選球眼という点で同じ能力を高い次元で持っていたのが、よく前田と比較される榎本喜八であろう。
その選球眼に野村克也は背筋が寒くなったー 、とさえ語っている。
捕手というのは打者の僅かな動きや反応を見て、何を狙っているか、どんな球を待っているかを読み取るのだが、榎本喜八だけはピクリとも動かずにボールを見送り、なにも読み取らせてはくれなかったという。
(榎本は打撃不振に陥るとベンチで座禅を組み出して、周囲を驚かせたという男である。求道者という意味では前田の先駆者的な存在であり、変物という点でも前田のはるか上をいく選手だった。彼もまた引退の二年前、"オリオンズの榎本はもう死んだー。" という発言を残している。)
ともかく、選球眼という点で前田も榎本と同じ次元にいた。
だがこの辺りの世界までくると、それはもはや選球 "眼" などという動体視力の問題を超越している。
そうした感覚をイチローは "選球体" という言葉で表現しているが、見事な感覚といえよう。
分散的な身体各部の働きだけで処理できる次元ではないということである。
全身で反応しなければとてもではないが、イチローやジーターや前田榎本の様な "選球体" は掴めない。
それは例えば "動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し ー " というような世界であり、天才と呼ばれた者たちだけがわかる感覚の世界であろう。
そしてその感覚を顕在化させるために必要となるのが、強烈な集中力であるが、この事は 「王貞治」というタイトルで既に投稿してあるので省く。
だが王が対戦相手に恐怖すら抱かせたほどの集中力を持っていた事と同じ次元で、前田智徳の集中力もまた尋常なものではなかった事は間違いがない。
王や前田ほどの次元における極端に密度の高い集中力は、やはり観る者を魅了し、引き込む力を有しているし、対戦相手でさえその集中力につられて実力以上の力を発揮するものである。
そして前田智徳という男は、その相手の限界を超えて投げて来た最高の一球を完膚なきまでに打ち返すのである。
これを天才と呼ばずに誰を天才と呼ぶのか ー 。
だからこそ逆に前田はなんでもないど真ん中の球を平然と見送る。
ー あるとき若手投手が初級から前田に対してど真ん中に平凡なストレートを投げて来た。
"オレはなめられたー "
そう感じた前田は一球も振ることなく、三球見逃し三振でベンチに帰る。
どうしたのか ー ?
周囲は問う。
「あんなの投手じゃない。バットを振る気にならん。」
対戦相手の限界すら超える力を引き出す程の集中力でもって打席に臨み、命懸けの真剣勝負をしている前田にとって、無造作にそういう球を自分に対して投げてくる、そういう相手の無神経さも未熟さもたまらなく嫌であっただろう。
それはやはり前田が生きている "場所" では "あんなの投手じゃない" という感覚なのだと思う。
その選球眼に野村克也は背筋が寒くなったー 、とさえ語っている。
捕手というのは打者の僅かな動きや反応を見て、何を狙っているか、どんな球を待っているかを読み取るのだが、榎本喜八だけはピクリとも動かずにボールを見送り、なにも読み取らせてはくれなかったという。
(榎本は打撃不振に陥るとベンチで座禅を組み出して、周囲を驚かせたという男である。求道者という意味では前田の先駆者的な存在であり、変物という点でも前田のはるか上をいく選手だった。彼もまた引退の二年前、"オリオンズの榎本はもう死んだー。" という発言を残している。)
ともかく、選球眼という点で前田も榎本と同じ次元にいた。
だがこの辺りの世界までくると、それはもはや選球 "眼" などという動体視力の問題を超越している。
そうした感覚をイチローは "選球体" という言葉で表現しているが、見事な感覚といえよう。
分散的な身体各部の働きだけで処理できる次元ではないということである。
全身で反応しなければとてもではないが、イチローやジーターや前田榎本の様な "選球体" は掴めない。
それは例えば "動けば雷電の如く、発すれば風雨の如し ー " というような世界であり、天才と呼ばれた者たちだけがわかる感覚の世界であろう。
そしてその感覚を顕在化させるために必要となるのが、強烈な集中力であるが、この事は 「王貞治」というタイトルで既に投稿してあるので省く。
だが王が対戦相手に恐怖すら抱かせたほどの集中力を持っていた事と同じ次元で、前田智徳の集中力もまた尋常なものではなかった事は間違いがない。
王や前田ほどの次元における極端に密度の高い集中力は、やはり観る者を魅了し、引き込む力を有しているし、対戦相手でさえその集中力につられて実力以上の力を発揮するものである。
そして前田智徳という男は、その相手の限界を超えて投げて来た最高の一球を完膚なきまでに打ち返すのである。
これを天才と呼ばずに誰を天才と呼ぶのか ー 。
だからこそ逆に前田はなんでもないど真ん中の球を平然と見送る。
ー あるとき若手投手が初級から前田に対してど真ん中に平凡なストレートを投げて来た。
"オレはなめられたー "
そう感じた前田は一球も振ることなく、三球見逃し三振でベンチに帰る。
どうしたのか ー ?
周囲は問う。
「あんなの投手じゃない。バットを振る気にならん。」
対戦相手の限界すら超える力を引き出す程の集中力でもって打席に臨み、命懸けの真剣勝負をしている前田にとって、無造作にそういう球を自分に対して投げてくる、そういう相手の無神経さも未熟さもたまらなく嫌であっただろう。
それはやはり前田が生きている "場所" では "あんなの投手じゃない" という感覚なのだと思う。