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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー幽霊屋敷13

2009年05月15日 | 投稿連載
幽霊屋敷 作者大隅 充
     13
 兄ちゃんは、そう呟いて椅子に座っている
その子の埃だらけの胸を指でなぞった。
するとその拍子に骸骨の子が椅子ごとくるり
と回転して僕らの方へ振り向いた。

「山元惣一郎。五年二組。」

その骸骨の子供の青いセーターの胸にそう書か
れた名札が安全ピンでしっかり留めてあった。
僕は、生まれて初めて人間の骸骨を見た。
それも僕たちと同じ年の小学生のー。
幽霊やオバケのドクロとかはマンガで見たこと
はあったけれど、本物の、しかも子供の骸骨は、
思っていたよりも不思議と怖くも汚くもなかった。
とっても変な感想だけどそいつは、俯き加減で
大きく開いたふたつの目と半開きの口とが僕に
は淋しそうに見えたんだ。
怖いというよりとっても悲しい気持ちの方が先
に湧いてきた。
あれだけぶるぶる震えて心臓が止まりそうなぐ
らい怖かった感情が焼けた鉄板の上の夕立ちみ
たいにみるみる乾いていってこの恐怖の幽霊屋
敷に自分がいることすら忘れるほど奇妙に落ち
着いた穏やかな気持ちになっていた。
小便を垂れて床に這いつくばっていた秀人も僕
の股の間からその哀しいドクロくんをじっと見
つめていた。
誰なん?
僕は、静かな声でぴたりと動かなくなったタツ
ヤ兄ちゃんに訊いた。
するとじっとソウイチロウくんに目をやってい
た兄ちゃんが、日本語が理解できない人のよう
に質問した僕の顔を睨んで黙ってしまった。
仕方ないので僕は、もう一度同じ質問を繰り返
した。
この子、誰なん?
兄ちゃんはソウイチロウくんの名札を摘んで僕
らの方へ見せた。
「これって、人形だよね!」
完全に息を吹き返した秀人が細い声で念を押し
てきた。
「・・・・・・・・・」
タツヤ兄ちゃんは、僕と秀人を交互に見てゴク
リと唾を呑んで低い声で回答を出した。
「書いてるだろう。ヤマモトソウイチロウ。鉱
山王山元惣介の一人息子だべ。人形じゃねえ!
本物のミイラだ。」
ミイラー!
秀人と僕は同時に声をあげた。
「うんだ。ミイラだ。ほれ。手はまだ包帯が巻
いてあるし、胴も足も残っている。ただ顔だけ
が包帯が外れて骨になったんじゃねえべか。
オレ、深田画伯から確か10歳で息子を病気で
亡くしたと聞いたことある。その惣介翁の一人
息子がここに、開かずの書斎にずっと独りきり
でいたんだよ。」
「どうしてお墓に入れてやらなかったの。」
僕はデスクの周りの教科書や図鑑や絵の具セッ
トや先の尖ったままの鉛筆などを小さな明りで
照らして言った。
「いやあ。どうしてだかわかんねえ。みんな惣
介翁の墓にてっきり一緒に入っていると思って
いたべさ。ここにミイラになってソウイチロウ
くんがいたなんてオレらだけが今知ったんだ。
とにかく父ちゃんと駐在所の倉田さんに知らせ
なくちゃ。」
と兄ちゃんは、デスクの引き出しを何段か開け
た。すると一番下の引き出しの中から皮張りの
ノートが出てきた。
パラパラとめくったがどのページも万年筆でミ
ミズみたいな文字がびっしりと書かれていて、
なんだ、さっぱりわからんとぺっと床に痰を吐
き捨ててそのノートを兄ちゃんは閉じた。その
とき赤い紅葉の葉っぱが一枚ハラリと落ちた。
どうしてそんなことを思ったかわからないがそ
のしおりの紅葉がほしいな、と拾いたい衝動に
駆られたが我慢した。
「こりゃ、大変な発見だ。あした。夕張中の大
ニュースになるべ。」
長いことプールで溺れて保健室で寝ていた生徒
がやっと正気を取り戻したみたいにいつもの軽
いタツヤ兄ちゃんに戻って埃の舞う床の上でジ
ャンプした。
兄ちゃんの正気が伝播して秀人も急に臆病な子
豚に戻って、掠れた声で早く帰ろうと兄ちゃん
の手を引っ張った。
そして僕らが入口へ向かおうとしたその時、あ
の白い幽霊が飛ぶように書斎へ入ってきた。

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