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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵局-46-

2009年01月23日 | 投稿連載
※いよいよ古海さんの連載もラストです。
 長い間ご愛読ありがとうございました。
 なお初回に掲載したオオカミ犬の写真は出所
 は言えませんが、10年前にある山で見つかっ
 た本物のオオカミ犬の写真でした。
 
 こちら、自由が丘ペット探偵局 作者古海めぐみ
       46
 その宣言した犬飼健太の言葉は、春が予想した
よりも大きな波紋になって、時間が経つにつれて
国立博物館イヌ科動物研究会八木グループの間
でも健太の宣言がプロの意見として重用され、
都内近郊では探せないだろうという雰囲気が
広がっていった。
確かに太平洋に逃げた珍しい小魚をボートで探せ
というようなもので、探索のプロとして健太は
無理だと言わざるを得なかったのだろう。
それこそ逃がした魚は大きかった。もし田村良弘
が申し出て、犬飼健太がナナを探し出して、上田
祐二が体面したナナの証言をして、猫田春が自分
を何回も救ってくれたヒーローだと賞賛して、
捕獲したナナが八木グループによって百数十年
前に忽然と消えてしまったあのニホンオオカミ
の子孫だということを証明したなら、次の日の
各紙一面は、ナナの写真とお手柄の健太たちの
インタビューが紙面を飾り、日本のみならず世
界中にそのニュースが発信され大騒ぎになった
ことだろう。
しかし事態はそうはならず、秩父の山に帰った
ナナことキバは、今でもニホンオオカミの目撃
者たちが現実に捜索に入っているように八木主
幹の面々もその探索者の一団として年に何回か
山に入ってオオカミの遠吠えを流してエサ撒き
のフィールドワークをするという地味な活動を
することを余儀なくされた。
そして犬飼健太は、八木氏が帰ってニ三日もし
ないうちにそんな幻のニホンオオカミのことな
んかすっかり忘れて、目黒川に逃げたワニを捜
すという実入りのいい大仕事に専念していた。
悪徳ブリーダーの息子から受けた怪我と心のダ
メージはすっかり消えて田村といっしょにゴム
ボートで目黒川を下っていた。
その安田夫婦は、裁判で動物虐待と遺棄に関し
ては30万円の罰金だったが、シラネと真一が
健太と春をコンクリ詰めにした殺人未遂の幇助
罪でさらに重い懲役刑を科されて裁判は長引い
ていた。
健太を拉致し殺害しようとした息子とは奥多摩
湖でのペット遺棄の目撃を隠蔽しようとした犯
行動機と利害が親子で一致して、現実に健太の
多摩川河川敷の葦小屋への移送を止めずガソリ
ン代を渡して手助けした疑いは、検察の安田ブ
リーダー動物虐待及び殺人未遂事件の罪の追求
の決定打になった。
そういう意味では健太が身を挺して悪徳ブリー
ダーの罪を重くしたことになった。
「日本にはアニマルポリスがないんだ。」
ドブ臭いコンクリの護岸に囲まれた目黒川に浮
かぶボートの上で健太は、双眼鏡を眼から外し
て独り言のように呟いた。
「動物の警察ですか。」
田村がオールをゆっくり漕ぎながら尋ねた。
「アメリカやヨーロッパと違って、まだまだペ
ットを飼う意識とかマナーが薄く、家畜の延長
線みたいなところがあるからなあ。」
「自分も元カノもそう言われればナナを飼った
ときのことを思い返すと恥ずかしくなります。」
「家族の一員。同じ命だと自覚すればそんな簡単
に捨てたり保護センターに送ってガス室で処分
するなんてことは出来ないはずだ。年間30万
匹もの犬猫が殺されているんだ。まるでアウシュ
ビッツじゃねえか。」
「よくわかります。ぼく、助けたいです。ペット
たちを。これからは・・・・」
「そのためにもアニマルポリスが必要なんだ。
おれはこの仕事をしていてつくづくそう思うね。
何でもいいから、それを実現するためには、ペッ
トを虐待するやつ、簡単に捨てるやつを一人でも
捕まえて行くしかないんだよ。組織や法律を使っ
てなんておれにはできないからよお。」
ゴロンとゴムボートの舳先に頭を乗せて仰向け
なると健太は大きく伸びをした。彼の視界には
川の両岸に植えられた桜の樹の青葉とその間に
広がる飛行機雲が理想に向かう一筋のアリの行
進のように這って行った高い空とが映った。
田村は、漕ぐのをやめて輝く川面に眼をやった。
川の水に空が映っていた。
雲が流れて、水も流れて町の騒音がだんだん遠
くなって、沈黙が眠気を誘ってきた。
ぽかぽか陽気ー。
健太も田村もこの陽気のせいではなくこの仕事
に対する熱く強いチカラがこみ上げてくるのを
お互い口には出さないが心の中に感じていた。
健太さーん!
川岸の遊歩道を春がサイクリング車で走ってきた。
春ちゃーん?
健太は、素早く起き上がると田村に岸につける
ように命じた。
「ワニを見たって子供がいたよ。」
「えええ?どこで。」
「五反田の先の目黒川で。」
「本当か。」
「ちょうど五反田のイマジカで写真現像の講習
会があって帰りに下校の小学生から聞いたの。」
そう。そうか。ありがたいー。と健太が返事をす
ると同時に護岸にガタンとボートがぶつかった。
バカ。丁寧にボートをつけろよ!と田村の頭を
ポカリと小突いた。
痛いっ!、と田村はうれしそうに頭をさすった。
「はーい。」
と春は真下のボートへサンドウィッチの入った
紙袋を投げた。
健太が起用に受け取ると投げキッスを返した。
「サンキュー!春ちゃんやっぱ優秀な隊員だ。」
「お昼余分に買ったの。」
健太は袋からサンドウィッチを出して田村と分け
るとパックリと頬張った。
うめいっ田村が唸った。
健太もおいしそうにモグモグ噛んで笑った。
「やっぱ春ちゃんとは穴の中でいっしょに死にか
けた仲だからなあ。今夜自由が丘のカントリーで
メシでも喰うう?」
「残念でした。今夜はキッズローブのお客さんの
スタジオ撮影があるの。祐ちゃんから頼まれた。」
と天使のような眩しい笑みを残して自転車を走ら
せた。
河上からセイコちゃんが低空飛行で飛んで来て川下
の空高くカアカアと茶化すように羽ばたいて行った。
「うそっ。あいつ、上田の野郎。出し抜きやがって」
と叫んだ健太の喉にサンドウィッチが詰まって
咳き込んだ。
「うおーい。う待って。う春ちゃーん。」
川面の照り返しでキラキラと光る護岸の遊歩道
の並木道を長い髪を靡かせて春がどんどん小さ
くなって行く。
それを見送る健太と田村のボートが降りる場所
を求めてゆらゆらと目黒川を五反田へ向かって
進み出した。
流れてくる春風を全身に浴びてー。
行く手の上空では、小さくセイコちゃんがホバ
ーリングしてワニはこっちだと健太のボートに
催促して何度も鳴いていた。       
       第一話 おわり


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