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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵局-27-

2008年09月12日 | 投稿連載
こちら、自由が丘ペット探偵局 作者古海めぐみ
       27
 果たしてハルさんは、浮き橋から50メートルも行かない道路の真ん中で
倒れていた。春が胸に耳を当てると息は微かにしていた。野犬に追いかけられ
て転んでショック状態で気を失っただけだった。救急車で青梅病院へ運ばれて、
膝と額の擦過傷と軽い心筋梗塞で5日間入院した。
もちろん春の報せで息子夫婦が深夜車で着替えなどをもってすぐにやって来た。
 次日の朝。青梅線は、奥多摩から福生辺りまで霧がたち込めて踏み切りで
信号を待つ乗用車がどれもヘッドライトを点していた。
深夜遅く世田谷に帰った春だったが、ほとんど二、三時間の睡眠で居ても立って
もいられず早朝の新宿乗換えで青梅行きの電車に乗っていた。
 そして午前中の検診が終った頃に春は、四人部屋の窓側のハルさんのベッドの
脇に座っていた。昨日息子さん夫婦が深夜駆けつけても眠った状態のままだった
のが、今朝はすっかり目覚めて顔色は青白かったが今までと同じように人懐こい
笑顔を湛えていた。
ちょうど長い奥多摩湖のトンネルを潜って岩肌にコンクリを塗りこめた長い長い
その空洞の筒の先に縞の着物を着たハルさんが日傘で輝く湖をバックに小さな
小鳥ぐらいしか見えなかったのが段々心細気で、愛すべき、可憐で痩せこけた、
はっきりした立ち姿になるように、一時途切れそうになるハルさんという人の
存在が又近々とつながって見えた。
 春が「おはよう。」と声かけて、息子さんたちのことを聞くと明け方意識が
戻ったのを確認して車で一旦帰って行ったという。
点滴の小さなガラス管の中でナトリウム水の滴りを見つめながらハルさんは、
疲れているのか、それだけというと黙った。
窓の外からスズメのさえずりが異様に大きく聞こえてきた。
「スズメも霧が深くて飛べないのね。」
「こんな霧、珍しいわ。」
窓外は、乳白色でうすく木立や電柱が所々垣間見える程度で視界がなく、ここ
が三階なのか一階なのかわからなくなるようだった。
「どうして奥多摩なんか行ったんですか。」
しばらくしてスズメのさえずりの波が引き潮になったとき春がおばちゃまの
ホツレ毛を直しながら聞いた。
「だってね。人生はじめてのデートだったんですもの。」
「奥多摩湖が?」
ハルさんの眼に命の光が点った。
「想い出の場所だったってこと?」
「そううよぉ。」
まるで高校生の春の同級生みたいな気安い、貼りつくような口調でハルさん
は答えた。
「誰とデートしたの?」
春が身を乗り出してたたみ込むと、おばちゃまは天井を見上げて口を尖らせた。
「ねえ。教えてぇ。いいでしょ。」
と春がおばちゃまの肩を揺すったので、はいはい、教えますよ、と言うように
眼をパチパチさせて恥ずかしそうに春を見てこっくりと頷いた。
春は何をいいたいのか、おばちゃまの気持ちが汲み取れないで?と首を傾げた。
「うん。うん。ほら、、、」
「ええ?、、、」
「半次郎さん。」
10才の少女が誕生日に好きなものを買ってあげると親戚の叔父さんに言われて、
控えめにミッキーマウスの筆箱とささやくように掠れた声でハルさんは、春の
おじいちゃんの名前を呼んだ。
「お祖父ちゃん!」
春は、そういって自分の眼が曇るのを悟られないように立ち上がって窓を少し開
けた。背中でおばちゃまがクククっとイタズラな笑い声をあげるのが聞こえた。
「半次郎さん、水が好きだったのね。池とか湖とか・・よく連れてって貰ったわ。」
「若かったのね。ふたり。」
春は悲しそうな目になった。
「ええ。そうよ。若かったわ。苦しいぐらいにね。」
「そのときおばちゃま、・・・どこに、住んでいたの?」
窓から鼻先を出した春は、ベッドの人ではなく自分に向かって問いかけていた。
背中のベッドの上でひとつの小さなため息が聞こえてからしばらく綿のような
沈黙が広がった。聞こえなかったのかー。
春はドキドキして霧を見つめた。
霧は、山から川下へ意外に早く流れていた。
「もちろん自由が丘よ。」
またハルさんのクククっというイタズラな笑い声がその後につながった。
『北海道じゃなかったの!』
心の中で大きな声で春は叫んでいた。
「楽しかったぁ。あんな毎日が楽しいことって後にも先にもなかったわ。」
『どうして北海道の人と自由が丘の人が同時にデートできるのよ。』
「この歳になると、いいことしか頭の中に残らないのね。」
春は、次から次から流れてくる霧の粒を鼻で吸い込みながら涙が止まらなくな
って来た。
「でも私、思うの。こんな歳になってボケたり病気になったりしても、あの
時の、あの、自分がいたんだ、あんなにミサカエなく楽しがった自分がいたん
だと考えるだけで自分はよかった、あれがあるからもういいなあってって思えるの」
春は、シャツの袖を引き出して溢れる涙を悟られないように拭った。
「本当よ。想い出をもってるって強いことなのよ。」
と言うとハルさんは、点滴が終った合図のブザーを押した。
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ピーターゼン~シーちゃんのおやつ手帖63

2008年09月12日 | 味わい探訪
ピーターゼンはアンデルセンの系列店。
このハリネズミ君は今年の干支・ネズミにちなんで作られました。
見て良し、食べて良し☆形が可愛いだけでなく、味もバッチリ美味しいパンです☆
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