前橋市議会議員中島もとひろの“私たちの子どもや孫の世代のために!”

前橋市議会議員中島もとひろのブログです。日々の活動や愛する故郷“前橋”への熱い思いを、このブログを通じてお伝えします!

旧麻屋ビル

2010-12-02 23:20:30 | Weblog

 12月2日の夜、旧麻屋ビルのオーナーから、「本日、市と契約をしました」との電話がありました。“契約”とは、旧麻屋ビルを解体後、土地を市に売却するというものです。所有者の苦渋の決断は尊重したいと思います。しかし、旧麻屋ビルがなくなってしまうことは、誠に残念でなりません。

 旧麻屋ビルの建物は昭和9年、創業者によって札幌三越の建物を参考に、同建物並びに現存する銀座松屋を建設した木田組が、現存する本館を建造、以来創業者の意を汲み、歴代の当主が時代の厳しい経済環境にも耐え、いつかは市民の文化遺産として甦る日を夢見て大切に維持されたものです。1980年日本建築学会編の『新版日本近代建築総覧―各地に遺る明治・大正・昭和の建物』の中でも、1860年代から1945年に至る間の日本の近代建築で現存する主要なもののリストにも掲載され、将来にわたって保存すべき歴史的建造物として建築学会で評価されています。そして、平成19年には、国の登録有形文化財にも指定されました。

 私には、旧麻屋ビルが前橋の中心市街地の正に中心、前橋中央大通りと銀座通りの交差点に位置することから、この建物を見るたびごとに銀座の和光と重なって見えてなりませんでした。また、前橋中心市街地の長年の懸案である8番街の角地に位置することから、中心市街地再生のシンボル・ランドマークにもなり得ると考えておりました。

 私は、これまでにも何度か前橋市議会で、旧麻屋ビルを生かした8番街の再整備について取り上げたことがありましたが、本年3月の第1回定例会本会議総括質問においても、「8番街の整備に当たっては、旧麻屋ビルの景観を生かし、本市中心市街地再生のシンボル・ランドマークとして整備すべき」との観点から市の見解を伺ったところ、「全国的に見ても大正、昭和初期に建造された鉄筋コンクリート造の商業施設として希少価値の高い貴重な近代構造物であり、現在国の登録有形文化財に指定されている。この建物は、前橋市にとりましても中心商店街の商業と歴史のシンボルであり、保存、活用することにより、中心市街地活性化の拠点になり得るものと考えている。今後も引き続き所有者等と協議、調整を進めながら、旧麻屋ビルの利活用について検討し、8番街区での一体的整備を図ってまいりたい。」との大変前向きなご答弁を頂き、安堵していたところでした。

 私は、この度の旧麻屋ビルについての方針転換を知り得た10月半ばから、担当であるまちづくり課長や都市計画部長はもとより、副市長にも何とか再考をして欲しいと、訴えて参りました。また、担当部長から正式な連絡があった10月28日、たまたま中核市サミットの同じ会場に居合わせた市長にも、直談判させて頂きました。しかし、結論は、変わることはありませんでした。

 しかし、なぜ、わずか半年余りで、市民に向け発信した本会議での答弁内容が180度変わってしまうのか…。全く納得が行きませんでした。

 一方、これまでの間、幾度か所有者にお会いし、意向を伺って参りました。そこで分かったことは、本心では、今でも保存と活用を望んでいるということです。にも関わらず、その所有者が自ら国の登録有形文化財の登録を抹消し、解体しなければならないという、大変不本意な状況に及んだ訳です。そのため、所有者は、一旦は市と大筋で合意しつつも、約1ヶ月余りの間、正に悩みに悩み抜き、苦渋の決断を下すまでに時間を要したものと思わます。

 私は、所有者を責めるつもりは全くありません。

 しかし、8番街に関する具体的な計画は、今のところ白紙とのことであります。それならば、当該建造物の歴史的価値を認めた3月議会の答弁内容からも、解体を何故急ぐのか、甚だ疑問です。

 所有者も建物を含めて市で取得し、取得後に8番街のあり方に関する市民参加の検討委員会を立ち上げてもらい、その中で旧麻屋ビルの保存と活用についても検討のうえ、答えを出して頂くのが理想と明確に言っておられました。それが正に、市長の目指す市民力を生かしたまちづくりではないかと思うのですが…。

 戦争から復員した方々は、前橋駅に降り立ったとき一面の焼け野原で、本当に前橋に帰ってきたのか分からなかったが、唯一焼け残った旧麻屋ビルがポツンと建っているのを見て、前橋であることを確認したとのエピソードもあるようです。そういった意味では、前橋の戦災復興のシンボルとも言えます。旧麻屋ビルは、戦前から戦後にわたる前橋の歴史の語り部であり、市民の心のランドマークでもあるのです。こういった歴史的建造物を壊してしまうことに、心を痛める市民も多いようです。重要な歴史的遺産を遺すべきか否かの価値判断基準を、単に費用対効果に求めるのは、余りにも短絡的であり、不毛な文化行政になりかねません。そして、これが精神性の極めて希薄な市民社会の形成に繋がることが、大変危惧されるところです。
   
 仮に、旧麻屋ビルがなくなってしまえば、前橋の生んだ世界的詩人萩原朔太郎の生家跡地に続き、中心市街地再活性化への糸口をまた1つ失ってしまうことになります。

 8番街にどんなに立派な新しい建物を建てても、他のまちとは変わりません。すなわち、歴史ある風格とデザイン性を有する旧麻屋ビルの存在価値は、他に比類ないものです。それは、郊外店や他都市との差別化に繋がり、当然、まちの魅力にも繋がるものであります。

 誠に残念ながら契約は交わされてしまいましたが、旧麻屋ビルの保存と活用に向けて、最後の最後まで努力したいと思います。

 なお、所有者のことを考慮し、これまで公表を控えたことを、ご理解頂ければ幸いです。