日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

別れ

2020-07-31 23:24:42 | 温泉
長きにわたる足止めから生まれたのが、銭湯通いという「新しい生活様式」です。四谷の「塩湯」を本拠地にしつつ、牛込地区の銭湯をいくつか訪ね歩いてきました。しかし、その一つとの別れが唐突に訪れました。「松の湯」が今日限りで暖簾を下ろすのです。
自転車でわざわざ行くにはいささか遠い西早稲田の銭湯です。連休中に再訪したのは、稼働が落ちてしまった車を久々に動かすためでもありました。この判断が結果としては吉と出たことになります。閉店の告知をそれによって知ることとなったからです。
脱衣所の張り紙には、設備の老朽化と経営陣の高齢化が理由とありました。しかし最初は性急な話のようにも感じられました。設備についてはたしかに古びているものの、少なくともお客の目に触れる部分に関する限り、寿命が迫っている様子はなかったからです。番台を守る店主と女将も、「塩湯」のご両人に比べて一回り以上若いと見受けられます。もっとも、さらに十年、二十年続けることを考えると、話が違ってくるのかもしれません。そのために高額な修繕費をかけるより、今年迎えた創業七十周年を花道に、余力を残し幕を引こうということなのでしょう。そうだとすれば、名残惜しくはあっても納得できる決断です。
早稲田という場所柄、学生客が多かっただろうことは想像がつきます。一方ならぬ思い入れを持つ人々が少なくないということか、店先で記念撮影をする先客の姿も見受けられました。それらの皆様方に比べれば、自身の思い入れなどたかが知れています。その気になれば最終日に訪ねることも可能なところ、あえて見送り一昨日に別れの挨拶をしてきました。何度も前を通りがかって、常々気になっていた銭湯です。閉店を知らずにいれば、明かりの消えた跡地を前に立ち尽くしていたでしょう。偶然の産物だったとはいえ、今一度再訪してから終われたことを幸いに思います。長い間おつかれさまでした。
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