日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

小春日和の駿河路へ 2016 - そ乃田

2016-11-26 18:55:46 | 居酒屋
先日鹿児島に泊まったとき、呑み始めるのが早ければ早いほどよいわけでもないと申しました。その経験則は本日も見事なまでに妥当しました。というのも、時間からして混むだろうと見て「新生丸」に電話を入れたところ、案の定満席との返答があったのです。そこで「かね田食堂」に目標を切り替えたところ、こちらも店先に予約満席との立看板が。当てにしていた二軒に揃いも揃って振られるという、鹿児島と全く同様の展開です。
このような状況に至り、今回は静岡に舞台を移し、「多可能」を始め久しく無沙汰している店を訪ねようかとも思いました。しかし、清水に泊まっておきながら、清水の店に一切寄らないのも本末転倒のような気がしました。そこで浮かんできたのが、こちらも久しく無沙汰している「そ乃田」です。
静鉄の乗車を兼ねて、清水から静岡に河岸を替えるのが定着して以来、この店からは遠ざかってしまいましたが、かつては清水での二軒目として何度か世話になった店です。「新生丸」ほどの突出した特徴こそないものの、あちらと同様親子二代による家族経営のよい店でした。しかしあまりに無沙汰しすぎたこともあり、当時の印象も希薄になりつつあったのが現状です。目当ての店に振られた結果、ふと思い出した店へ飛び込むという展開は、天文館での第一夜と同様になりました。

そのとき訪ねた「家のじ」については、以前訪ねたときとはかなり違った印象を受けたのに対し、こちらについては変わった点がほとんど感じられません。しいていうなら先代店主が引退し、当時の若主人と若女将が店を継いでいたことでしょうか。これは、よい店ではあるものの、「新生丸」に比べるとどうしても色褪せるということでもあります。
止まり木付きの長いカウンターは、一人しみじみ酒を酌むにはお誂え向きであり、明るく現代的な、しかし飾り気のない店内も居酒屋然としていて好ましいものがあります。酒は全国各地の気鋭の蔵を中心に十数種を取り揃え、飛露喜に而今などの希少品を特別扱いせずさりげなく置いているところにも店主の矜持が窺われます。お通しに小振りなおでんが出てくるところは心憎く、注文した鰺刺しはもちろんのこと、隣のお客が注文していた〆鯖も非常にうまそうでした。猥雑な呑み屋街から外れた旧東海道沿いの静かな佇まいも、地元客で適度に賑わう店内の雰囲気も申し分ありません。半世紀の歴史は伊達でないと納得させてくれる老舗です。
しかし、これだけの美点がありながらも、この店で呑むために旅をしたいと思わせるような、最上の名品を発見するまでには至らないとでも申しましょうか。一軒の存在が大きすぎ、他の店がどうしても色褪せてしまうという点では、旭川、長岡などと同様のことが清水についてもいえることになります。

日曜営業の店だけに、汽車旅ならばここで一杯やってから帰るという使い道もあります。しかし、無味乾燥な新幹線とロングシートの普通列車しか走らない静岡へ、汽車旅をする機会が訪れるとは思えません。再び出番があるとすれば、静岡とのはしごをせずに清水で完結させるときでしょう。残念ながら静鉄でも安普請の新車の導入が進んでおり、置き換えが完了した暁には、わざわざ乗るには値しない代物に成り下がってしまいます。静岡まで行くには及ばない、しかし一軒では呑み足りないという気分になったときは、再びこちらの世話になるのもよさそうです。

そ乃田
静岡市清水区銀座10-3
054-365-1612
1730PM-2230PM(LO)
月曜定休

而今・正雪
お通し
もつカレー
アジ刺身
桜海老しゅうまい

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