むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

民進党総統予備選挙公開ディベート

2007-04-14 17:41:26 | 台湾政治
14日午後2時から4時15分までは圓山(グランド)ホテルで来年の総統選挙に向けた民進党内予備選挙の公開弁論会が開かれた。同予備選挙の公開弁論会は3月24日にも独立派民間団体「台湾社」主催で行われたが、今回は民進党による正式の討論会。民視地上波とニュースチャンネル、ラジオのラジオ台湾インターナショナルがそれぞれ実況中継した。
予備選挙に立候補している四天王の謝長廷、游錫コン、呂秀蓮、蘇貞昌の各氏の順に入場、最初にそれぞれの政見発表を各6分、次に4人の学者による質疑と応答(質疑各2分半、応答4人それぞれ3分)、最後に4人の総括となった。

4人の学者の質問はそれぞれ
溥立葉教授:社会福祉政策をどうするのか
陳儀深教授:大型建設事業を進めたことで当初のクリーンさが減ったのでは
羅致政教授:米韓FTAなどで台湾が国際的に孤立化が進むかもしれないが、両岸と外交をどうやって進めていくのか
徐永明教授:国民投票、新憲法制定は現実にハードルが高いが、どう進めるのか。

使用言語は台湾語が多用された。特に最初の政見発表の部分では4人とも台湾語を使った。ただし、質疑応答では北京語も多かった。謝長廷は「台湾社」の弁論会のときは北京語を多用したが、むしろ今回は台湾語を多用していた。出だしの挨拶では、謝、游が台湾語、客家語、北京語、アミス語、蘇貞昌が台湾語、客家語、北京語で「こんにちわ」の挨拶をした。
(ちなみに游は宜蘭出身なので、ホテル=飯店をpuiN7-tiam3としっかり宜蘭訛りで発音していた)
テレビ中継では、手話も行われた。台湾の言語問題というとき、よく台湾語など口頭自然言語が問題になるが、手話と点字というハンディキャップの言語も忘れてはならない。しかも台湾の手話は、日本統治時代を引き継いでいるから、6割方日本手話と共通していて、「方言差」になっている一方、別系統で発展した香港や中国とはまったく通じないという面白い現象になっている。

弁論会に戻すと、4人とも共通していたのは、正名制憲を進め、台湾の国家正常化を目指すこと、台湾の名称で国連加盟をめざすことなどだったが、細部ではそれぞれ特色があった。
謝長廷は、出だしで「私の妻の姓は游で、母の姓は蘇なので、游と蘇には尊敬と親近感を持っている」といって聴衆を笑わせたうえで、「海洋国家」「運命共同体」など理念や哲学の基本を提示し、文化・環境保護・対中・外交・憲法など全体的な青写真を示した。外交的には米国や日本との信頼関係確立を訴えた。最後の総括では最近提唱している「台湾維新」というスローガンについて「日本に留学して勉強していたとき」と日本留学経験に言及して、庶民の間にある親日感情にも訴えた。
游錫コンは、4人の中で弁舌が劣るが、例によって朴訥、実直に急進独立的な主張で一貫させた。特に中華民国承認を謳った「台湾前途決議文」は「時代環境が変わり、もはや時代遅れになっている」としてその廃止もしくは見直しを主張したのは目だった。後の総括では語気を強めて「台湾の国家正常化を絶対に実現すべくがんばろう」と締めくくり、強い拍手を受けていた。ただ「理念」に流れすぎた観もある。
呂秀蓮は、これまでイメージとは異なり、対中柔軟化、「台湾は自らのアドバンテージに自信をもって、中国をうまく利用すべきだ」と主張した。しかし「台湾400年の歴史」の歴史観に立脚して、「台湾が中国と関係があったのは台湾史の短い間のことであり、台湾は世界の台湾であった」「総統選挙を実施して台湾の統一独立問題は解決された。だからこそ今さら独立統一を言うのは時間の無駄だ」と指摘した。
蘇貞昌は、演説原稿そのものは一貫していたが、質疑応答になってからは「中国との違いを保って、台湾アイデンティティを高める」などの原則論に終始していた。楽生院や蘇花高速道路でも弁明が苦しかった。ただ謝長廷と並ぶ弁才なので、表現力そのものは強い。

4人と陳水扁との距離関係についてだが、謝長廷が従来どおり、陳水扁と距離を置き、蘇貞昌に対しては蘇花高速道路や楽生院問題で批判的な主張をした。
以前は「陳水扁のイエスマン」といわれてきた游錫コンは、台湾社の弁論会以降独自路線を打ち出しており、今回も陳水扁への間接的な批判とも取れる発言を行った。台湾社の弁論会で出した蘇に対する批判は今回は出さなかった。
それに対して、呂秀蓮はたびたび陳水扁を引き合いに出して褒め称え、蘇貞昌も現職行政院長という立場もあってか、陳水扁を持ち上げる発言が目立った。
これはいわば、謝長廷が独自の支持基盤を築いて最も優勢に立っているため、特に陳水扁の「ご威光」に依拠しなくてもよく、游錫コンは党内基盤が弱いからこそ逆に急進的な立場を打ち出すことで党内急進派の支持取り込みを狙ったのだろう。蘇貞昌は謝長廷に引き離されつつあるため、ここで陳水扁をヨイショすることで浮上を狙ったのだろう。呂秀蓮も游錫コンに追い上げられているので危機感を持っているのかも知れない。
対中関係や独立色では、謝と蘇が現実派、呂は総論では現実派だがやや急進派の部分も残しており、游が明確な急進派だった。

声援と拍手が一番多く、しかも熱狂的なのは、謝長廷で、次が蘇貞昌だった。游錫コン、呂秀蓮は入場の時はパラパラで、むしろ司会者が拍手を促す場面もあった。しかし、弁論が進むにつれて、謝への声援は同じように強いものの、蘇への声援は減って、游への声援が増えた。
ただ、やはり謝長廷系と蘇貞昌系との対立はかなり激しくなってきた観は否めない。弁論会でも謝と蘇の間で蘇花高速道路建設問題で、舌戦のような場面があった。前日夜に陳水扁がわざわざ「4人とも対立は避けるように」というニュースリリースで訴えたものの、あまり効果はなかったようだ。
このままでは将来的に禍根が残るのではないかと若干心配である。もちろん民進党は「個人を選ぶ」のではなく「党で選ぶ」革新政党の集票方式なので、予備選挙の敗者も、それを認めて勝者に協力しないと支持層に呆れられ、一挙に信頼と支持を失ってしまうところがあるから、公開競争の予備選挙を通じて公認候補が確定すれば、敗者もしたがわせざるを得ない。ただ、それでも若干のゴタゴタは予想される。
また、弁論内容そのものの問題としては、4人とも「原則論」に流された嫌いがある。だから憲法制定・改正をどうやって現実に進めていくかとか、FTAなど国際経済的な問題をいかに克服もしくは実現するかなどについては、具体的な主張が聞かれなかった。(ただ国民党にそれがあるわけでは決してないが)


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