日,暮らし

明日は明日の風が吹く。

「Q&A」恩田陸

2005-11-28 | 日々の読書
まさに,Q&Aで構成されたミステリー。2月11日に巨大ショッピングセンターで起きた事故とも事件とも言える事柄を,質問とその答え,対話のみで構成している。

多くの人々が亡くなったのに,そのことがいったい何の原因で起こったか,だれも説明ができない。ただ,人々がパニックになって,一斉に逃げ出したため多くの人が圧死した。冬の巨大ショッピングセンター,外は寒いが中は人いきれで暑いほどだったのではないか。いろいろな立場の人が,その事件について思いを吐き出す。結局何がどうしてどうなったかという明確な答えはない。ただ,大きく関わるかどうかの違いはあっても,そのことで,そこにいた人々の人生の歯車が狂ってしまったというのは事実だろう。そこが取り壊され,新しい建物が建ち,人々の記憶が薄れていっても・・・。

一つ一つが,何も関連しないようでいて,それで微妙に入り組む話。一度読んだだけでは,もう一つ納得できないのかもしれない。

まだ廃墟のショッピングセンターが残るころ,都市伝説ツアーをしている学生が,なぜ事件の現場を歩くのが好きなのかと聞かれて

「リアリティを探しているのかもしれませんね。」リアリティ?「実感ですよ。生きてた,死んだ,何かあったって実感。(中略)僕は,何かの痕跡にこだわっているんだと思う。」

よく通る道すがら,ある日突然ぽっかりと更地ができた。家と家との間。何もなく,ただ地面だけがそこにある。つい先日まで,確かに建物が建っていた。ここで生活していた人がいたのだけど,今となっては,どんな家があり,どんな人が住んでいたのか,全く思い出せない。車で通りすぎながら,いったいここには何があったっけ,ここにいた人はどこへ行ってしまったのだろうかと思う。

そして,何かの拍子に,ふっと,そうそう,あそこには小さな八百屋があって,店先には,冬になると「焼き芋あります」という札が出ていたということを思い出す。

そのうち,その八百屋が本当にあったのか,それとも違う場所と自分が混同しているのではないのか,そんなことさえ思うようになるのだ。

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