坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

ホキ美術館 写実の可能性

2012年10月20日 | 展覧会
写実の専門美術館として開館して2周年となるホキ美術館。華麗なロングドレスの気品ある女性像で知られる中山忠彦さん、現代の女性像の繊細な色彩表現と日本的余白の美を感じさせる森本草介さん、対象の実在に迫る野田弘志さんら重鎮を筆頭に、中堅、若手と第一線で活躍する画家の新作が企画展の度に並ぶのが最大の魅力でしょう。
リアリズム派に特化した展示は国内では初めてで、それだけ一言で写実絵画といっても奥の深い幅のある表現が楽しめます。
野田弘志さん(1936年~)は、北海道の壮瞥町のアトリエで日々大作に挑まれています。
掲載作品は野田さんの「アナスタシア」(2008年)。この女性をモデルにした連作、ヌードなどもあります。美術史を学ぶロシア人の学生だったそうですが、その後、崇高なるものとして人間像を描くことに集中されています。アトリエに来られてモデルになった方は、学者や音楽家などさまざまで肖像画ではなく人間そのものを描く、生きざまがそこに現出するような迫力を感じさせます。
現在は、詩人の谷川俊太郎さん、同館館長の保木将夫さんの全身像に取り組んでいます。
もう20年くらい前ですが、「美術の窓」の技法講座シリーズでお目にかかったことがあり、そのときは静物画の小品を描いて頂いたのですが、現在もその筆勢は衰えることなく、人間存在の深淵に迫る姿勢は本当に見事だと思います。

◆写実の可能性と大いなる挑戦ー新規収蔵展/11月21日~13年5月19日/ホキ美術館(千葉市緑区)

☆東日本大震災と原発の影響で中止となった「プーシキン美術館展」が来年、4月から年内にかけて名古屋、横浜、神戸を巡回することが決定! 今から楽しみです。