雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

好色な親王 ・ 今昔物語 ( 24 - 54 )

2017-02-10 08:15:54 | 今昔物語拾い読み ・ その6
          好色な親王 ・ 今昔物語 ( 24 - 54 )

今は昔、
陽成院(ヨウゼイイン・陽成天皇)の御子に元良親王と申す人がおられた。たいそうな色好みであったので、世間の女で美人との噂がある者には、すでに契りを結んだことのある女であろうとなかろうと、常に恋文を送るのを仕事のようにしていた。

ところで、その頃、枇杷の左大臣(藤原仲平)の御許に、小間使いとして仕える若い女がいた。名を岩楊(イワヤナギ)といった。容姿端麗で人柄もよく、雅やかな心の持ち主であったので、多くの人がうわさを聞いて、恋文を届けてきたが、身持ちが堅く聞き入れようとしなかったが、[ 意識的な欠字あり。人名を隠したらしい。]という人が夢中になって言い寄ったので、拒み切れず、契りを結ぶようになった。
その後は男は離れがたい思いが強く、大臣の家の女の部屋に通っていたが、あの元良親王はこの事を知らず、この女の美麗なことを聞いて恋い焦がれ、度々恋文を送ったが、女は、「男がいる」とは言わず、そ知らぬ顔で返事さえしなかったので、親王はこのように詠んで送り届けた。
 『 をほぞらに しめゆうよりも はかなきは つれなき人を たのむなりけり 』と。
 ( 大空に 注連縄を張り巡らして自分のものというよりも もっと頼りないものは つれない人を 頼りにすることだ。)

女の返歌は、
 『 いぶせ山 よのひとこえに よぶこどり よばふときけば みてはなれぬか 』とあった。
 ( 噂では あなたの一声に 多くの人が言い寄ると聞くと 私など相手にしてくれないでしょう。 なお、「いぶせ山」は架空の山で、「言う、求婚」と言った意味を持つ。 歌そのものも、男の立場になっているようだ。 難解で、自信ありません。 )

結局、この親王がこの女をものにしたという話は聞かない、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆

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