お待たせしました。(1)に失念していたケネス・ブラナーの画像を追加して更新しましたので、そちらを眺めていただいてから、この(2)をお読みいただければ幸いです。
この映画に限りませんが、ヒトラーのナチス映画をご覧になる場合、やはり押さえておかなければならないのは、どうしてこのような人物が独裁者になれたのか。世界一平和主義的な憲法と称されたワイマール憲法を持っていた当時のドイツで、どうして独裁体制が合法的に生まれたのかという歴史を踏まえないと当時のドイツ国民やドイツの軍人の心理や行動を理解できないのではないかと思います。
映画をご覧になる方は(特にお若い方は)、世界史の中における第一次世界大戦とその後のヴェルサイユ体制というものを思い出してほしいです。いま、学校でどのように教わっているのかわかりませんが・・・・ヒトラーは合法的に第一党の党首となり、ヒンデブラント大統領亡き後はその権限を合法的に委譲されて総統となり、若者を中心に熱狂な支持を受けて権力の頂点に上ったわけです。そして次から次と出された彼の多くの政策は多くの国民から支持されていくわけです。どうしてなのか、是非第一次大戦の戦後処理として締結されたベルサイユ条約の中身とその後のドイツの状況を勉強してほしいと思います。このような未曾有の死者を出した歴史を繰りかえさないために・・・・
さて、映画「ワルキューレ」のご紹介の後編です。
ワルキューレ作戦・・・・、それは、ヒトラーの親衛隊であるSSの中から造反者が現れてヒトラーが暗殺され(死亡し)たという状況を作り、その直後に放送網を押さえ、ベルリンに無傷のまま残っているベルリン防衛のための軍隊を掌握してヒトラーの側近たちを一網打尽にするというクーデター作戦です。
それが、いよいよトム・クルーズたちによって始動します。
そのためには、ヒトラーたちのいる後方の参謀本部に誰かが出かけて爆発物を仕掛けるわけですが・・・万一爆発する前に露見したら、その者の命はありませんし、その人物は、ただ処刑されるのではありません。当然SSによって仲間の名前を吐かせられるべく拷問されるわけです。そのような使命を果たせるのは、軍人しかいない・・・・なぜなら、そもそも、ワルキューレ作戦というのは、政治が背後にあっての軍事行動作戦だからです。そして、ヒトラーの作戦会議に同席できるのもまた高級軍人です。
ということで、片腕片目の体の不自由なシュタウフェンベルク大佐=トム・クルーズと彼の副官である青年、ヴェルナー・フォン・へフテン中尉=ジャイミー・パーカーが厳重な監視体制化の参謀本部に爆発物を仕込んだ鞄を持っていくことになるのですが・・・
後方に大佐の指示通りに動く人物がいなければならない。臆病風に吹かれて決断が鈍るような人物や臆病風に吹かれて行動に踏み切らない人物がいたら、このワルキューレ作戦は失敗する。トム・クルーズに新任されたこの人物、メルツ・フォン・クヴィルンハイム大佐はそのことを誰よりも知っていた。彼を演じているのは、クリスチャン・ベルケルという俳優で、映画『ヒトラー最後の2日間』にも出演していた俳優で、寡黙ながら存在感が凄い。
緊張した面持ちで検問を通過して作戦本部に来たはずの大佐たちが、会議もそこそこに、「総統の密命を受けたたので、急ぎ出発する」と語って検問を後にするも、そのような大佐たちの行動を訝しく思うSSの隊員・・・・直後に作戦会議室が爆発する!
一方、ベルリンでは、爆破成功の知らせが届くも、ヒトラーの死が確認できない限り行動は起さないという面々が出てきて、一人窮地に立たされるメルツ・フォン・クヴィルンハイム大佐。
ワルキューレ作戦は、そもそも、総統に万一のことがあったときにその作戦を指導させることが出来る権限を有する立場の人物も特定されている作戦です。その作戦をクーデター用に書き換えたのが、トム・クルーズ・・・・
クヴィルンハイム大佐は、その発動権を持つ(1)で紹介したフロム将軍に代わって作戦を始動させます。
待機命令を受けたベルリンの予備隊の隊長は、その命令を訓練か何かだと判断しつつ、隊員を集めます。この命令に対して非常に忠実で有能な軍人を演じているのは、トーマス・クレッチマン。ドイツを代表する俳優の一人ですね。
まるで、テレビで放映されるピョンヤン前の北朝鮮軍みたいです。
ヒトラーの作戦本部が爆破されたという知らせを受け、あの総統が・・・と愕然とするオルブリヒト将軍・・・・
あの連中、とうとう本当にやってしまったのか!
しかも国内予備軍の総司令官であるフロム将軍に代わって、自分の部下のクルヴィンハイム大佐が指導命令を発令したことを知り、恐れおののくオルブリヒト将軍・・・・俺は関係ない!俺はこの暴挙に関わってなどいない!本当にヒトラー総統の死が確認されるまでは何もしないぞ!と口にします。金縛り状態です。
ヒトラーのカリスマ性というか、いかにヒトラーが軍人たちにさえ恐れられていたかということですね。
急ぎベルリンに戻ったトム・クルーズは、こうしたことで、作戦に狂いが生じていたことに驚愕します。ワルキューレ作戦を5時間から3時間に短縮させたというのに、何も行動されていなかったのですから、無理もありません。けれど、勝負はまさにここから!まだ間に合う!
彼は勝負に出ます。ヒトラーが死亡しワルキューレ作戦を始動すると職員たちに発表し、皆で力を合わせてワルキューレ作戦に取り掛かります。このとき、臆病風に吹かれて行動しなかった政治家の同士だけではなく、同じ職場で働いていた末端の部下たちの中にドイツの未来を託して行動しようとする同士たちがこんなにもいたのかとトム・クルーズは驚かされるんですよね。まさに、クーデターを成功させるには、一般の人たちの支持と協力があってこそなのだということでしょうか。
こうした一般の声なき声を持っている職員たちが「羊」ならば、高級官僚たるSSは、まさに「狼」となりましょうか。不気味な表情を浮けべていたSS・・・これまでも同様のクーデターを未然に防止してきた彼らは強敵です。
SSは、本当に怖いです・・・ベルリンで指揮を取るトム・クルーズ、次々と作戦を成功させていきますが、そこに入った情報は、トム・クルーズたちの反逆の知らせ。そして、ヒトラーは無事であるという一報でした。まさに「情報を制するものが戦いを制する」となる。
ヒトラーは死んだという知らせと、ヒトラーは無事だという知らせが二つ入った広報部は驚愕しますが、「どちらであれ、正しい側につくべきだ」と語る部下たち・・・・。当時の「正しい側」というのは、ドイツの救世主として政治に腕を振るった第三帝国の総統、ヒトラーの側に付くということに他ならなかった、そういう役人たちがどこの部署にもいたわけです。そして、往々にしてこうした小さなところで歴史の歯車は向きを決定される・・・・
かくして、実戦部隊を束ねるオットー・エルンスト・レーマー少佐の下にも、二つが同時に届くのでした。
「ヒトラー総統は死んだ。ただいまよりワルキューレ作戦を始動せよ。造反したSS本部を押さえ、それに手を貸した大臣と高級官僚たちを一網打尽にせよ」
「ヒトラーは無事である。生きている。爆破を仕掛けた実行犯シュタウフェンベルク大佐と首謀者一味を一網打尽にせよ」