先のブログの余談で触れた新プランター野菜栽培の肥料としても利用している均衡培養液、ご存知の方も多いとは思いますが、それが一般の肥料とどう違い、何故水耕栽培では均衡培養液でなくてはならないか改めてお話致します。
水耕栽培(ハイドロポニックス)では、水と肥料を同時に与える必要があり、高い精度の配合組成に処方された無機肥料塩を溶解して作物の根域に供給する為に考案された専用の肥料養液であり、英語では“Balanced nutrient solution”と言い、それが日本では「均衡培養液」と呼ばれて居ます。
―間もなく結球の始まる今年の新プランター栽培キャベツのしずはま1号ー
その原点は、1840年に、ドイツの化学者 ユストゥス、フォン、リービッヒが発表した植物の無機栄養説が契機となって、同じドイツの植物学者、ジュリアス、フォン、ザックスとウイルヘルム、クノップによって1860年に、実験室での一定の組成の無機栄養液に依る植物の培養法が研究によって確立されて発表されたのがその始まりです。その方法は忽ち研究室での植物栽培や植物学教育の標準培養技術となり今日でも広く利用されています。
―ザックスの水耕栽培イラストー
その土壌を用いずに無機栄養液だけで陸上植物を成長させる方法を養液栽培と呼び、アメリカ合衆国内で1925年頃から温室栽培での培養液に依る作物栽培の研究が始まり、大規模な作物生産手段としての栽培法の実用化へと発展して行きました。
そのアメリカのカルフォニア大学農業試験場で始まった養液肥料栽培の研究中に、研究者の一人であったウイリアム フェデリック ゲーリック博士によって土壌を離れた均衡培養液を肥料として用いる作物の商業栽培法が考案され、1929年から1930年にかけての実践栽培で、後に”Hydroponics”と命名された栽培装置が誕生しました。
―カルフォニア大学農業試験場―
そのハイドロポニックスの誕生の陰にはいろいろの秘話があるのですが、以前のブログで紹介していますので此処では敢えて触れません。
一方日本では、1950年代に始まった養液栽培の実用化研究の中で、其のカルフォニア大学から1938年に発表された均衡培養液処方に倣って、旧農林省の園芸試験場から発表された均衡培養液処方が、「園試処方」と呼ばれる配合組成であり、それを基本としての栽培装置や栽培法の研究から、対象作物毎に少しずつ処方の異なる様々なバリエーションの養液処方が発表されています。又、今では、実践栽培で、個々人で異なる私的な配合組成もいろいろ試みられています。
―イチゴの屋外養液栽培-Web Images Photoesより
具体的には、作物に必要な必須栄養素は全部で17元素であり、水素、酸素、炭素は水と炭酸ガスから摂取するのですが、残りは多量要素の窒素、リン、カリ、次に多く必要とするマグネシューム、カルシューム、硫黄であり、続いて微量要素と呼ばれる鉄、マンガン、亜鉛、硼素、銅、塩素、モリブデン、ニッケルであります。それらの元素のイオンバランスを考慮して決めた最適な配合組成の肥料溶液を作物に与える方法で確立されたのが土壌を離れた養液栽培(Nutrient Culture)であり、水耕栽培(Hydroponics)と命名された無土壌栽培の肥料溶液が均衡培養液であります。
―典型的なハイドロポニックスのトマト栽培―WebPhotoesimages
独立栄養生物である高等植物の摂取する栄養源は何であり、其の摂取量割合は如何なのか、其の各要素の摂取効果を律する機作は何かの研究から、其の各構成元素の持つ陰陽電荷、そのイオン間のバランスと各要素の摂取の相乗作用と拮抗作用の間には、最適な濃度と組成の配合比があるとされ、それを比較栽培実験や植物組織分析を以って追求し、得られた結果が必須栄養素を高精度な配合組成して溶解した均衡培養液と呼ばれる肥料溶液であります。
―イオンバランスー質量は違ってもイオンは等価―
参考に園試処方の均衡培養液の成分濃度を表示した下記の表を見てください。各々の元素の数字は溶解質量比の%やPPMでは無く、N、P、K、Mg、Ca、の多量要素では、イオンバランスがはっきり分かるようにme/L(ミリグラム当量パーリットル)の単位で表示しています。尚、微量要素は養液のpHに与える影響力が僅かな事から、一般にPPMで表示されます。
-均衡培養液で作る7号プラポットの白菜のお気に入りー
下記の表で見れば分かりますが、me/L(ミリグラム当量パーリットル)で表示されたN、Pのミリグラム当量のマイナスイオンの和と、K、Ca、Mgのミリグラム当量のプラスイオンの和が、ぴったり一致して、イオンバランスが保たれるのが分かります。唯、各肥料塩が水和しただけの組成では、各々の成分摂取量が成育ステージや温度や日照等の気象条件に依って異るので、イオンバランスが崩れて各要素の摂取障害が発生し、生育が阻害されるのです。
方例 |
対象作物 |
成分濃度(me/L) |
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N |
P |
K |
Ca |
Mg |
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園試処方 |
各 種 |
16 |
4 |
8 |
8 |
4 |
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―園試処方成分濃度表ー
一般に植物の栄養素である肥料は、化学肥料等の無機肥料や有機栽培で言う有機質肥料で与えられるのですが、摂取される栄養素は、前述の通りみんな同じ元素であり、其の違いは、各々の肥料がどの様に施肥されるかで起こる、結果としての肥効の違いだけであります。
―pHの変動の何故おこる?―
有機栽培は、有機質肥料が土壌の中で自然の力で無機化されて肥料効果が表れる事が自然に叶った好ましい施肥法であるとするのに対し、化学肥料等は、同じように土壌に施肥されると即効性はあるのすが、所謂は肥料のどか喰いや無駄となる流亡を起こし、且つ又、土壌の生態系を阻害するなどの様々な弊害を誘発する結果、それが化学農薬と同列に置かれての悪者扱いされる所以であり、その肥効原理を理解して頂けば、均衡培養液の大切がお解りと思います。
―肥料はイオンバランス大切です!ー
従って、土壌栽培で化学肥料を有効に使うには多くの課題があり、未だに満点解答は無いのですが、其の尤も進んだ利用法と言えば、閉鎖的な根域での高度な養液管理栽培であり、それを実用化したのが1960年代にイスラエルで始まったファーテイゲイションカルチャー、日本では「養液土耕」と呼ばれ、ハウス栽培等で利用されていますが、灌水と施肥を一体化した降雨量の著しく少ない砂漠地帯のような耕作条件での農耕に考案された栽培法です。
―ファーテイゲイションカルチャー圃場ーWebPhotoesimagesより
しかし、土壌を離れる事で、その持つ緩衝能を失った養液栽培で問題となるのは、作物は陽イオンと陰イオンを均等に摂取するのでは無く、短期間に容易に発生するH+=pH低下とOH-+CO2=pH上昇です。
その解決の課題となるのが、崩れるイオンバランスと発生する各元素量の補正です。養液栽培現場では、其のイオンバランスと各元素量の補正の為のpH測定と溶解塩類の導電度測定が最も大切な管理作業となっています。
―アメリカのHydroponicsではお馴染みのpH調整剤―
実はこの問題は、均衡培養液を利用する新プランター野菜栽培でも発生する筈ですが、不思議な事に問題が無いのです。当初は、牛場製作所製のpHメータとECメータを購入し、何故だろうと測りまくったのですが、何故か結論は出ませんでした。
―pH & EC Meter-WebPhotoesimagesより
しかし、その理由は簡単でした。一般の用土プランター栽培では、肥料分の過不足現象があっても培養土の陰陽イオンの変化は短期間に発生しないと同様に、新プランター栽培は露地栽培であり、雨水は自然に流入し、培地には土壌と同じ様な微生物涵養環境を持ち、一定量の配合された2次粘土鉱物の持つ陽イオン交換容量となる緩衝能が有り、其の根圏環境は用土栽培と変わらない条件が備えられている事が分かったのです。
―新プランター栽培専用の培地材―
扨て、先のブログで触れた陰陽五行説と均衡培養液の話ですが、もし、そんなオカルト染みた話等と思われて方が居られたら、それはそれで結構です。
大切なのは、様々事象の中でそれを律する法則を見出して、客観的に説明できる真理として明らかにするのが科学であります。
陰陽五行説で言う、根本宇宙原理では、生体である人間も同じ原理で律せられている小宇宙と捉えていて、植物も亦同じ生体であり、其の生命活動は同じ小宇宙原理に律せられ、其の生存に欠かせない栄養生理の原点の養分摂取は、良く考えて見ると陰陽五行説で言う、根本宇宙原理に従って居ると言う事です。
―作物の健康を支えるのは適正施肥のバランスです!-
園試処方の均衡培養液の成分濃度で言うなら、窒素0.224%、リン0.041、カリ0.312%、マグネシュウム0.0488%、カルシュウム0.160%の配合になりますが、これは陰陽五行説で律せられる東洋医学の湯液と呼ばれる漢方薬の成分処方と同様の考え方であり、その個々の薬効成分をどの様に構成処方するかの知恵(ノウハウ)があり、これも亦、陰陽のイオンバランスと水、木、火、土、金に基く構成要素の相性と相克、各薬効成分の相乗と拮抗作用を止揚した考え方の医学です。
-薬食同源のウェブ画像よりー
人の摂食も亦同様であり、その原理の薬食同源の観点から食のバランスを大切にしなくてはなりません。
ベランダでプランター栽培という限られたスペースで、連作障害等を気にしせず、有効的に野菜を育てる方法はないかと調べ、こちらのサイトに辿りつきました。
過去の記事を読み、新プランター栽培の方法にて特許を取られていることを知りました。
個人で野菜栽培を楽しむ範囲で、新プランター栽培をすることが可能かどうか、ご連絡させていただきました。
また専用肥料について、もし宜しければご教授いただきたく思います。
お手数ですが、ご連絡いただくと幸いです。よろしくお願い致します。
どうぞ、ご自由に新プランター栽培お試しください。用土栽培とは異なり、高い効果が得られる事は請け合いです。
尚、専用肥料ですが、二液式の養液栽培用の液肥の利用が必要です。
但し、一般の水耕栽培と違って、pHやEC管理の必要はありません。
亦、簡単にこの栽培法を試して見たいという事したら
ハイポネックス等、一般の市販液肥でも十分利用は可能です。
いろいろお試しください。
これから必要な資材を揃え、春からさっそく試させて頂こうと思います。
本当に、ありがとうございました。