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もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

アユ・ウタミ『サマン』

2009年07月08日 | 
 2週間近くかかって、インドネシアの女流作家アユ・ウタミ『サマン』を読み終えた。翻訳出版されたのは1年以上前だが、その存在は知っていたにもかかわらず、ここまで引っ張ってきてしまった本の一冊。こんな本がたくさんあってたいへんである。この本、結構、時間軸がストレートに設定されていないし、「わたし」なる人物が章によって変わるために、時間をかけて読まないと舞台設定を見失ってしまい、頭の中で筋を右往左往してしまうことになる。しかし不思議と人間はそうした作家の手法に慣れてしまうもので、終わる頃にはそうした章ごとの変わり具合を楽しんでいる。
 それにしてもこの『サマン』だが、私には衝撃的な一冊だった。まず、今のインドネシアが、この内容を発禁にせずに出版できる国へと成長したこと、そしてこれがフィクションでありながらも小説の舞台となった1990年代にはまだ小説に書かれているような人々への搾取や政府の圧力が普通に行われていたことを想像させるからである。
 スハルト政権の崩壊のプロセスを私は自分の研究フィールドからずっと見守り続けてきた。そしてその後の国家政策や方針の転換もすべて・・・。言論の自由が認められた直後に出版されたこの本は、政府に批判的内容、それまでのインドネシア文学にはない性描写があっても、「変わっていくインドネシアの象徴」として出版されてベストセラーとなったのだろう。スマトラ、ジャカルタ、ニューヨークというグローバルな世界を描いていることも、インドネシアが閉じた国家でないことを物語る。文化論を語る研究書ではないが、インドネシア文化を研究する人々がこの本を通して考えられることはさまざまあるのではないだろうか?

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