坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

リヒテンシュタイン 豪華華麗な魅力

2012年10月03日 | 展覧会
リヒテンシュタイン侯爵家コレクションを日本で初めて公開する本展は、ルーベンスが代表するバロックの魅力を伝えるとともに17世紀初頭から始まる伯爵家の秘宝と呼ばれる質の高さに目を見張りました。



バロックの部屋の始まりは、マルカントニオ・フランチャスキーニの「アポロンとディアナの誕生」で、狩猟の女神ディアナの連作で、誕生の場面ですが、もう一作は迫力ある大蛇を倒す狩猟の場面で、こちらの方がバロック風と言えるかもしれません。バロックはそれまでの正統的な比率やバランスを崩し画面に躍動感を呼び起こす画風ですが、この誕生の場面も伝統的テーマでありながら自由な構図を感じられます。



ウィーン郊外ロッサウの伯爵家の「夏の離宮」は、華麗なバロック様式を特徴とし、室内にはいにしえの宮廷さながらの装飾がほどこされていますが、本展では、その室内装飾と展示様式に基づいた「バロック・サロン」が設けられている点が特徴的です。
まばゆい金の装飾が施された家具類が会場を彩ります。



アントニオ・ベルッチの天井画展示も日本初です。3Dの迫力です。



18世紀の書き物机です。精緻な装飾が施されたお明日奥の引き出しは、手紙を保管するためで男性用として使われました。



バロック終盤の静物画。静物画も3D的な迫力があります。



この作品は、北方ルネサンスの巨匠、ルーカス・クラナッハの「聖エウスタキウス」。勇猛さで知られた古代ローマの将軍が改宗の瞬間を描きました。細部の質感が見事に描き分けられていました。



アンソニー・ヴァン・ダイク「マリア・デ・タシスの肖像」です。ルーベンスの弟子であった彼は、繊細華麗なテクニックで上流階級の人々の間で肖像画が人気を博しました。



ルーベンスが愛娘を描いた「クララ・エレーナ・ルーベンスの肖像」。筋肉むきむきのマッチョなルーベンスの魅力とはまた異なった柔らかく優しい魅力がありました。



17世紀初めのクリストファーノ・アッローリ「ホロフェルネスの首を持つユディット」。妖艶さとグロテスクを併せ持っていました。色調の対比が美しいです。



ルーベンスの大作「デキウス・ムス」を通り抜けると、最後の部屋では、美術史の大動脈から少しはずれた「ビーダーマイヤー」の様式の作品が並びました。19世紀前半中欧で展開されたこの様式は、滑らかな絵肌を特徴とする新古典主義の描法を受け継ぎながら身近な人物や風景を繊細優美な画風で描きだしました。前のルーベンスの少女の作品と比べても筆触が細かく時代の逆をいっているのが分かります。
バロック美術の大胆豪放さと華麗さは、現代的な劇画タッチのスリリングな味わいがあります。本展では、ルネサンスの名画ギャラリーの部屋も見どころです。

◆リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝/開催中~12月23日/国立新美術館












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