記録は破られるためにある
確かにその通り
モこ助が大幅な記録更新
爺の体を使って
爺の左肩の背中側から
左のチチにかけて
約20センチほどの3本線
内1本はうっすら
残り2本はくっきり
お馴染みとはいえ
この長さは新記録
傷がズッキンズッキン
仕事から帰ると
モこ助がまとわりついてくる
抱き上げて
いつものポーズ
モこ助の両手は爺の左肩
爺はモこ助の尻を支える
いわゆるおだっこ
その姿勢のまま
背中をブラシでといてやる
ゴロゴロゴロゴロ
気持ちよさそうなモこ助
ほぼ毎日やってること
いつもと違ったのは
爺が店に忘れ物をしたこと
そのまま取りに行ったこと
階段を下りてドアを開ける
店まで数メートル
抱いてたモこ助
目がランランだがヒビってる
抱きつくツメに力が入る
外の空気は久しぶりなのよ
コイツはこれでも7、8年前
ここらあたりを縄張りに闊歩
ライバルクロと出合った日には
咆哮合戦や取っ組み合い
ちょっとしたボスだったのに
今やこのビビリよう
そこへ一台のゴミ収集車
いきなりガダンと大きな音
たまらずモこ助
爺の肩を振り放って玄関へ
一目散
残された爺は呆然自失
記録更新には血はつきもの
妻には話せない
話せば大笑いされるだけ
モこ助は責められない
...というよりも
モこ助は
もう野良では暮らせない
...と言うことは
爺たちが一生面倒見なくては
...そのためには
爺たちががんばらなくては…
この傷を見るたびに
その思いを強く抱こう
そう決意した爺でした
ついでなんだけど
今度友達に
思わせぶりにこの傷見せて
「いい女と出合ってね」
「でもちょっと激しいのだよ」
そう言おう
