日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

四谷赤坂麹町 - 月肴

2020-07-08 21:08:44 | 居酒屋
週に二度ほど店で一杯やるという、一度は頓挫した構想が、ようやく軌道に乗ってきました。やってきたのは久々となる荒木町です。「月肴」の暖簾をくぐります。
頓挫した要因は主として腹具合にあります。歳に応じて食が細ったことにより、八時や九時では空腹感が戻らず、是非とも店で呑みたいという意欲が起こりにくかったのです。今日に限って同じ轍を踏まなかったのは、早起きによるところが大でした。朝食の時間帯が繰り上がったことにより、残る二食の時間帯も同じだけ早まるという結果です。今後に向けての教訓となり得る結果でもあります。

荒木町に戻ってくるのは久々だけに、候補はいくつもありました。まず気になるのは、初期の頃散々世話になっていた「おく谷」の現況です。通常営業に戻った「藤々」も、一度は訪ねてみたいとかねがね思っていました。ようやく再開された「タキギヤ」にも、近いうちに見舞いがてら訪ねてみたいと思っているところです。それらを差し置いてまでこの店を選んだのは、埋め合わせという口実があってのことに他なりません。先月先々月も、月が満ちてくるのに合わせて当店の折詰を注文し、月明かりの下で一献傾けました。今月もそうしたいのはやまやまだったものの、梅雨時という条件がそれを許しませんでした。ならば代わりに店内でと思い立ったのが真相です。
「藤々」と同様、初めて訪ねたときには既に持ち帰りのみの営業となっていました。つまり、カウンターに向かうのは初めてということです。評判は聞いていたにもかかわらず、食わず嫌いを続けていたのは、Web上の情報から伝わってくる雰囲気が、こちらの性に合わなかったからです。予約満席も珍しくないという時点で、いつでも行ける気軽さを求める自分には合いません。加えて値段が張りそうだという印象もありました。ただし、Web上の情報が大して当てにならないことは分かっています。その経験則を改めて実証することとなりました。

カウンターは七割方、二つあるテーブルの一つも埋まっていて、空いた一つも後から来た二人組で埋まりました。つまり、目下の状況では事実上の満席に近いということです。しかし、幸運にもカウンターの一番奥が空いており、そちらにまんまと収まりました。おそらくは、先客が帰った後に滑り込んだということでしょう。週末でもない限り、九時頃からは落ち着いてくるというのが女将の弁でした。こちらにとっては朗報です。
いただけない点もあるにはありました。酒の値段が高めなのは想定の範囲内としても、それを注ぐワイングラスがいかにも大袈裟に感じられます。懇意にしている酒販店の影響を受け、ワイングラスの効用も一定程度理解はしたつもりです。その一方で確信したのは、あくまで香りを嗅ぎ分けるための道具であって、味わうための器ではないということです。たとえるなら、聴診器で音を聞いているようなものとでもいえばよいでしょうか。それだけに、片手では持て余すほどの巨大なグラスに酒を注ぐという流儀には、お世辞にも感心できないというのが本音ではあります。
もっとも、明確な難点はそれだけといっても差し支えありません。燗酒を注ぐ年代物の徳利と盃がよい味わいを放っています。肴の値段は思った以上に良心的で、一人客には少なめにもしてくれるのが好都合です。とりわけ心憎かったのは刺身でした。所望した鰹が切れたと返答を受け、代わりに鰯を選んだところ、平目がおまけについてきたのです。それも、縁側は炙り、身はポン酢でいただくという、実質的には三点盛といってもよい気前のよさでした。鰹を出せなかったことに対する埋め合わせと、持ち帰りを愛用してきたことに対する礼を兼ね、出血覚悟で負けてくれたという見方もできます。その心意気にありがたく感謝しつついただきました。

和酒 月肴
東京都新宿区舟町5-25 TSI FUNAMACHI1F
03-5919-6697
1800PM-2400PM(LO)
日祝日定休

神亀
花の香
成政
お通し(スナップエンドウ、ズッキーニ、オクラのおひたし)
真鰯
平目
とうもろこし天ぷら
コメント