もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記③ ・・・ カメヤマ

2014-08-02 16:20:06 | E市での記憶
カメヤマは「うさぎとカメ」のカメに
形が似てるんだって。
(アタシにはそんな風には見えないけど)

カメヤマには、前は
おねえちゃんたちと行ってた。
ひとりで行ったらダメだって
おかあちゃんが言ってたから。

今はひとりでも行けるけど
アタシは友だちとしか行かない。

おねえちゃんはときどき
ひとりで行ってるみたいだけど。


カメヤマは、学校からは近いけど
うちからだとちょっと遠い。

昔は、上にお城があったんだって。

カナモリナガチカコウって人が
最初のオトノサマだって
センセが言ってた。

でも今はなんにもなくて
石垣みたいなモノがあるだけ。

アタシたちはオモテの道じゃなくて
石垣を登るのがふつう。

オモテの石垣はまだ登りやすいけど
ウラの石垣はくずれかけてたりして
いっぺんもの凄~く怖い目にあった。

そのときは、友だちと一緒だったし
アタシはなんとか上に上がれたけど
おねえちゃんはひとりのときに
もう全然動けなくなって
このまま朝までいるのかなあって
思ったって言ってた。


オモテの道にもコワイとこがある。

みんなが「首つりの木」って呼んでる木の下を
ふつうに歩いて通った人は
朝、首つって死んで見つかるんだって。

だから通るときは、アタマ下げて息も止めて
大急ぎで通らなくちゃいけない。
(アタシも友だちもいつもそうする)

そうやって登ったテッペンは
昔、テンシュカクのあったところで
今は、ススキがいっぱいの野原になってる。

家も学校も遠くに小さくなって
ずっと向こうの山のキワに
大きな夕陽が沈んでくのが見える。

ほんとは夕焼けをゆっくり
見てたりしちゃいけないんだけど
つい、じっと見てしまう。

あっと思ったときには
もうどんどん暗くなっていて
走って帰っても「5時半」には間に合わなくて
おばあちゃんにオコラレル。
(おかあちゃんだと「カミナリ」が落ちる)


カメヤマは、春がきれい。

桜も咲くけど、それよりあと
あちこちに咲くヤマブキが好き。

花のかたちは桜みたいで
色は濃い黄色。
細い枝は硬いけど
アタシたちでもなんとか折れる。

でもうちに持って帰っても
朝になると、花びらはぜ~んぶ散ってる。
毎年、いっつもそうだから
ほんとは折っちゃいけないんだと思う。


カメヤマのふもとには「しょーず」があって
いつもモコモコ水が湧いてる。

まあるいコンクリの場所いっぱいに
水が貯まってあふれてるけど
モコモコしてるところの水はいつでも
飲んでいいっておばあちゃんが言った。

がけを上がりそこねたときは
そこで手と顔洗って
しっかりすくって飲んでから帰った。

おねえちゃんもきっとそうしたと思う。
おねえちゃんが、朝まで帰れなくならなくて
ほんとに良かった。

でも、おねえちゃんはどうして
ひとりで遊びに行くんだろ。

アタシがいるとジャマなのかなあ。
ひとりでがけ登っても
面白くないんじゃないかなあ。

オコラレルのも
ひとりじゃない方がいいのに。
コメント (2)
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