坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

上村松園の情念

2012年10月22日 | 展覧会
今、担当している美術団体の機関誌の特集に日本画家の上村松園を取り上げることになり、画家の随筆集である『青眉抄』を読んでいるのですが、その文体がまた美しく、画家としての情念が伝わってきます。
京都の下京区に生まれ、明治から、大正、昭和へと活躍した松園は、女性でありながら画家として立つことが難しかった時代に、母の支えと励ましによって、ひたすら画業に打ち込んでいきます。
男性社会にあって、そこで生き抜く苦労を全身で受けながら、精神は芸術への高邁な理想が掲げられその精進のすさまじさは圧倒されます。
掲載作品「おしどりまげ」1935年。松園は日本髪の結い方も熱心に研究し、自らも娘さんたちの髪を工夫して新鮮なアレンジで結いあげたりしていました。
小さいときから、人物画ばかり描いて、女性の立ち振る舞いの美しいポーズや内面の輝きを流麗な線とみずみずしい色彩で描いていきます。
自らの人生も紆余曲折ありました。父の顔を見ないで生まれ、28歳のとき長男を出産しましたが、未婚の母の道を選びました。40代のときに年下の男性に失恋し、しばらくスランプに陥るという人間的な側面も魅力的です。
そのなかで、孤高とした清らかな女性美を描き続けた画家魂は天からの授かりものでしょうか。

◆松伯美術館(奈良市)TEL 0742-41-6666