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もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

《なごり雪》考

2016年03月14日 | 家・わたくしごと

 3月の卒業式の時期になると、いわゆる卒業ソングというのがラジオでよく流れる。私の年代だとまず思い浮かぶのが荒井由実の《卒業写真》である。しかし時代とともに卒業ソングも移り変わり、レミオロメン、いきものがたり、EXILE、コブクロなどなど、もうおじさんはほとんどついていけない曲ばかりである。
 さて、そんな卒業ソングの一つとして、たぶん団塊の世代の記憶に残っている曲が《なごり雪》ではないだろうか?1975年にイルカが歌ったこの曲は、当時、50万枚以上のヒットになったらしい。今でも70年代のフォークミュージックを振り返る番組では定番だし、イルカもいまなお、つなぎのジーンズで歌い続けている。まさに昭和の名曲である。
 とにかく切ない歌詞とメロディーである。「東京で見る雪はこれが最後ね」と呟く彼女は、きっともうホームで別れる彼とは、会うことはない。「ふざけすぎた季節」は春なのに雪なんか降らしやがって、という意味なのか…。演出しすぎだよね、という彼の呟きなのか。美しいように見えるが、やはり彼が彼女に置いておかれる《22歳の別れ》の構図がみてとれる。1970年代前半、きっと機動隊にバリケードを破壊され、大学を奪い返された「彼」「かれら」は、行く場を失ってしまったんだろう。「彼女」にそうして取り残されていってしまったのか。そんな時代を、中学生だった僕は想像することしかできない。
 僕は、イルカの《なごり雪》より、かぐや姫の《なごり雪》の方がずっと好きである。イルカのシングルが出る1年前、かぐや姫のアルバム「三階建の詩」のB面にに入っていたのがこの曲だった。メンバーの伊勢正三の作詞、作曲のこの曲。そして彼自身が歌っている。フォークが抵抗の音楽ではなくなった時代、それでもぼくはこの曲の中に、60年代後半の学生運動の「名残り」を感じるのである。権力の前に抵抗を捨てざるを得なかった、しかしどうやって生きていけばいいのか思い悩む、そんな「彼」の心の迷いのようなものを…。ぼくにとっての卒業ソングはこの曲。そして明日は大学の卒業式。