月光院璋子の映画日記

気ままな映画備忘録日記です。

『ワルキューレ』(『Valkyrie』))・・・(1)

2009年03月22日 | ◆ワ行

3月11日にアップする予定が今日になってしまいました。その間お越し下さった方へのお詫びとして画像を多めにサービスさせていただきます。

赤に白抜きの円形の中に黒のカギ十字・・・・わたくしなどこの旗を目にしただけでぞっとする一人ですが、それは心あるドイツの方達も同じだろうと思います。第二次世界大戦後に東西に分断されたドイツがたゆまぬ忍耐と忍耐強い巧みな外交戦術によって再び統一されたのは1990年。実に55年もの歳月を要したわけです。最近になってやっとドイツでもヒトラーのナチスを歴史的に検証することができるようになってきたように思われますが、それでもドイツの国民にとって”ナチスドイツ”と”ヒトラー”は民族的タブーになっているのではないでしょうか。

この映画は、そのナチスドイツ支配下におけるドイツの状況、ゲシュタポを始めとしてヒトラー総統の下に展開された官僚組織の恐ろしさを理解しないとよく分からないかもしれません。恐ろしいのは、独裁者個人ではなくその独裁者の下に形成される官僚組織や軍組織に組み込まれた人間たちであり、人間をそのように退化させる独裁国家の組織というモノなのだと思わずにはいられない映画でした。

監督:ブライアン・シンガー
主演:トム・クルーズ

なので、実にサスペンスフルな映画で、アクション映画と呼んでいいのかという思いがあります。いわゆる娯楽性としてのエンターテイメント性は決して高くはない映画。何と言っても実話なので結末は分かっているのですから。
★⇒http://www.valkyrie-movie.net/

以下、ドイツで歓迎された本作「ワルキューレ」を眺めていきたいと思います。時代は、終戦となる2年前頃のドイツですが、映画冒頭はいきなりアフリカ戦線。英米空軍の猛反撃に対して前線を知らないベルリンのお馬鹿官僚たちの作戦で苦戦するドイツ軍・・・・

トム・クルーズが演じるのはシュタウフェンベルク大佐。彼は、ヒトラーに忠誠を誓った全てのドイツ軍人の一人ではあるけれども、いまやヒトラーのドイツ国家のためではなく、愛する祖国ドイツのために戦っている兵士の命を一人でも救いたいと思う軍人でした。
映画のこの冒頭で彼が、そういう考えの持ち主であるためにアフリカ戦線に左遷されたたこと、彼の「自分は祖国のために戦っているのだ」という思いが示されれます。ヒトラーやその側近の太鼓持ちで保身に汲々としているベルリンの官僚たちとは違うという思いがここで言下に語られているわけですが、彼のそうした考えに対し上官である将軍が理解を示すところから、映画は始まりますが、そこにいきなりの敵機来襲!激しい銃撃戦で、トム・クルーズはご覧のような状態に・・・・

やがて、本国の病院に運ばれるも、彼は片方の視力と片腕を失った名誉ある軍人となります。

そんな軍人の凛とした妻ニーナ役を演じるのは、映画『ブラックブック』で同じナチスドイツの恐怖の中で生き残ったユダヤ人女性を演じたカリス・ファン・ハウテンで、ほとんど男性ばかりが出てくる中での紅一点。緊張感を増すのに大いに存在感を示したと言えると思います。最初は、『ブラックブック』と重なって見えましたが、あの当時よりははるかにしっとりした大人の女性でした。



大佐たちのヒトラー暗殺クーデター計画を知りながら、どっちつかずの態度で勝ち組に乗ろうと考える性格のフロム将軍(ベルリンの国内予備軍を統括する将軍。立場上も実にスリリングでキャラクターもスリリング。演じているのは、トム・ウィルキンソンではまり役でした。

彼の副官のオルブリヒト将軍もまたスリリング!

演じているのは、ビル・ナイ。実にはまり役で最後の最後までハラハラさせてくれる人物の一人を確かな演技で好演していました。

この映画が実にサスペンスフルに仕上がっているのは、ドイツの敗戦が濃厚になってきた時期が背景のためもありますが、登場人物達がどっちに転ぶか分からないような人物を俳優たちが実に見事に演じていたからだろうと思いました。本作が成功しているとしたら、キャスティングの見事さだと言っていいのではないかと。

ベルリンに戻ったシュタウフェンベルク大佐は、名誉の負傷で出世しますが、敗戦濃厚な祖国の未来を真剣に憂える気持ちもまたいよいよ強くなっていく中で、彼はある秘密の集まりに招かれます。



そこで、今度こそ成功させなければこの国に未来はないとヒトラー暗殺のクーデター計画を知らされるのですが、気持ちは同感でも彼らに計画実行に必要な勇気が本当にあるのか!?
イマイチ懐疑的なシュタウフェンベルク大佐に、テレンス・スタンプ演じる陸軍参謀総長のルードヴィッヒ・ベックは彼に失敗しない計画を立てるよう要請します。クーデターが成功した場合、彼が新国家元首代行となり、連合軍と停戦の合意をするために尽力すると誓うベック。
これまで何十回と計画されたヒトラー暗殺計画は全て失敗に終わっているだけにメンバーの危機感は相当なレベルにまで達しているのでした。

映画冒頭でトム・クルーズがアフリカ戦線で負傷した頃、ベルリンに帰るヒトラーとその取り巻きの側近たちの乗る飛行機を爆破させる作戦が遂行されますが、

冒頭から、緊張の連続と言っていいでしょう。

観ているこちらも否が応でも緊張させられる場面が多い中で、こうした同志たちが集う場面は一番緊張させられました。

こうしたクーデターの密談の場面というのは、やはり緊張させられます。祖国を憂え、ヒトラー以外のドイツ人がいること(いたこと)を世界に示そうという思いとはいえ、クーデターというのは失敗すれば命を奪われるだけではなく反逆者の汚名を着せられるぎりぎりの選択だからでしょう。

飛行機を爆破させる閃光作戦が失敗し、仲間たちから批判されるトレスコウ小将という人物を演じていたのは、ケネス・ブラナー

彼はこの作戦が失敗した後、前線に送られますが、彼の場合は時期が偶然重なったものですが、この時期のドイツでは少しでもヒトラー体制に対して批判的な思いを持っていると嗅ぎ付けられると、SSによって捕らえられたり、証拠がない場合は左遷(前線で死亡することを期待)されるのですから、独裁者の下での官僚ファシズム体制と、それを支える権力中枢にいる秘密警察というのは、実に恐ろしい・・・・

帰国し我が家に戻ったシュタウフェンベルク大佐の邸宅と家族たちをシーン・・・ここを見ていると、彼がドイツ貴族の名門の出であるがゆえに正真正銘の愛国者であり、また人間的にも優れた教育を受けてきた人物であることが彷彿させられます。良き軍人にして良き夫であり良き父親であり良き家庭人でもあるシュタウフェンベルク大佐・・・・家族とのシーンはワンシーンだけですが、

5人の子供たちの中で一番年少の娘のこの無辜な様子は痛々しいほど・・・・

なぜなら、もしクーデターが失敗した場合、自分だけではなく家族の命もない・・・銃殺されないまでも収容所送りとなるだろうことをおもえば、心が恐れに慄かないはずがありません。
けれど、決心を妻に伝えたとき、



妻ニーナの短い返事は見事な返事で・・・・全てを理解し受け入れるものでした。夫を愛し尊敬し信じればこその強さを垣間見させられました。戦前の日本女性同様に戦前のドイツ女性も強かったんですね。貴族という立場にあった女性たちの全てがこうだったとは思わないけれど、本当のエリートというのは、このように常に死を覚悟できる強さがある男性と女性の事をいうのだと改めて思いました。
そのときに流れるのが、ワーグナーのワルキューレ・・・・

SP盤のこのレコードが画面に大写しになったとき、トム・クルーズ=シュタウフェンベルク大佐の中で、ヒトラー暗殺の失敗が許されない計画が進んでいくのでした。

シュタウフェンベルク大佐の副官として、
赴任してきたのはこの若きヴェルナー・フォン・へフテン中尉。

演じているのはジェイミー・パーカーという俳優ですが、なかなか良かった!です。トム・クルーズの思い込みの激しい熱血漢ぶりとは対照的ながら、そんなヴェルナー・フォン・へフテン中尉を好演していたと思います。へフテン中尉もまたも貴族の出身で、副官としてオフィスに着任早々の彼を凝視して語ったシュタウフェンベルク大佐の挨拶がふるっていました。

「わたしはヒトラーを暗殺するつもりだ」

といきなり語る場面・・・・

これにはへフテン中尉ならずとも度肝を抜かれるでしょう。
けれど、ここで出来た信頼関係で、以後へフテン中尉は最期までシュタウフェンベルク大佐と行動を共にしますが、映画は実にテンポが速い。

観終えたときに、敗戦間際のナチスドイツでこうして命がけで国の未来のために勇気ある行動に殉じた青年がいたことに胸が熱くなりました。彼の行動は信じられないほどの勇気がないと出来ないものですが、その行動がどれだけ勇気を必要とするものか、それをジェイミー・パーカーはしっかり演じて見せてくれたように思います。へフテン中尉の行動は見事なほどに静かでした。さすがに貴族として育った青年で道徳的に優れた心性を持つ青年なのだと。きっと実際の副官中尉もこうだったのでしょう。
同類はお互いに分かり合うといった場面です。

日本の2.26事件というクーデターが、貧しい東北出身の将校達だったことと対照的だと思わざるを得ませんでした。

かくして、敗戦間際にヒトラーを暗殺するしかドイツの未来はないと考えて行動を起す「ワルキューレ」作戦が始動しました。
続きは、(2)でアップしたいと思います。

以下はご参考までに。
  ↓

 


最新の画像もっと見る