ぼくがエスプレッソメーカーを知ったのはブダペストで、たまたま宿泊した場所にこれがあり、使い方を教えてもらった。そのとき飲んだコーヒーの美味しさが忘れられなくて、その旅の終わりにドイツでステンレス製のりっぱなエスプレッソメーカーを買った。
あれから今まで、消耗した部品を交換しながらも、毎朝、私がこのエスプレッソメーカーでコーヒーを沸かしている。バリのコーヒーもハワイのコーヒーもすべてこのメーカーを使う。全部、エスプレッソで飲む。味よりもむしろこのメーカーを使うことへの一種のこだわりである。
いろいろなものの記憶が少しずつ薄れていく。あらゆる記憶を残しておくことは不可能だ。しかし、ヨーロッパでの記憶のキーの一つがこのエスプレッソメーカーなのだ。不思議な味覚の記憶。ハンガリーで体験した味覚から出発した記憶は、それと関わるあらゆる感覚を呼び覚まして、一時だけ、膨大な記憶の網の中にゆらゆらと自分の身をゆだねることができる。そうしてぼくはもう5年以上もの間、一日を始めるのだ。
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