カジュアル・アミーガ         本ブログの動画、写真及び文章の無断転載と使用を禁じます。

ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

ユーハイム2~シーちゃんのおやつ手帖126

2010年02月26日 | 味わい探訪
ドイツのこどもの歌をモチーフにしたケーキ。
ドイツ人デザイナーのペーター・シュミット氏がスケッチを描き、
マイスター安藤氏がお菓子に作り上げたシリーズです。
見た目が可愛いだけでなく、味も本当に美味しい☆
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

さすらいー若葉のころ5

2010年02月26日 | 投稿連載
若葉のころ 作者大隅 充
      5
 若熊が小鳥を乱暴に抱きしめている。
 小鳥は喜びにプルプル震えている。

私のウェッジウッドの紅茶カップに注がれた食後
のクスミティーの褐色の液体に紅茶の小さな葉が泳
いでいる。それが先ほど見た恍惚に浸り震えていた
トモミという小鳥の千切れた羽のように見える。
私は、言葉が出てこない。
 トモミは、東京の生活がどれだけ期待はずれだっ
たかを紅茶のおかわりをしながら話している。地下
の短い情事で余程喉が乾いたのか一杯目のクスミテ
ィーを一息に飲み干す、そのトモミの喉には、紫の
細いキスマークが白いタートルネックの襟から覗い
ている。
 私は、ただトモミの話に空虚な相槌をうっている
だけ。奥に引っ込んで出てこないあの、バンダナの
若い店員の筋だった指が私の頭の中から離れない。
ワシが甘く柔らかい白うさぎを掴んで冬空高く舞う
ように鋭く力強い命の意志をあの指に感じる。今目
の前で少女のような笑みを交えてしゃべっているト
モミがその強い指を招き入れている。
掴まれることを烈しく渇望して。
 私はそのことがおそろしいと思う。でもトモミだ
からできるので私にとって別世界。
 知り合った16歳の時からずっとトモミは私より
大人だった。八戸や山奥のペンションを生活の基盤
としている私からすると東京から離婚したとはいえ
帰って来て、こうしてポルシェを乗り回しているリ
ッチで美しい姿はやっぱりとてもじゃないが敵わな
い。トモミはどこまで行っても私より遥か先を疾走
している。
 私は、紅茶カップの中の小鳥の羽をゴクリと呑み
こんだ。するとその羽が奥歯に絡んで苦味の葉っぱ
となって舌にしばらく残った。
    X    X    X
 久慈で私は、トモミと別れた。
国道395号で軽米へ抜ける道へ私は入り、トモミ
は、国道281号で岩手から盛岡へ薄闇の山道をポ
ルシェのお尻を振りながら猛スピードで帰って行く。
 私は、初めて通るこの道が無事に折爪岳まで行く
のか不安になりながらハンドルを握り、トモミは自
分とは正反対の女だとつくづく思う。誰ともすぐに
打ち解けて社交的な彼女にいつも届かないと昔から
思っていたけど今日もそうだった。
しかし早朝のあの人を見送った哀しみをトモミが和
らいでくれたのは事実だ。ついさっきまで自分がセ
ーラー服を着て半径数キロの学校と自宅の間でウキ
ウキしていた女学生の自由時間に戻っていたのも又
事実だもの。時間をつい忘れて取り止めもない話題
にキラキラと懐かしい回転木馬が廻って喋り放しだ
った。もっとも私は聞き役専門だったけど。
 あの地下でのトモミとバンダナ店員との交わりを
隔てて前も後も彼女は平気でよく話した。トモミは、
話したい言葉が先に唇から出て舌がもつれる。ちょ
うどキツツキみたいに口を尖らせて早口になる。声
が高いので男の人から見ると可愛い。
それは又高校生の時と少しも変わっていないトモミ
の天性の武器。
 しかしそれにしても一番大事な話題を帰る時間が
迫った最後になってトモミはした。
 高校三年の担任だった成清先生が肺がんが再発し
て余命数ヶ月もないという情報を生徒会長だった島
津君からトモミが聞いたという。それもこの話を最
後も最後食後のデザートと一緒に紅茶を注文して二
杯目をカップにポットから注いで初めてトモミは、
そういえば西高のナリキヨ先生さあ、と長々と盛岡
に出来た輸入雑貨店の品揃えがいかに悪いかと述べ
た後にやっと二人の共通の話題であるこのナリキヨ
先生のがんの話が出てきた。
 近いようでこの十年弘前のナリキヨ先生には会っ
ていない。五年前にあった西高の同窓会もペンショ
ンのシーズン期で忙しくて行けなかった。いい先生
だった。
 色白で玉三郎とみんなから呼ばれていた。英語の
先生で文法や構文読解が得意で発音はけして悪くは
なかったがaの母音がいつも訛っていてCUPなの
かCAPなのか聞き取りにくかった。
 自分としては是非一度会いに行かなければならな
い。来週夫が帰って来て家のことが一段落したら、
マリエントの休みを利用して行ってみよう。おそら
くその頃には、あの人も外洋から帰って来ているだ
ろう。 
 少し車の量が減ったのでアクセル踏んで少しスピ
ードを出してみる。とその時フロントフォルダーに
挿していたケイタイが鳴る。
 トモミからだった。
「ナリキヨ先生の入院している病院、オマツが知っ
ている。オマツのメールは以下の通り・・・・」
 私は、路肩に車を停めてトミーから送られてきた
オマツこと松本早苗のメールアドレスを自分のアド
レスフォルダーに登録した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする