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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

愛するココロ-31-

2007年10月19日 | 投稿連載
       愛するココロ 作者 大隅 充
                  31
 エノケン一号の頭から引っ込んでいたアンテナがにゅうっと出てきて、
両目のランプがパッと点いた。
アノトキ、アイスルココロヲ ミッペイシタ。ケシテワスレナイヨウニ。
「こいつ、生きてる。」
「本当だ。電気が点いた。」
マンガ本やオモチャの箱などが積み上げられた蔵の中でコンセントに扇風機
の電源コードでチビとノッポの小学生がエノケン一号の電源をつないだのだった。
それはちょうど由香とトオルが京都府内のビジネスホテルで二泊目
を決定したときだった。
 エノケン一号は、ゆっくりと首を回して周囲を確認した。隅の格子窓の前に
古い机が置かれパソコンとゲーム機とが何台も並んでいた。
「マナブちゃん。これ防水鋲打ってはるし、ドライバーでバラせへんよ。」
学と呼ばれたチビの小学生は、古い一眼レフカメラで正面からエノケン一号
を撮っていた。
「ユウちゃん。仕方ない。これ、長いザルを足につけて野球の玉拾いに
改造しようと思っとったけどでけへんなあ。」
 とパイプ椅子にどんと学が座った。
ユウちゃんこと祐樹はぴょいと机に座って足をぶらぶらさせながら溜息をついた。
「これがホンモノのロボットでスイスイ動いてくれたならなあ・・・」
すると埃りっぽい蔵の中が一瞬揺れて格子窓から差す陽の光の中で埃りの粒が
渦巻きはじめた。そしてギィーギィーと機械音がした。
「ああ。動いた。」
エノケン一号が前進、後退、回転そして前進した。
椅子から吃驚して転げ落ちる学と祐樹。
「ど、どうして・・・動いてはんの?」
「怖いやん。」
エノケン一号胸の液晶も点灯してきらきらと胸をはって止まった。
「わたしは、エノケン一号。」
「・・・・・?!」
「おい。今何も聞こへんかったよね。」
「いや。はっきりと聞こえた。」
と祐樹が即答すると学と二人して思わず合唱した。
『ロボットがしゃべったあ!』
「あと1時間40分充電しなければなりません。ごめんっ!」
学は、エノケン一号の腕にそっと触って、
「これ、ゲームセンターのしゃべる自販機やん。そうやん。」
「はいはい。初めからテープ録音したあれ。」
「なーんだ。なんだ。」
と学がエラーメッセージで何をやっても止まらなくなった暴走パソコンを
強制終了するみたいに慌てて電源コードを抜こうとすると、エノケン一号が
透かさず回転して学に向き直って距離をとった。
「まだ充電が終わってません。抜かないでください。」
「えっ?自分でしゃべってるよ。こいつ。」
「自販機じゃないの。」
「ごめんっ。自販機ではありません。」
学と祐樹は、ゴクンっと生唾を飲んで肩を寄せ合った。
「このまま充電補給してもらえれば、何でもします。だから抜かないでコード。」
学が一歩近づくとエノケン一号も一歩下がる。
「わかった。わかったよ。」
どんと又パイプ椅子に座った。
「ありがとう。あと充電完了まで1時間33分。待機します。ごめんっ。」
埃りの舞う日差しの中で祐樹と学は顔を見合わせて引き攣った微笑みを交わした。
「申し訳ありませんが電源コードを踏んでます。どいてください。」
立っていた祐樹がエノケン一号にアームで示される通りに自分の足元を見た。
机の壁のコンセントから出ているコードをスリッパの足で踏んでいた。
「あああ。ごめんな。」
そう祐樹は言うと足を外した。すると外の廊下から女の人の声が聞こえてきた。
それは祐樹の母親の声だった。
「ユウちゃん。野球教室の時間でっせえ。学さんも一緒でっしゃろ。
早よう支度しなはれ。」
『はーい。』
ふたり揃って返事を返した。
それから数時間後。
同じ京都も外れの山の中でトオルと由香は、漕ぎ過ぎて油の切れたチェーン
でキリキリ言わせながらそれでも諦めず坂道を自転車で漕いでいくように
エノケン一号捜索に取り憑かれていた。
 陽はどんどん音を立てて斜めになっていた。
電話帳の廃品業者を片っ端から電話で変な冷蔵庫みたいなものを回収して
いないか聞いて回り、この2日間で怪しいところはだいたい見て回った。
後は最終処分場だけだった。
 森の中、杉木立ちの林道をトオルと由香のワゴン車が走っていた。
「もう産廃所は、これで三軒目になるよ。」
ハンドルを握るトオルが疲れた声を出した。
「うん。この洛北の処分所を見たら大阪の方へ行こう。」
同じく疲れているが鋼のような強い声で由香は提案した。
「ええ?大阪。でももう今日は無理だよ。」
「とにかく後一軒。」
森は午後四時を過ぎるともう薄暗かった。
悪魔の誘惑は、こういう暗い森で起こるのだろうとトオルは思った。
その悪魔は、赤頭巾ちゃんでも子羊でもなくエノケン一号捜索という行為を誘惑し
餌食にして暗黒の魔界へ連れ去った。
処分場には、それらしき機械類の届もなかった。リサイクル家電は、メーカーに
よって分解工場が分かれていたし、スクラップ及び鉄類の集積場のどこにも
エノケン一号の残骸はなかった。
「もう諦めよう。手がかりがなさ過ぎるよ。」
「・・・・・・」
トオルのその言葉は、ワゴン車のエンジン音と共に消えていった。
「ぼくたちの責任じゃないよ。エノケン一号は自分で勝手にいなくなったんだもん。」
由香は、しばらく黙ってから、
「もう一度エノケン一号に会いたい・・・」
と洟をかむとぽつりと言った。

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