日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

小春日和の駿河路へ 2016 - 車

2016-11-26 22:47:45 | 居酒屋
「新生丸」で存分に飲み食いし、もう思い残すことはないといってもよい状況です。その一方で、九時台に早々と切り上げるのももったいないように思われたとでも申しましょうか。往生際の悪さを発揮し、今回も電車に揺られて静岡にやってきました。しかしこれが一筋縄では行きません。
その時点で目当てにしていたのは、前回満席で振られた「昇菊」でした。しかしこの店との相性がどうもよろしくありません。カウンターが空いているのが店先から見え、喜び勇んで乗り込むと、今し方大人数の予約が入ったというまさかの返答が。見事なまでの返り討ちです。
この時間から入れる店の心当たりもなく、またも徒手空拳のまま清水へ戻るかという状況ではあります。しかし、既に散々飲み食いしているにもかかわらず、切り上げるにはまだ早いという心情が今夜はなぜか勝りました。手近な場所を探した結果、「車」なる一軒の店へ飛び込むという顛末です。

同じ店に何度も通うと、注文する品が固定化されてくるという現象が往々にして起こります。この傾向は呑み屋選びにおいても妥当し、最初の頃は試行錯誤しつつ様々な店を訪ね歩く一方、同じ街に何度も足を運ぶにつれて、訪ねる店が固定化されていく傾向があります。そのような事情もあり、静岡では久しく新規開拓をしておらず、呑み屋街の現況も把握していなかったのが実情です。要は何の事前情報もなく、当たるも八卦、当たらぬも八卦と割り切って飛び込んだわけなのですが、結果として自分の嗅覚に狂いはありませんでした。
暖簾をくぐってまず目に入ったのは年季の入った白木のカウンター、次いで年配の店主、女将とおばちゃんの三人組です。それだけでも古い店なのは一目瞭然ですが、聞けば店を開いて45年になるそうです。古い店には間違いがないという教祖の教えに照らせば、少なくとも悪い店ではないと言い切ってよいでしょう。
品書きは横長の紙に綴られカウンターの頭上に張り出されており、あとは日替わりの黒板という組み合わせです。ただし細かな品書きではなく、お客の注文に応じて臨機応変に対応しているのが実態なのでしょう。品書きと店内の雰囲気からしても、純然たる居酒屋というよりは、それより一枚上手の仕事をこなす店と見受けられます。皆にこやかで社交的な三人組が醸し出す居心地を含め、中洲の「一富」がTVの影響で一変する前の、古きよき時代をどことなく彷彿させる雰囲気です。思いがけない発見は、まさしく怪我の功名ということになります。

苦肉の策で飛び込んだ結果とはいえ、静岡での選択肢がもう一つ増えたのは収穫です。店主も女将もかなりの年配、なおかつ跡取りがいそうな雰囲気もないだけに、いつまで店が続くのかは未知数ながら、矍鑠とした様子からして、まだまだ現役を続けるのでしょう。次回またもや「昇菊」に振られたときには、もう一度この店の暖簾をくぐってみるつもりです。


静岡市葵区両替町2-7-1
054-252-8646

大七
突き出し(チャーシュー和え物)
カツオ
あさり汁
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小春日和の駿河路へ 2016 - 新生丸

2016-11-26 20:02:51 | 居酒屋
「そ乃田」を出た後、そろそろ空くかと期待しつつ「かね田食堂」へ向かうと、立看板は満席の案内から品書きへと変わっていました。あとは「新生丸」が空いているかどうかです。看板が早い両店だけに、両方をはしごするという選択は許されません。「新生丸」に飛び込んでみて、空いていればそのまま入り、またも満席ならば今回は潔く切って、「かね田食堂」を二軒目にするという方針を立てました。その上で「新生丸」の暖簾をくぐると、お客は一巡して落ち着いており、首尾よく入店という結果です。

「そ乃田」について、よい店ではあるものの「新生丸」には一歩譲ると申しました。その違いは、この店で呑むために旅をしたいと思わせる、至高の名品があるかどうかの違いでもあります。それでは当店における名品とは何かといえば、何といっても彩り豊かな刺身でしょう。ホワイトボードに並んだ様々な魚介の名は眺めているだけでも楽しくなり、当然ながらその中から一つや二つに絞ることなどできません。何はさておき、最初は刺身を盛り合わせてもらうのが定着して久しくなります。
本日の盛り合わせは赤身が鮪と鰹の二種、白身が太刀魚、エンガワ、イサキの三種、光り物が〆鯖、それに地ダコとゲソの合わせて八点。素人には見分けづらい白身だけ指を指して説明し、あとは言わずもがなというのがここの店主の流儀です。これだけの品々を盛り合わせれば、当然お値段もそれなりではあり、これまでの経験からしても一人前で二千円程度といった見当でしょうか。しかし、たとえば市場の食堂で、これと同じものを盛り合わせて海鮮丼を作ったとすれば、間違いなく二千円を超える価格設定になるでしょう。そう考えるとむしろ安いといっても過言ではありません。
この刺身だけでも十分満足できる内容ではありますが、この時期に来たならカワハギを選ばない手はありません。肝の状態を見て肝付き、肝合え、タタキのいずれかで供されるのが当店のカワハギで、本日は肝と一緒に叩いたものが出てきました。残ったアラは煮付けにしてくれるため、一粒で二度おいしい逸品です。
こうして盛り合わせとカワハギの両方をいただき、今回清水に来た目的はおよそ果たされました。年明けにもう一度訪ねるとすれば、短い間隔での再訪という条件を活かし、趣向を変えてみるのも一案でしょう。たとえていうなら「魚仙」で油揚げ以外の品を注文するようなものです。次回も楽しみにしています。

新生丸
静岡市清水区巴町10-29
054-352-3851
1600PM-2200PM
日祝日定休

英君二合・正雪
お通し二品(生しらす・ひじき煮)
刺し盛り八点
カワハギ
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小春日和の駿河路へ 2016 - そ乃田

2016-11-26 18:55:46 | 居酒屋
先日鹿児島に泊まったとき、呑み始めるのが早ければ早いほどよいわけでもないと申しました。その経験則は本日も見事なまでに妥当しました。というのも、時間からして混むだろうと見て「新生丸」に電話を入れたところ、案の定満席との返答があったのです。そこで「かね田食堂」に目標を切り替えたところ、こちらも店先に予約満席との立看板が。当てにしていた二軒に揃いも揃って振られるという、鹿児島と全く同様の展開です。
このような状況に至り、今回は静岡に舞台を移し、「多可能」を始め久しく無沙汰している店を訪ねようかとも思いました。しかし、清水に泊まっておきながら、清水の店に一切寄らないのも本末転倒のような気がしました。そこで浮かんできたのが、こちらも久しく無沙汰している「そ乃田」です。
静鉄の乗車を兼ねて、清水から静岡に河岸を替えるのが定着して以来、この店からは遠ざかってしまいましたが、かつては清水での二軒目として何度か世話になった店です。「新生丸」ほどの突出した特徴こそないものの、あちらと同様親子二代による家族経営のよい店でした。しかしあまりに無沙汰しすぎたこともあり、当時の印象も希薄になりつつあったのが現状です。目当ての店に振られた結果、ふと思い出した店へ飛び込むという展開は、天文館での第一夜と同様になりました。

そのとき訪ねた「家のじ」については、以前訪ねたときとはかなり違った印象を受けたのに対し、こちらについては変わった点がほとんど感じられません。しいていうなら先代店主が引退し、当時の若主人と若女将が店を継いでいたことでしょうか。これは、よい店ではあるものの、「新生丸」に比べるとどうしても色褪せるということでもあります。
止まり木付きの長いカウンターは、一人しみじみ酒を酌むにはお誂え向きであり、明るく現代的な、しかし飾り気のない店内も居酒屋然としていて好ましいものがあります。酒は全国各地の気鋭の蔵を中心に十数種を取り揃え、飛露喜に而今などの希少品を特別扱いせずさりげなく置いているところにも店主の矜持が窺われます。お通しに小振りなおでんが出てくるところは心憎く、注文した鰺刺しはもちろんのこと、隣のお客が注文していた〆鯖も非常にうまそうでした。猥雑な呑み屋街から外れた旧東海道沿いの静かな佇まいも、地元客で適度に賑わう店内の雰囲気も申し分ありません。半世紀の歴史は伊達でないと納得させてくれる老舗です。
しかし、これだけの美点がありながらも、この店で呑むために旅をしたいと思わせるような、最上の名品を発見するまでには至らないとでも申しましょうか。一軒の存在が大きすぎ、他の店がどうしても色褪せてしまうという点では、旭川、長岡などと同様のことが清水についてもいえることになります。

日曜営業の店だけに、汽車旅ならばここで一杯やってから帰るという使い道もあります。しかし、無味乾燥な新幹線とロングシートの普通列車しか走らない静岡へ、汽車旅をする機会が訪れるとは思えません。再び出番があるとすれば、静岡とのはしごをせずに清水で完結させるときでしょう。残念ながら静鉄でも安普請の新車の導入が進んでおり、置き換えが完了した暁には、わざわざ乗るには値しない代物に成り下がってしまいます。静岡まで行くには及ばない、しかし一軒では呑み足りないという気分になったときは、再びこちらの世話になるのもよさそうです。

そ乃田
静岡市清水区銀座10-3
054-365-1612
1730PM-2230PM(LO)
月曜定休

而今・正雪
お通し
もつカレー
アジ刺身
桜海老しゅうまい
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小春日和の駿河路へ 2016 - 和風ビジネス旅館福住

2016-11-26 18:24:25 | 東海
投宿し風呂から上がって一息つきました。本日は「和風ビジネス旅館福住」の世話になります。
ここも前回の滞在で初めて世話になったところで、その名の通り昔ながらの商人宿です。この手の宿というと、古いながらも清潔、といった枕詞で形容しがちなところ、ここの特徴はあらゆる部分が真新しくいことにあります。改めて泊まってみて気付くのは、この建物が改装ではなく新築されたものらしいということです。清水市街という場所柄、建て替えるならビジネスホテルにしてもよさそうではあり、実際にも清水では古くからの宿を模様替えしたビジネスホテルに何度か世話になったことがあります。それをともすれば時代遅れにも思える商人宿のままにしたのは、世話好きな女将の気質にも関係しているような気がします。合理性、経済性を徹底追求した全国チェーンが各地に広がっていく中、昔ながらの宿のよさを活かすため、現代的に再構成されたのがこの宿といってよいかもしれません。列車にたとえるならば「サンライズ」のようなものとでもいえばよいでしょうか。その試みが功を奏したか、あちらと同様盛況なのは幸いです。
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小春日和の駿河路へ 2016 - 篠田酒店

2016-11-26 17:46:51 | 酒屋
清水の市街に戻りました。投宿の前に「篠田酒店」へ立ち寄ります。
去年訪ねたときに発見したこちらの店、地元静岡と新潟の有名どころを二本柱に全国各地の地酒を取り揃え、それぞれに寸評つきの札を下げるところに店主の並々ならぬ熱の入れようが窺われます。
11月ではまだ早いか、一種だけ入荷しているしぼりたて以外に新酒の類はなし。その代わりひやおろしがまだ数種残っていたため、その一本を選びました。

篠田酒店
静岡市清水区入江岡町3-3
054-352-5047
900AM-2000PM
日祝日定休
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小春日和の駿河路へ 2016 - 返り討ち

2016-11-26 16:23:28 | 東海
その後1号線を下って清水の市街を通り過ぎ、三保の松原の先端にやってきました。しかし見事なまでの返り討ちに終わりましたorz
まず噛み合わなかったのは、こちらが下山を始めた頃から空が晴れ、富士山の頂が顔を出したことです。さらには思った以上に時間が押し、由比の漁港で桜海老をいただくつもりが閉店時刻に間に合いませんでした。せめて夕景だけはと思い三保の松原へ向かったものの、清水の市街に入った頃から薄雲が出始め、西日を浴びた富士山が、着いた頃にはすっかり色褪せていたという顛末です。出遅れが響いてほとんど何の収穫もなく終わったという点では、前回ここを訪ねた元日の二の舞になってしまいました。
唯一違うのは、前回は五日間の旅の初日で、出遅れがその後の行程にまで甚大な影響を及ぼしたのに対し、今回は後に響く可能性がほとんどないことです。昼の部は何とも悔いの残る結果でしたが、夜は夜で気分も新たに楽しめるでしょう。夕景は期待できそうにないため、今日は早めに切り上げて呑み屋に入るつもりです。
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小春日和の駿河路へ 2016 - 箱根ターンパイク

2016-11-26 13:32:12 | 関東
今回久々に走って気付いたのは、西湘バイパスにつながる134号線が全線二車線化されていることです。これにより流れは大幅に改善され、そのまま快走を続けてターンパイクに入りました。只今山頂の駐車場まで走り通したところです。
箱根新道なら無料で走れるとはいえ、眺望が全くない上に線形も流れもよろしくありません。その点右に左に好車窓を望みつつ駆け上がるこちらの道は最高です。この好天なら720円の通行料を払ってでも走る価値は十分にあります。主役の富士山は残念ながら半分以上雲に隠れているものの、右手には雪化粧した丹沢の山々が連なり、東側に広がる相模湾の眺めも上々です。
平地で10度を超えていた気温は現在5度、路肩には一昨日降った雪が積もっています。路面の積雪こそさすがにないものの、溶けた雪で路面が濡れた区間も多く、これ以上気温が下がると凍結が心配になってきます。年明けに再訪するときまでには、冬タイヤを装備しておく必要がありそうです。
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小春日和の駿河路へ 2016 - 筋書き通り

2016-11-26 10:35:32 | 関東
筋書き通りに寝坊してしまい、九時台の出発となりました。第三京浜を経由し保土ヶ谷のパーキングエリアで一息ついたところです。一年中で一番日の入りが早いこの時期、出遅れたのはもちろん痛いわけなのですが、だからといって東名で先を急ぐこともしないのは、湘南の海沿いを下るのがこの時期ならではの楽しみの一つだからです。ここから横浜新道、西湘バイパスを経由して小田原方面へ下り、ターンパイクで箱根を越えようかと考えています。
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