暮れなずむ街を歩くうちに五時が近付いてきました。自分にとって、呑み屋が開くのと同時に入れる状況はなかなかありません。ならばその貴重な機会を生かすのが賢明でしょう。久々に「源氏」の暖簾をくぐりました。
訪ねる度に申していることですが、数多の先人が絶賛してきたこの店に、自身そこまで心酔しているわけではありません。先週訪ねた「大甚本店」には心底感服させられましたが、この店であれほどの感銘を受けたことがないのです。たしかに立地は唯一無二で、年季の入った店内の造りも申し分ありません。しかし、酒については「大甚」の圧勝であり、同格の有名どころと比べても、特に秀でているとは感じられません。居酒屋より牛タンを優先する仙台での方針もあり、この店をこよなく愛用してきたとは言い難いのが実情です。ただし、定休日の日曜以外に仙台へ寄れる機会は、これが年内最後になると予想されます。今年は一度も立ち寄らずに終わるかと思ったとき、無碍に素通りし難く思われるのも事実です。図らずも開店と同時に入れる状況となったため、腹は決まった次第です。その結果はよくも悪くも予想通りでした。
開店と同時に訪ねたからといって、入れる保証はなかろうと見込んでいました。全国区の名酒場ともなれば、週末は各地から参集した一見客でたちまち混み合うのが相場だからです。果たしてカウンターは隙間なく埋まっているようにも見え、少しだけ開けた扉をそのまま閉めようとも思いました。しかしそこで思いとどまり店内に入ると、詰めれば角に座れるとの返答が。こうして末席ながらも滑り込み、これでいよいよ満席かと思いきや、さらに詰めて後から来た一人客を収容し、これにて札止めという経過です。ここまでで開店から10分ほどだったでしょうか。早く行けばよいものでもないという経験則が、ここでも見事に当てはまりました。
幸いだったのは、一見客で混み合ってはいても、独特の静謐さだけは保たれていたことです。四六時中携帯電話を弄る無粋な輩も見当たりませんでした。ただし、これだけ入ると接客はどうしても立て込んできます。それは提供時間の間延びという形で現れました。一軒目という条件を活かし、たまにはお通し以外の品もいただこうとしたのが躓きの始まりです。身欠き鰊ならすぐ出るだろうと思い込んで注文すると、味噌をつけてそのままいただく青森流のそれではなく、生干しを焼き上げるのがその正体でした。ただでさえ時間のかかる焼魚の提供時間がさらに延び、ようやく出た頃には二杯目の酒が尽きました。そこで予定外の三杯目を所望すると、今度はその分のお通しが出てきません。ようやく出た頃には三杯目の酒尽き、六日の菖蒲というべき結果に。酒なしで刺身だけいただき席を立つという顛末です。
店が悪いわけではなく、こうなることをある程度予測できたにもかかわらず、あえて訪ねた自分の責任です。やはり、この店のよさを知るためには、「大甚」同様平日に訪ねるのが一番なのでしょう。とはいえ、居酒屋よりも牛タンの仙台において、この店のためにわざわざ一日休むのも現実的ではありません。この店との最善の付き合い方を、もう少し模索していく必要がありそうです。
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源氏
仙台市青葉区一番町2-4-8
022-222-8485
1700PM-2300PM
日祝日定休
高清水
浦霞二合
糠漬け
銀杏
冷奴
お造り
身欠き鰊