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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵局-42-

2008年12月26日 | 投稿連載
こちら、自由が丘ペット探偵局 作者古海めぐみ
       42
 猫田春は、この悪徳ブリーダー事件から救出された次の日より
スタジオHALの定休日を含めて丸二日ゆっくりと自宅で休んだ。
穴に落ちたときの肩の打撲と膝小僧のスリ傷がお風呂に入ると
痛んだけど後は、どこもおかしくなくてすぐに自由が丘のスタジオ
で仕事をすることはできた。若干精神的に辛くて、底に落ちてから
浮上するまでにはまだ時間がかかるように見えたものの、若さと
陽気さが瞬く間に身体の立ち直りを実現させていた。
しかし二日目。起きて昼からでも写真館を開けようと思っていた
春に、一本の電話が事件の嵐の穴底から完全に這い上がるのを
ご和算にしてしまった。
それは、あのハルおばちゃまの息子の水野正さんからの報せだった。
春は、歯を磨いてこれから朝食のパンをトースターに入れて目玉
焼きでも作ろうとしていたところだった。
「あのう。水野です。いろいろうちの母がお世話になりましてすみ
ませんでした。先ほど静かに亡くなりました・・・」
春は、歯ブラシを口の中に突っ込んだまま『ああっ』と萎んだ風船
のような声を発したきり、ベッドに座って動かなくなった。
「本当に母があなたと会えたと喜んでおりまして、奥多摩では助
けていただいてありがとうございました。」
「そうですか・・・あまりに急で・・・ご愁傷様でした・・・」
そう、春ははっきりと言ったか振り返っても自信がない。とにかく
反射的にお悔やみを言わなければと思ったことだけは明白なのだが、
きちんと返答できたか言葉をケイタイ越しに発しているその瞬間
も遠い異国の他人の外国語のようで意味が相手に伝わったのか模糊
として確信がもてない。
気がつくと、通話は切れていた。
身内だけで葬儀をしますので、お報せまで、お世話になりました、
と水野正が言った言葉は断片的に思い出せるが春自体、どのように
返事したか全く覚えていない。ただ最後に「どうも」と言ったよう
な気がしている。
 あの、お祖父ちゃんの愛人だったと自らウソ吹いた可愛いお婆
さんがこの世からいなくなった。元気にワインを飲んでいたあの
ハルさんがもういない。わたしたちを振り回して奥多摩湖まで
呼び寄せたあの、イタズラな水野ハルさんが本当にいなくなった。
しばらく毛布に包まって春は眠った。
すっかり身体のあちこちからこの二日で消えていったハズの打撲の
痛みと疲れが遠い日の霜焼けのように疼き出して、そのズキズキ
する重い苦痛が甦ってきてベッドに横たわった春の若い身体を深い
睡眠へと導いた。
 随分時間は過ぎて、朝日の差し込んでいたレースの窓はもはや
真っ暗で一日が終ろうとしていた。
珍しく鼾をかいていた春を再び目覚めさせたのは、やはりケイ
タイの着信音だった。今度は上田祐二からのメールだった。
ー今みんなキッズローブにいる。健太さんの快気祝いをこれから
オカジデパート屋上の探偵事務所でやるよ。春ちゃん是非来てちょ!
春は、起き上がって壁のカナダでお土産にマリア・ワタナベから
貰った動物をあしらった掛け時計を見た。
8時を短針が差していてその文字盤にはシンリンオオカミの絵が
描かれていた。
因みに長針は、コヨーテだった。
一瞬春は、今どこの時代に自分がいるのかわからなかった。
ハルさんが死んだという電話は夢だった。
なんだか自分は悪い夢を見たなと嫌な味のする舌を口の中で拭って
唾を飲んだ。
そして上田へ今から行きますと返事のメールを送って、ケイタイ
を閉じると薄手の明るいブルーのブラウスに袖を通してスカート
をはいた。クロゼットの脇にあるIKEAで買った姿見に自分を
映して、長い髪を櫛で梳いた。頬が少しこけているのが気になった
が疲労は感じなかった。そしてテーブルで化粧をしようと今度は、
コンパクトミラーを覗いたら、目尻に涙の痕を発見した。
春は急に不安になった。
するとさっきショルダーバッグに仕舞ったケイタイが無償に気に
なって、春はケイタイの着信歴を繰り出した。
今日の朝十時八分。水野正のケイタイ番号が現われた。
ハルさんが亡くなったのは、夢ではなかった。
春はその電話番号に電話をかけてみたが、葬儀中なのかつながら
なかった。春は、今着たばかりのブルーのブラウスの襟と胸に汗
をかいているのをがわかった。
ハルおばちゃまが亡くなった。
今度は汗をかいたブラウスの胸の奥の、心に弱い痛みを感じた。
トルルルルー
ケイタイが鳴って犬飼健太からだった。
「春ちゃん。早く来いよ。花屋のツルさんも、ガスライトのマス
ターも来てる。みんな奢りだから。春ちゃんの快気祝いでもある
んだぜ・・・・」
そう早く口で捲し立てられた健太の電話に曇った声で一言答えて
電話を切った。
「今行く。」
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りすクッキー~シーちゃんのおやつ手帖77

2008年12月26日 | 味わい探訪
町田リス園の売店で売られているクッキー。
安くて可愛くて美味しい!言うことナシのお菓子です☆
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