白寿を目指す抗衰老ライフへの誘い

慣れ親しんだ新容器野菜養液栽培に別れを告げ、新たに取組んだ老人の終末課題の経過発信を続けさせて頂きます。

日本のハウス農業生産

2011年08月26日 | 農薬

 

愛読するオーストラリヤのWeb雑誌に、日本植物工場学会の24回例会に招待講演で来日されたニュージーランドの大学の農芸学者が、見学した日本のハウス農業生産について寄稿した記事が載っていました。

その冒頭には、「日本は、大の施設園芸農業国でありながら、植物工場が急激な時代の流れとなる中で、農業生産者のほんの僅かしか養液栽培システムを導入していないとMike Nichols と Bruce Christie の両氏が報告」とありました。

海外の農芸学者が日本の施設農業をどのように見たのか大変興味を持って読みましたが、訪問された日本の家族営農を見て、農業ビズネスは、やがては施設園芸生産を引き継ぐ事になるのでしょうが、それには、営農者が新しい開発に遅れないようにする充分な時間を持ち、新しい技術に再投資できる場合であると見ているなど、日本農業の厳しい現状を捕らえていると痛感いたしました。一寸長くなりますがその内容を紹介させていただきます。

抄訳
2007年1月、東京での第24回のSHITAの会議の有機養液栽培についての講演招待を受けました。大変急ぎの旅でしたが、日本の植物工場とハウス施設栽培の両方の進展状況を見学できる機会が得られました。

本稿では温室作物生産についてのみの見学にふれ、植物工場について後日の記事で改めて紹介致します。
日本には、およそ52,000 ヘクタールの施設温室があり、更に14,000 ヘクタールの雨よけのハウス施設があります。大方の施設温室がプラスチックフイルムで覆われ、ガラス温室は施設温室の5%以下です。全温室の69%が野菜生産に使われ、わずか7%が花卉栽培に14%が果実生産となっています。
日本のようなハイテク国が、施設温室のたった15%(全施設農業生産面積の3%に該当)しか無土壌栽培を採用していない事を知って一寸驚きました。
しかも、利用されている養液栽培の分野も湛液水耕(DFT)に続いてロックウール耕が圧倒的であり、水耕栽培の作物の75%が野菜ということです。日本では、メロンやイチゴ、スイカがすべて野菜に分類され、全温室生産面積の30%を占めています。
訪問したのは1月末の北半球では冬の最中であり、はっきり言って、真夏のニュージーランドからやってきた我々の見学には、それなりの考慮がなくては、1年の最も厳しい時期に行われている生産に批判的になるには、すべてが余りにも容易であります。

事実、一件の例外をのぞいて、見せて頂いたものの印象は大変良好なものでしたと言うのが正しいです。
見学が出来たのは、
千葉県(東京の北方)の幾つかの場所でしたが、二日間で多くのことを学びました。 千葉県は、北緯36度にありますが、想像よりずっと冬の気候が良好であり、冬は乾期ですので曇天が大変少なく、元々の想像より保温レベルも良好なものでした。

農家直売店の品そろいと新鮮さは抜群!―
最初の訪問先は、特別にしつらえた建物の中にある現地生産の幅広い野菜や果物を販売する農家直売店でありました。品そろいと新鮮さは最高であり、生産農家は明らかに最小の食料輸送コスト(フードマイレージ)と少ない環境負荷量で、現地消費者が必要するものを提供していました。勿論の事、シーズンオフの生産が尚も可能であり、生産コストの安い南半球の夏の国から輸入する産物より、そのカーボン排出量はさらに少なく、好ましいものでありました。

我々の訪問の最初の生産者は、イチゴの温室農家で真冬にイチゴを生産しており、細部まで本当に注意を引くものであり、最も印象深かったのは、その収穫物の見ための良さです。高設樋に設置したロックウールの中で、再循環する水耕システムで養液を送って育てられていました。 びっくりしたのは、だるま蜂と蜜蜂の両方で受粉に良好な結果を得ており、又、店でのその値段の高さは更に印象的でした。
我々が見積もって計算した価額は、一皿NZ$20-25、或いは、およそNZ$200/kgです!

―イチゴの受粉にだるま蜂とミツバチが一緒に使われているー

―日本ではイチゴは野菜作物に分類される―.
産物価額はベルギーで見た温室イチゴとはとても比較にならなかったが、勿論その時は真夏ではありました。

生産で最も興味を引いた点は、多分、台のサイドに置かれたランナーの生産でした。―シーズン外れのイチゴの育成のキーコンポーネントなのでしょう。
我々のMassey Universityでは、チップランナーを使います。しかし、この施設では、ロックウールスラブの真下に置いた個々の鉢にランナーを根付かせていました。チップランナーより一層手間のかかる面倒な方法ではあります。

次の訪問先は、温室トマトの生産者でした。この訪問で一寸失望したのは、トマトの温室生産技術は、此処20年間で著しく進歩しており、むしろ時代の逆戻りしたような見学であった事です。今日では、High wires and layering(高所蔓吊り下げ方式)が効率栽培のキーポイントであるにもかかわらず、このハウスでは今尚low wires and layered(低所蔓床置き方式)により果実が床に置かれているのです。

―この温室では蔓を下げ、果実は床に置かれているー

 

―選別作業は小家族経営向きの仕事ですー
それは大変家族経的な作業であり、農業ビズネスは、やがては温室作物生産を引き継ぐ事になるのでしょうが、それには、営農者が新しい開発に遅れないようにする充分な時間を持ち、新しい技術に再投資できる場合である事を必然的に示唆しています。
勿論、すべてが悪いのではありません。次の栽培時期にあわせて実生苗は抵抗台木に接木され、果実の品質は優秀に見えますし、小さなパック詰め作業場はシンプルで効率的でした。

湛液水耕の浮き筏方式は、何故かニュージーランドでは余り経験のないものであります。今回の日本訪問の主たる理由の一つは、葉もの野菜の栽培方式の現況を感じ取る事に有り、特にアクアポニックスの参考となる点であります。
アクアポニックス方式では、日本には特筆すべき発展はないのですが、湛液水耕では大いに進歩しています。

―日本は全施設栽培の面積のたった3%が無土壌栽培―
我々の3番目の訪問先は、高度な浮き筏方式の0.8ヘクタールの温室で、年間250トンの「みず菜」を生産する栽培者です。年間の連続生産で、ポリエチレンの発泡ブロックに自動的に5,6粒の種を播種して開始します。温度制御室での発芽に続いて、機械によって自動的に発泡ポリエチレンの浮き筏の個別ブロックに移植されるまでそこで暫く育てられ、それから、湛液水耕場に移動されます。
最初の筏の穴の間隔は互いに狭いです。作物が充分大きくなると、再び機械によってスペースの広い筏に自動的に移植されます。其の筏の違いは開いている穴の数だけです。

―苗は小さな植物工場で育てられます!ー

―みず菜の苗の根は養液中に浮かされますー

―機械によって自動的に発泡ポリエチレンの浮き筏の穴に移植されるー

―典型的な湛液水耕システムー

―機械によって自動的に発泡ポリエチレンの浮き筏の大きなスペースの穴に移植されるー

―葉もの野菜の収穫作業は今尚、手作業で行われているー

―この小さなパック詰め作業場はシンプルで効率的ですー

―配送を待つ完成品―
移植の成功の鍵は確実にすべての根が穴を通して下ろされ、移植が水流を利用して行われる事にあります。

次の訪問先には興味がありました。何故なら、浮き筏とNFTのハイブリット方式で、ほうれん草の栽培に従事しているからです。みず菜の生産者と同様の播種技術が使われていましたが、しかし、ほうれん草は根部伝染性の病気(e.g. Phytophthora)に大変掛かり易いので、各植え付けが独立して規格化されていました。
根部の高温は病気のリスクを大きくするので、夏は培養液の温度を冷やす為に使う熱交換コイルが各養液タンクには組み込まれ、作物間は、加熱コイルで熱いお湯(80
)が循環して培養液の消毒に使われていました。病害問題を減らす賢い方法です。

―浮き筏とNFTのハイブリット方式ほうれん草の栽培―

―浮き筏とNFTのハイブリット方式の開いたところー

―健康なほうれん草―

―ほうれん草は根部伝染性の病気に掛かり易いー.

―根部伝染を防止する独立養液タンクー
又、この生産者は自社の作物生産に、植物工場を使い始めていましたが、それは未だ播種のみの段階でした。我々が見たのは、トマトとレタスの種苗で小さな植物工場で育てられていましたが、疑問に思って心に残った事は、多くの作物の植物工場の開発は、未だ何年か先となっているにもかかわらず、高品質の種苗が季節や天候に関係なく必要なときに即、確保できるようにするだけなら、今や植物工場がそこまで来て、現に行われていると言う事です。要求に沿って高品質な種苗が迅速に生産できるのは傑出しています。

しかしながら、この様な種苗から、温室で育てるレタスについては、同じことは言えないのです。ボトリチス(灰色カビ病)が発生し始めていましたが、作物が小さいうちに殺菌剤で簡単に防除出来ます。それで菌は老齢化して死んでしまうので、古い葉にボトリチス菌の胞子が発生するのを防ぐ効果があります。元来、ボトリチス菌の胞子は、通常は死んだ葉に感染しますので、もし、古い葉が適切な殺菌剤で枯れる前に保護されるなら、ボトリチスの感染は最小にできるのです。
代替の対策では、温室内の湿度を90%以下に確保するやり方がありますが、実際にはレタス作物の播種基盤で、其の達成は困難であります。もし、ボトリチス菌の胞子が発芽して作物に感染するとすれば、液体の水の存在を必要とします。それで、湿度を低くすれば其のリスクも減り、又チップバーンの危険も減らせます。

About the author
Drs Mike Nichols and Bruce Christie are horticultural research scientists at the
College of Sciences, MasseyUniversity, Palmerston North, New Zealand. Email: m.nichols@massey.ac.nz or C.B.Christie@massey.ac.nz

 ブログランキング・にほんブログ村へ

にほんブログ


最新の画像もっと見る

コメントを投稿