が顕著に肌が鮮明。刃文は湾れ乱れで、沸深く、刃縁は肌目に伴って和紙を裂いたようにほつれ掛かり、刃中も同様に肌目に沿って沸筋、砂流し、金線が走り、帽子も同様に掃き掛けて返りが長く、棟焼となる。同国の則重からの影響も考察されているが、國宗には國宗の個性がある。



短刀 弘幸 Hiroyuki Tanto

2016-09-21 | 短刀
短刀 弘幸


短刀 弘幸

 前回紹介した廣幸の前銘と言われている弘幸の、一尺強、ごく浅い反りが付いた寸伸び短刀。前作と比較して鑑賞されたい。研究に従えば、本作の方が時代が上がるということになる。年代が明確なのは慶長十三年紀作であり、本作も慶長頃と考えられる。小板目鍛えの地鉄は良く詰んでいるも、堀川肌と呼ばれるようなザングリとした風も顕著で、縮緬状に細かに揺れる肌が地景によって観察される。地中には湯走りのような強い地沸は見られないが、肌目に沿って細やかに沸の流れが窺える。刃文は穏やかな湾れに互の目交じり。帽子は、物打辺りから現れている逆足状の沸の流れに応じてわずかに掃き掛けを伴って先小丸に返る。刃中は激しい沸ではないが、志津風の浅い湾れ互の目に伴って沸筋や砂流しが流れる。



短刀 正重 Masashige Tanto

2016-08-23 | 短刀
短刀 正重


短刀 正重

 村正の弟子として知られるが、村正より上手と評価する先生方多も多いのがこの正重である。この短刀は、寸法こそ一尺弱だが、造り込みは反りの深い小脇差。具足の腰に帯びて戦場を経巡ったもの。刃先鋭く革の防具など軽々と切って落としたことであろう。地鉄は板目肌が流れて揺れて地沸で覆われ、地沸が凝って湯走りとなり、総体に凄みが感じられる。刃文は不定形な互の目乱。互の目が二つ寄り合って耳形に乱れ、浅く尖っていたりと、相州伝の影響は明瞭。沸も強く明るく、刃縁はほつれが強く、これが刃中に広がって砂流しとなり、帽子も沸が肌目に沿って働くなど、穏やかながら変化に富んでいる。名作である。

短刀 義助 Yoshisuke Tanto

2016-08-06 | 短刀
短刀 義助


短刀 義助

 九寸強の、先反りの付いた造り込み。重ねは控えめに切り込んだ際の刃の通り抜けを求めたもので、南北朝時代からの相州物の特質を良く伝えている。これも先端辺りの棟焼が長く仕立てられている。杢目を交えた板目鍛えの地鉄が個性的な作で、常に比して「綺麗」に感じられる。微妙に質の異なる地鉄を織り合わせる技術は、刀身をより強靭なものにする工夫だが、鍛着が難しく疵になりやすい。本作は密に詰んで締まった感があり、映りや地沸の付き方の違いが地景となっている。視覚的には杢目によって躍動感が生み出され、それが刃中に及んで刃境のほつれや刃中の砂流しや金線に変じ、強味のある景色となっている。



短刀 義助作 Yoshisuke Tanto

2016-08-05 | 短刀
短刀 義助作


短刀 義助作

 島田鍛冶は相州鍛冶との技術協力があり、相州風の刀を遺している。ところが、備前伝互の目丁子出来、直刃、湾れ刃など作域に幅があり、各伝においてどれも上手である。この短刀は、あまり強く肌立つことなく小板目肌状に鍛えられた中に板目の流れた肌が地景を伴って現れ、刃文は下半が互の目、上半も互の目ながら帽子の返りが深く、棟焼に連なる部分があり、棟焼も互の目が強く、これによって皆焼状にも見える。沸匂深々と付いて明るく冴えた焼刃は柔らか味があり、帽子にはうっすらとした玉状の沸凝りがあり、これも相州古作に連なる特徴といえる。

短刀 相州住廣次 Hirotsugu Tanto

2016-08-02 | 短刀
短刀 相州住廣次


短刀 相州住廣次

 両刃造短刀というと、まず備前刀工が思い浮かぶのだが、相州鍛冶にもある。米軍が用いているダガーナイフと構造が似ている。鎧の隙間を狙うという意味では頗る実用的だが、鎬筋が厚く刃先が鋭く、鋒も鋭いことからおそらく造と同様に製作が難しいのであろう、このタイプの短刀はとても丁寧な造りだ。恐ろしい武器の存在感を通り越して美しさが極まっている。質の良い作が多いことから高級武将の持ち物ではないかと考えられているのも、このあたりに理由がある。
廣次は小田原相州鍛冶の一人で、北条家に仕えた。他の相州鍛冶と同様に皆焼状の刃文構成を特徴とした。この種類の短刀は比較的身幅が狭いことから皆焼とはしなかったのであろう、沸を強く意識した深い互の目に沸足の入る仕上がり。刃中沸深く沸強く、地沸も強く付いて焼の深い帽子も沸が充満している。

短刀 相州住康春 Yasuharu Tanto

2016-07-30 | 短刀
短刀 相州住康春


短刀 相州住康春

 刃長九寸七分、先反りが付いた、この時代の相州刀の特徴的姿格好。重ね一分七厘で、この時代として尋常。物打辺りに張りがあり、舟底片茎に連なる構成線。板目鍛えの地鉄は地沸が付いて地景が入り組み肌立ち、強さと凄みがある。刃文は不定形に乱れる互の目で、刃中に矢筈刃が交じり、ほつれ、沸筋、砂流し、金線が激しく掛かり、刃中には沸が凝って島刃を形成、乱れこんだ帽子は沸付いて返る。総体に沸の美観が強く示された出来。康春は島田鍛冶の出で小田原において、相州鍛冶と交流し、相州風の造り込みを特徴とした。いわゆる小田原相州と呼ばれる一人で、名工である。

短刀 播磨守輝廣 Teruhiro Tanto

2016-07-26 | 短刀
短刀 播磨守輝廣


短刀 播磨守輝廣

刃長が九寸強だから、現代に分類では短刀だが、造り込みは先反りが付いた古風な小脇差だ。太刀や刀の添え差しとされ、戦場で盛んに用いられた実用具として捉えられる。江戸時代も寛永まで降ると、世上はそろそろ安定してきた。とはいえ、各地で小さな紛争もあり、刀はまだまだ実戦具としての意味合いを強くしていた。時代に応じて地鉄は小板目肌風だが総体に細かな地景によってザングリとした感があり、いかにも切れそうだ。鋒辺りに輝廣の特徴が窺える。刃文は小沸出来の、綺麗に揃った互の目。刃中に匂が広がり、わずかに沸筋が流れており、すっきりとしている。