(琉球新報 2018年3月10日)
島嶼論、盛んですね!移民と島嶼、文化、環境、なるほどです!今福龍太の『群島ー世界論』(岩波書店2008)もありましたね。琉球大学では「人の移動と21世紀のグローバル社会」の大きなプロジェクトもありましたね。
以下転載です!http://ritokei.com/article/interview/10436 備忘録
国連の定義によると世界には3,000〜4,000万の島があり、その5%弱が有人島と推定されている。島はそれぞれ環境が違っていて、ぜんぶ違うからおもしろい。そう語る嘉数啓氏は、沖縄で生まれ育ち米国留学を経て、ハワイや南太平洋の島々をはじめ、世界中の海域にある島々を歩いてきた社会経済学者だ。
1994年に仲間とともに世界島嶼学会を立ち上げ、1998年に日本島嶼学会を創設した嘉数氏は、英語で「Nissology」と呼ばれる「島嶼学」を専門に、自身の専門分野である経済学の枠を超えた超学的アプローチで、島々を見つめている。島嶼学に精通する嘉数氏に話を聞いた。
※この記事は『季刊ritokei』22号(2017年11月発行号)掲載記事です。
写真・聞き手 鯨本あつこ
−世界中の島の事例で日本の島々に暮らす人々が参考にできる事例はありますか?
たくさんありますが、たとえば観光などで成功しているマルタ島の事例をそのままもってくれば成功すると考えることは間違いです。
マーシャル諸島やトンガなど、南太平洋にある14の国が集まる会議では「沖縄で成功している技術を移転してほしい」という合意がなされており、赤土防除やココヤシからディーゼル燃料をとる技術などを移転する話があります。
ただ、そこでは技術を紹介するだけではなく、各島に適合するように修正することが必要です。そこの土壌に合った技術にするにはやはり「人材」が必要ですから、まずは人材育成からやりましょうと言っています。
−人材育成が鍵になるのですね。
教育は非常に大きな問題ですが、学校のない島がたくさんある。伊計島ではN高(※)が開校していますが、そのシステムはアメリカからスタートして、やり方によっては普通の対面教育よりも効果があると『Newsweek』でも評価されている。
※ N高……2016年に開校した角川ドワンゴ学園が運営する通信制の私立学校。インターネットを介して授業を受け、卒業資格を取ることができる。伊計島(沖縄県うるま市)に沖縄本校が所在。
島には「距離の暴虐」という距離が遠いため、交通費がかかって、不便という点がありますが、それを克服するのがインターネットです。ですから、かつて久米島で提案したのはインターネットと無料Wi-Fiを入れることでした(※)。
※ 久米島のインターネット……久米島は2006年に光回線を敷設。2013年には全国の島々に先駆け、島の80%をカバーする全島Wi-Fiを設置している。
−『島嶼学への誘い』で紹介されていた、イギリスのマン島(※)に伝わる「どこに放り出されても、私は自活できる」というバイキングの教えが印象的でしたが、島の「自活」について教えてください。
※マン島……人口約8万人のイギリスの離島。8世紀の終わりにバイキングが上陸し、定住した島としても知られる。
かつて久米島の物流関係について調べたところ、コンビニで販売された消費物資のうち、島内産は2割程度だった。土地は余っているのに、なぜ自分で生産できないのか?自分たちでつくると高くつくから、農家が少なくなっていたのです。
「お金を島で循環させる」ことが重要です。入ってきたお金を島の生産や所得向上に循環させていけば島全体のためになるわけですが、なんでも輸移入してしまうとお金がかかる。
もともと島には土地もあるし、ある意味、時間もある。だからそれをフルに活用するには技術のあり方を変えるべきです。
僕は高校まで伊江島が見える本部半島で育ち、ウミンチュをやりながら、大豆も豆腐もタバコもサトウキビもつくっていました。ひとりで複数の技術を持っていたのです。
高度な技術でなくてもいいので、自分たちで生活していける技術をすべて取得していることが大事ですが、今は全部分業化されている。運転なら運転手がやらなくてはいけないとかね。その体系をちょっと直したら、島は自己完結型になっていき、島に仕事をつくっていくことにもなります。
−海外でも同じですか?
ミクロネシア諸島も全く一緒です。自分たちでつくれるのに、ぜんぶ海外から船で運んでいて、卵まで持ってくるわけです。
僕は小さな島の自給度を調べるのに卵を調べるのです。経験上、一番自給しやすいのが卵だったから卵を自給していない島は、ちょっと自立心が足りないですね。
輸移入し始めるとそれが当たり前になるのです。昔はそうじゃなかった。沖縄本島もそうですがサトウキビ畑のあとにつくるものがなくて耕作放棄地もどんどん増えている。土地が足りないんじゃなくて、活用するノウハウと人がいなくなっているのです。
−ご著書では「身の丈にあった経済構造の確立」の重要性を指摘されています。
与那国島の歴史を調べると、今は人口2,000人程度ですが、かつては1万人以上いて、戦前は人口を間引きするための政策が行われていました。伊江島にも同様なことがありましたが、島にとって最も過酷なことです。
−島の許容量を超えたことで起きてきた残酷な事例ですね。
人口が減るということは、ある意味では土地が広がり、暮らしやすくなるということ。そこに若い人たちが入ってきて生産活動でも行うなら、あまり悲観的になる必要はないと思っています。
− 島はキャパが見えやすいですね。
そこで懸念しているのは竹富島や慶良間諸島などの観光客が多すぎることです。300~600人の島に10〜50万人とか観光客が来ている状態はもう少しコントロールする必要がある。そうしないとそこにある歴史とか文化とか環境を破壊します。
島の持続や生産に不可欠な環境を守りながら豊かにしていく持続可能政策をやらないと破綻してしまう可能性がありますが、今は正直、そういう考え方が足りないように感じる。特に観光政策を行う人には気にしてほしいです。
−地中海の島でも観光客の制限を始めた事例が目立ちます。
香港でも観光客が増えすぎてデモが起こっており、ハワイでもクルーズ船の入港反対などが起こっている。観光客が増えすぎて島そのものをダメにしている事例に学ぶべきです。一過性ではなく、持続可能性。
人口に対するキャリングキャパシティ(※)は5倍から6倍と言われていますから、その何十倍もの人が入ってきてしまうと、環境問題や水問題がでてきてしまう。水不足やゴミの山を税金でまかなっていながら、観光客はいくらでも大歓迎という島もありますが、実際のところ、観光に従事していない住人は恩恵を感じていなかったりします。
※キャリングキャパシティ……森林や土地などに人の手が加わっても、その環境を損なうことなく、生態系が安定した状態で継続できる人間活動又は汚染物質の量の上限を指す言葉。環境容量、環境収容能力とも呼ばれる。
−「島の身の丈」を知るにはどうしたらよいでしょうか。
観光客を受け入れることで、住民の生活がどのくらい変わっているのかを調べる「住民の意識調査」をするべきです。「あなたの生活はよくなりましたか?」「交通はよくなりましたか?」「物価は?」と聞いていくと、ネガティブな考えがでてくると思いますが、ネガティブな意見がでないと政府も県も動かない。
例えば、消費税8%のうち5%は地方税になりますが、外国人観光客が来ても免税品を買うだけなら、税金は入ってきません。
ハワイは観光客から11%の税金とホテル税をとっている。これまで4度税金が引き上げられ、もう一度上げようという話もありますが、税金を上げたあとに観光客が減ったかといえば減っていません。
−観光客からの税金で島がよくなるならいいですね。
かつて座間味村は財政的に破綻寸前でした。あんなに観光客が来ているのになぜ破綻するのか? ゴミ処理やインフラ整備にお金がかかるなら本末転倒。住民のために観光客が来るのであって、観光客のため住民がいるわけではない。だから、観光客が来ても、住民の生活や環境が良くならないのなら嘘ですよ。
離島観光は島にとって中心的な産業になりますが、観光客が落としたお金を島のなかで循環させるシステムをつくることと、水や環境の問題を考えて、このくらいの観光客数なら許容範囲だということを住民が考えないといけません。いかにして増やすかという考え方ばかりでは先行き破綻しますから。
−住民だけでできないことは?
姪っ子が北大東島で暮らしていますが、沖縄本島から飛行機で行くと往復4万円くらいかかりました。先日、根室に行ったのですがLCCで沖縄から往復2万円弱でした。沖縄本島の300km先にある大東島の運賃が、2,000km離れたところへの運賃の2倍したわけです。教育と交通は個人のレベルではどうしようもないので、政策的な配慮が必要ですね。
(お話を聞いた人)
嘉数 啓(かかず・ひろし)
1942年沖縄県生まれ。ネブラスカ大学大学院経済学博士号(Ph.D.)取得後、アジア開発銀行エコノミストや沖縄振興開発金融公庫副理事長、琉球大学理事・副学長等を経ながら、ロンドン大学政治経済大学院(LSE),ハワイ東西文化センター・フルブライト上級研究員、ハワイ大学、グアム大学、済州大学校、マルタ大学、コロンボ大学、台湾国立澎湖科技大学などの客員教授等歴任。島嶼学関連では国際島嶼学会創設理事、日本島嶼学会名誉会長、島嶼発展に関する国際科学評議会(UNESCO-INSULA)東アジア代表、内閣府沖縄振興審議会会長代理・総合部会長等を歴任。現職は、台湾澎湖県アドバイザー、琉球大学名誉教授、沖縄キリスト教学院寄付講座教授等。
著作/
『島嶼学への誘い –沖縄からみる「島」の社会経済学』(岩波書店/2,800円+税)
地理、文化人類学、経済学など異なるジャンルの研究を集結させながら、超学的アプローチで島々の有り様を議論する島嶼学。島嶼学発祥の地といわれる沖縄を基軸にさまざまな視点から、島を知ることができる入門書。