むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

若者の間では「台湾主体性」は常識、民進党に必要なのはそれを深化させること(記事を分離独立)

2006-08-09 21:43:46 | 台湾政治
先に述べた「日台学生会議」で講師として呼ばれて学生たちと議論して感じたところでは、現在の台湾人の若い世代の台湾に関する認識が、台湾主体性意識でほぼ固まっていることであった。
先に「日台学生会議で垣間見られた現代台湾・日本の学生の意識」の記事で紹介したように、「台湾と中国は別の国か」という調査で、「別の国」と答えたのが9割前後に上ったこともそうだが、私が衝撃を受けたのは、若者の台湾史に関する論述であった。私が同会議の講師として、歴史と文化に関するテーマを出題して討論してもらったところ、なんと、台湾人学生のほとんどが台湾の歴史を説明する場合「外来政権による侵略の連続で、その中で多民族、多様な文化が混交して、独自の開放的な国となった」という説明を普通に(つまり何の気負いも衒いもなしに)述べたのである。
これは衝撃であり、驚きであり、うれしくもあった。

要するに、この間台湾本土派が主張してきた台湾主体性の歴史観が、若者の間で常識として受け入れられているということなのである。
それは民進党が洗脳したからではない。いまだに学校の教師は大学も含めて国民党系が多い。
それよりも、台湾が民主化し情報流通も自由になったことで、学生たちが冷静に主体的に考えた結果、民進党の主張が合理的で正当だからこそ受け入れられたといえる。
その意味では、馬英九国民党主席がいまだに「最終的な目標は統一」「ひとつの中国は中華民国」などといって、大中国意識を振り回しているのは、明らかに時代遅れであり、これでは国民党が学生に人気がないのは当たり前だろう。

ただし、問題はここからだ。
というのも、実際議論を聞いてみると、学生たちは国民党は時代遅れだとみなしているが、民進党を熱烈に支持しているわけでもないし、民進党の上の世代の対中認識とは微妙なズレがあることがわかる。
この微妙なズレこそが、実は最近の民進党の混迷の原因ではないかと思った。

というのも、若者は中国に政治的な警戒感と批判を強く持っている一方で、ビジネスや文化的な興味を示している。でも、その中身も実際に突き詰めていくと、それは「台湾主体意識が弱いから」ではなくて、逆に、中国を完全に外国だと突き放して見ているからこそ、日本や米国とのビジネスや文化に魅力を感じるのと同じように興味を持っているというからくりがわかる。
この点では、民進党の上層部や台湾独立建国派団体には、逆に中国を突き放して見ることができない一種の「二つの中国」意識があって、過剰に心理的防衛をしないといけなくなっているように見える。

若者はビジネスや文化に興味があっても、中国そのものはぜんぜん信用していない。ただし、現時点では短期的にはビジネスチャンスがあるのは事実なので、そこに限定して興味を持ち、また客観的に見て中国の文化や歴史は世界的にも面白いのは事実だから、そういう意味で関心を抱いているだけなのだ。

ところが、古い世代の民進党や建国派は、中国とビジネスや文化的な興味もいっさい断ち切ろうとする。だが、これこそが台湾を中国から切り離しておらず「飲み込まれる」という不安を抱いているからであって、本当に外国だと割り切れば、クールに付き合うことはできるはずなのだ。それを若者はやろうとしている。

台湾の若者世代は、台湾の価値や存在や尊厳については、実は民進党よりもしっかりとして、明確なイメージがあるのである。
つまり、民進党の台湾意識は、若者のクールで明瞭な台湾主体意識によって先を越されてしまっているのではないか?それが、若者が国民党や中国の政治的主張を嘲笑しても、そのまま民進党に包摂されない現状につながっているのではないだろうか?

現在の民進党および建国派の在野団体の中枢を占める50代に欠けているのは、中国を本当に外国と見て割り切るというクールな感情ではないのか?
今の若者は国民党教育を受けていない。いや学校では受けてきたが、ほかにもインターネットやほかの媒体でいくらでも多元的な思想に接することができ、そして自らの考えかたを切磋琢磨できている。
残念ながら、今の民進党や建国派の50代のほうが、国民党が注入した「中国大陸は共産党が占拠した匪賊の地域」という思考様式から抜けきれないのではないだろうか。匪賊である点は確かにその通りだが、だから徹底して悪口をいって排除しようというのは、逆にいえば自信の無さの現われだろう。台湾は中国と比べて劣るとはとても思えない。
その点では、今の台湾の若者はもっとクールかつ堅固な台湾主体意識を持っている。

民進党政権になって、台湾本土化教育はあまり進んでいないのが実情だ。確かに本土化と民主主義は民進党になって進展した。しかしそれはいわば若者を中心とした台湾人が自発的に覚醒して、自発的に学習してきた成果であって、民進党の働きかけではない。
そもそも働きかけようにも、民進党の政治的指導層自身が、実は台湾自体の価値が何かをよくわかっておらず、「台湾主体意識」と叫んでいるわりにはその中身が伴っていないのが原因ではないのか?04年立法委員選挙と05年県市長選挙で「本土を守れ」のスローガンが奏功しなかったのも、スローガンを叫ぶだけで終わり、具体的に本土のどうした価値を守るのか、発展させる方向性や青写真は何かが当人がわかっていないからではないのか?
民進党および台湾建国運動の危機は、中国による圧迫、馬英九「人気」、国民党組織も、要因として無視できるものではないが、実は最大の原因は自らの思考不足にある。
そもそも学生では9割以上が「台湾と中国は別の国」とさらっと言ってのけ、しかも一番意識が駄目な50代なども含めた台湾住民全体の意識調査でも「中国人ではなくて台湾人」と答える人が6割を超えて、どんどん増えているのが現状である。つまり、もはや「台湾か中国か」は台湾側に軍配が上がっており、決着がついているのだ。
国民党の「最終的統一論」など、時代の流れから取り残された遺物であり、その申し子である馬英九などゾンビに過ぎないのだ。

民進党が飽きられているのは、相変わらず「台湾か中国か」のスローガンのレベルにとどまり、一向に「台湾」の具体的な中身の議論に入らないから、飽きられているのである。
逆にいえば、民進党の従来の主張はもはや台湾の圧倒的な主流となった。もはや大中国意識など意味はない。民進党は勝利し、成功したのだ。その点民進党はなぜか自信をもてないのが不思議だ。
成功したという自信がもてないからこそ、次の一歩に踏み出せないでいる。
民進党が飽きられているのが、国民の意識レベルが民進党を追い越していることが本当の理由であるにもかかわらず、逆に「これは台湾意識が足りないためだ」などと勝手に勘違いして、さらに「台湾か中国か」に固執してしまう。これでは重症だ。

民進党および各種建国派団体が、台湾人の意識について正しく認識し、自らの成果について自信を持ち、次の一歩に踏み出す日が来るのを願ってやまない(一部には確かにその兆候はでているのだが)。


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