むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

田中宇氏「台湾政治の逆流・2」の誤り(各論)(コメント可)

2005-05-12 23:27:09 | 台湾政治
次に「台湾政治の逆流(2)」に批判を加えたい。

参照HP:http://tanakanews.com/f0510taiwan.htm


>【この記事は「台湾政治の逆流」の続きです】

> 胡錦涛は、台湾という魚を、湾の中の養殖場に閉じ込めて生か
>しておきたい方針であると感じられる。魚が海に逃げていかない
>よう「反分裂国家法」という「仕切り」を作る一方、魚が最小限
>泳いで生きていける生け簀的な政治空間を「一中各表」の枠組み
>として与えている。中国側が、民主化の面や国内安定の面からみ
>て無理なく台湾を併合できる日がくるまで、台湾を生け捕りにし
>ておこうとする戦略である。

問題は、中国が密室で考えたそういう戦略が、民主主義と多元的な言論が実践されている台湾に対しては、裏目に出てしまっているということである。裏目に出ているということに気づかない田中氏はまったく台湾の動きがわかっていない。
中国政治の策略は、相手が中国人と同じように悪意と策略に満ちている人間からなることが前提であり、かつその場合でのみ効果を発揮する。ところが、台湾人と中国人は文化的にも思考パターンも完全に異なっているのである。だから、中国人になら通用する「権力のあるものを抱き込んで下のものにいうことを聴かせる」という戦略を、許文龍や連戦で取ったのだろうが、台湾の民意には逆効果になってしまっている。誰も中国におべんちゃらを言う人間なんて尊敬しないからだ。台湾人はマレー系が基本なので誇り高いのである。一見するとへらへらしていてフレンドリーだから、田中氏のような洞察力が欠如した人には見えないのかもしれないが、台湾人は人間みな同等だから、「上の人間」だろうが、気に入らない意見だったら聞かない頑固さがあるのである。
ひょっとして田中氏は、中国の戦略はきわめて巧妙だから、単純な台湾人はわなに引っかかると思っているのだろうか。しかし、策士策におぼれるということわざもあるように、台湾人はあまりにも単純であるからこそ、中国の練に練られた戦略は通用しないと見て良い。妖怪サトリが無意識の人間の行動を悟ることができなかったように。台湾人はそもそもあまりにも移り気であり、気分で行動している。それを練りに練った戦略で動かそうとしても無理がある。しかも練りに練ったといってもしょせんは共産党の密室政治の陰謀である。2300万もの人間をごく数十人で考えたことで動かそうという発想がしょせん無理なのである。

> 以前なら、アメリカという助っ人が、海の向こうからやってき
>て生け簀の仕切りを外してくれたかもしれないが、現在のアメリ
>カは、台湾が海に逃げ出す(独立する)ことに反対を表明し「一
>つの中国」を肯定したうえで「胡錦涛と陳水扁は直接話し合いを
>すべきだ」と主張している。つまり、アメリカは台湾に「生け簀
>の中で生きろ」と言っている。

ただし、米国は中国には台湾を武力攻撃したら許さないともいっている。それに台湾が極度に中国寄りになっても米国は許さないだろう。現実には台湾が中国になびくことはなく、台湾世論が許さない。つまり、米国としては、台湾独立ばかり神経を使っていればいいから、台湾独立ばかり牽制しているように見えるだけのことである。
(とはいえ、その米国の戦略も、台湾の民意の前では、通用しなくなりつつある。台湾も韓国とは別の意味で、米国の意向に従わなくなっているのである)

■国民党と親民党は中華民国支持であって、北京支持ではない

> 3月4日、生け簀に向かって胡錦涛がまいた「中国は一つだと
>言う人なら誰でも歓迎」という「まき餌」に食いつき、その後相
>次いで中国を訪問したのが「一つの中国」「中華民国」を支持し
>続けてきた国民党と親民党だった。

つまり、国民党や親民党と、北京政府の立場はまったく異なっているのである。国民党などのいう「一つの中国」とは「中華民国」であって、中華人民共和国ではない。もちろん国際社会で中華民国などは通用しないので、一つの中国をいっている時点で、中華人民共和国に有利な効果をもたらしているのは否めないが、しかしあくまでも国民党は中国が否定する中華民国を掲げているのであって、それは中国としても本音では面白くない。

■陳水扁は統一に転換したのではない

> そうではなくて、宋楚瑜が国民党と合併せずに陳水扁の民進党
>と組み直したことにより、アメリカから「台湾独立はやめなさ
>い」と批判され、できることなら台独を捨てて方針転換したいと
>考えていた陳水扁は、独立から統一の方向に転換することが可能
>になった。

そもそも米国は台湾が統一されることを望んでもいない。しかも宋楚瑜は統一派ではない。陳水扁は統一に転換しているわけではない。

> そして、宋楚瑜に捨てられ、国民党の党首を辞める日も近くな
>った連戦は「こうなったら、やりたいことをやってから引退しよ
>う」と考え、

連戦の動機についてのこの部分は、珍しく当たっている。だが

■連戦の訪中で台湾人が印象にあるもの

>国民党の党首として60年ぶりに大陸を訪問し、4月30日に胡
>錦涛と歴史的な会談を実現するに至った。宋楚瑜の謀略は陳水扁
>と連戦を動かし、台湾は反中国から親中国の方向に劇的に転換した。

台湾は親中国になっていない。連戦の訪中で台湾人が覚えていることは、西安の小学校でオーバーアクションのパフォーマンスで歓迎されて、台湾の記者や連戦の息子までがあまりの奇妙さと滑稽さに爆笑していたのに、連戦だけが感動していた馬鹿さぶりだけだ。いまの台湾の若者の間で流行しているのは、西安の小学生のパフォーマンスを真似したり、パロディにして茶化すことである。そして台湾の大学生は筆者に「あれは、すごく笑える。あんなばかげたことをやっている中国は台湾と文化がまったく違う」といったものだ。
連戦や宋楚瑜はまじめに「祖国」を訪問したつもりかもしれないが、台湾人の印象としては「中国は変なパフォーマンスをするばかげた国で、台湾とは文化も違う」というものが強烈に強まっただけなのだ。そういう意味では今度の相次ぐ訪中劇は台湾人の独立意識を高めるのに貢献しているといえる。
台湾人は、中国を嘲笑の対象にしているのだ。

■国民党の支持率上昇は認知度上昇に過ぎない

> バランスをとった訪中を行い、胡錦涛との歴史的会談をも実現
>させた連戦に対する党内外からの人気は高まり、国民党に対する
>支持率は訪中後に10ポイント上がり、7月の党大会で引退せず
>続投してくれと連戦に求めるいう意見も党内から続出する事態と
>なった。連戦の訪中は、台独支持の高まりで死にかけていた統一
>派を思いがけず復活させることになった。

台湾人は連戦が中国訪問で何か成果があったとか思っていない。覚えているのは西安の小学校の寸劇だけ。だから中国と連戦は結果的に馬鹿にされている。なぜ国民党の支持率が上がったかといえば、最近ニュースで民進党の文字ばかり報道されて、影が薄かった国民党の露出度が上がったため、認知度と知名度が上がったからにほからならない。台湾人は単純なのだ。単純すぎて「連戦の訪中が良かったから」ということすらもぜんぜん思わない。もし、これが「訪中そのものの成果」だと田中氏と国民党自身が感じているとしたら、後でしっぺ返しを受けることになるだろう。

■現状維持とは独立に向かうことを意味する

> 台湾の民意の中心は「現状維持重視」であるが、どうやって現
>状を守るのが良いかという点で揺れ動いている。

揺れ動いてなどいない。台湾で現状維持というのは、台湾主権独立の現状維持であって、統一に向かうことは現状維持を意味しない。だからこそ、15年前から今日まで「現状維持」といいながら、国会の全面改選、総統直接選挙など、独立国家としての体裁を整える方向に進んできたのである。しかも現状維持は10年前と比べても内実がはるかに独立寄りになっているし、いま「統一派」と見られているものは、15年前に独立派だとみられたことをいっているに過ぎない。そういう意味で台湾はどんどん独立に傾斜しているのであって、統一が巻き返したと思うのは単なる幻想である。

>これまでは「中
>国に強引に統一されるとひどいことになる。独立を唱え続けるこ
>とこそが現状維持である」という台独派が強かったが、連戦の訪
>中とともに「中国はそれほど強引ではない。中国市場こそが台湾
>の生きる道だ。生け簀は意外と心地よい。独立など唱えず、中国
>と交渉しつつ現状を維持する方が良い」という統一派が強くなった。

ここまで妄想が爆発すると何も言うことはない。

>し
>かしこの時期、陳水扁があえて外遊したのは、ほかの理由があっ
>た。連戦の訪中に対し、民進党内でどんな意見が支配的になるか、
>見極めがつくまで国外に出ていた方が、自分に火の粉がかかりに
>くいという判断だった。

陳水扁の外遊は、2月から決まっていたことであって、2月に行く予定が延びていただけのことである。連戦訪中と関係がない。だから「あえてこの時期に」というのは下衆の勘繰りというべきもの。

>この日、宋楚瑜は責任を逃れるためか、自分ではなく代理の親民
>党幹部に祭文を読ませた

事実関係もいい加減。これは新党の議員であって、親民党ではない。

> とはいうものの、これで台中緊密化は終わりかというと、そう
>でもなさそうだ。陳水扁が台独側に再転向したことについて、連
>戦の国民党や中国側は「陳水扁の再転向は、5月14日に予定さ
>れている台湾の国民大会代表選挙を乗り切るため、一時的に党内
>を結束させる必要があったからで、選挙が終わって一段落したら、
>再び中国と交渉しようという態度に戻るだろう」と予測している。

ならない。

> 私には、国民党と中国側の予測は妥当だと感じられる。

国民党の予測は、何度も外れているから、国民党が野党になっていることがわかっていないのだろうか?

>それは、アメリカが台中双方に対して「交渉せよ」と求めている
>ためである。

米国は本気で交渉してもらいたくない。そんなことされて和平が実現したら、台湾に武器が売れなくなってしまうからだ。
米国は台湾で独立志向の民意が強いことを見越している。米国が対話をそそのかしても、台湾の民意の反発があるから、台湾が急速に対話を進める心配がないからだ。

> アメリカは以前から「一つの中国」の原則を承認しており、

一つの中国原則の承認どころか、そもそも一つの中国という原則や用語を作ったのは米国なんだが。米中外交史を知らないのか。

> 今後、胡錦涛が誘い続けても陳水扁が乗ってこない場合、悪い
>のは台独にこだわって交渉しない陳水扁の方だということになり
>かねない。すでにアメリカの後ろ盾が失われている以上、陳水扁
>は、政治的なポーズを越えて本格的に台独の方向に戻れない状況
>になっている。

陳水扁が台湾独立を推進しないなら、民進党から攻撃されてへたしたら政治生命を失うだけのこと。米国や中国の権力的な意向や策略など関係ない。台湾には民主主義を通じた民意があるのだから。
パワーゲームと権力者の意向ばかりで政治がなりたつと思っているとしたら、田中氏にとって民主主義の意味とはなんだろうか?


> 日本人の誤読が起きる背景には、前回の記事に書いたとおり、
>アメリカの対中政策は本質が見えにくいことがある。日本人はア
>メリカを誤読し、中国人は日本を誤読していると感じられる。

これは田中氏自身に当てはまることだ。


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