むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

ロシア映画「ロシアの方舟」

2005-07-30 16:57:11 | 芸術・文化全般
 台湾で7月29日から劇場公開となったロシア映画「ロシアの方舟(Руский ковчег、Russian Ark)」、日本語名「エルミタージュ幻想」、中国語名「創世紀」を早速見てきた。2002年、ロシア=ドイツ=日本合作、99分、監督アレクサンドル・ソクーロフАлександр Сокуров。見たのは、台湾の岩波ホールかユーロスペースともいえる国民党営の真善美。ここは台湾の需要を反映してか、フランス映画が多いが、ほかの欧州、その他の国の映画も上映している。
 映画のあらすじは、エルミタージュ美術館を舞台に、監督が19世紀のフランス人外交官キュスティーヌ伯爵(セルゲイ・ドレイデン)とともに、エルミタージュ美術館の300年の歴史を振りかえる歴史絵巻。
 90分映画をすべて一台のカメラでワンカットで撮ったことで、ギネスブックにも登載され話題になった。
 レンブラント、ヴァン・アイク、ルーベンス、エル・グレコなどエルミタージュが誇る至宝を紹介しつつ、ピョートル大帝、エカチェリーナ女帝、ニコライ1世、ニコライ2世、貴族たちの豪華絢爛な舞踏会なども登場させ、ロシア帝国の光と影を叙情豊かに描いた作品。
 台湾での観客の反応はわりと良かったが、しかし、私が個人的に言うなら、美術品とロシア皇帝史の紹介がいずれも突っ込みが足りず、駆け足で表面をなぞっている観があった。絵画ではヴァン・アイクを重点的に紹介していたのも前後の流れからは、意味がいまひとつつかめなかった。さらに、案内役の伯爵と監督のOSの声が妙に饒舌でピントをはずしていて、むしろ寡黙によってロシア帝国の光と影を伝えるほうが良かったのではないか。これは、脚本がいまいちというべきか。
 また、話題になったワンカット撮影も、そのアイデアの奇抜さと用意周到に準備した苦労は買うが、ハイビジョンカメラとはいえ、作品や建築そのものの美を描くには力不足であり、この題材でそうしてワンカットにこだわったのか謎だ。しかも、舞踏会の場面などは、一台だけで撮るよりも、むしろ上から全体が見渡せるようにしたほうが、宮殿の持つ広がりがつかめてよかったのではないか。
 また言語使用でケチをつけるとすれば、当時のロマノフ朝廷の第一言語はフランス語のはずで、外交やパーティなどの場ではフランス語が主だったはずなのに、まして主人公のフランス外交官までがロシア語を話すというのは本当はおかしい。
 とはいうものの、決してつまらない映画ではない。それは素材のエルミタージュ自身が良いからだろうが、見ていて飽きはこない映画ではあった。
 歴史背景にもそれなりの趣向が凝らされていることもわかった。たとえば、末尾近くで監督と伯爵の語りがロシア革命が近づいていることを予告したうえで、伯爵が「さよなら、ヨーロッパ」と言うところ。これは何を意味するかというと、映画でもわざわざニコライ1世がペルシャの使節と謁見しているシーンが出てくるように、ロシアは17世紀以前にはペルシャとの関係が深く、その後も文化的にも影響を受けていたという背景がある。だからこそ、映画の冒頭で欧化の元祖となったピョートル大帝から説き起こして、末尾のほうで「さよなら、ヨーロッパ」というのは、意味を持つのだ。そこには、共産主義時代で再び欧州と断絶してしまったロシアの悲哀に対する感慨がこめられている。そういう意味では、監督はロシア欧化主義の立場を表明しているともいえる。
 映画はロシア、ドイツ、日本合作。ドイツは資金を提供し、日本はNHKが一部資金と器材などを提供した。日本ではNHKがハイビジョンチャンネルでまず放映してから条例されたらしい。まあ、NHK、技術はすごいんだが、せこい。

 撮影の特殊技術について詳しいものに、
シネマトピックス 作品紹介『 エルミタージュ幻想 』

 日本の公式HPは、エルミタージュ幻想 -オフィシャルweb
 辛口の批評にhttp://home.att.ne.jp/iota/aloysius/cinema/05/c_russki.htm
http://www.gotonewdirect.com/newreview/archives/000036.html
 キャスト一覧は英語で、http://www.imdb.com/title/tt0318034/fullcredits
 ロシア語による記事は"Руский ковчег" Сокурова произвел в Каннах фурор
 作品に関するロシア語の総合HPは、http://www.russianark.spb.ru/rus/news.html

最新の画像もっと見る