雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

米大統領選挙の行方

2024-07-19 18:30:05 | 日々これ好日

     『 米大統領選挙の行方 』

   トランプ氏の指名受託演説が 伝えられている
   これまでとは かなり趣が違う部分と
   そうでもない部分とが 混在しているようだ
   一方のバイデン陣営は どうやら 相当混乱しているようだ
   勝手な予想としては このままでは 民主党の惨敗のように読める 
   近々のうちに 英断があるかどうか 興味深い

                      ☆☆☆ 
    

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情欲の僧と菩薩 ( 1 ) ・ 今昔物語 ( 17 - 33 )

2024-07-19 08:00:20 | 今昔物語拾い読み ・ その4

     『 情欲の僧と菩薩 ( 1 ) ・ 今昔物語 ( 17 - 33 ) 』


今は昔、
比叡の山に若い僧がいた。
出家してから後、学問への志はありはしたが、遊び戯れることに心を奪われ、学問をすることがなかった。ただ、わずかに法華経だけは習い受けていた。
ところが、やはり学問の志はあったので、常に法輪寺(ホウリンジ・京都市西京区嵐山に現存。)に詣でて、虚空菩薩にお祈り申し上げていた。けれども、すぐに思い立って学問をするということもなかったので、相変わらず何も知らない僧のままであった。

僧は、このような自分を嘆き悲しんで、九月の頃に法輪寺に詣でた。すぐに帰ろうとしたが、その寺の知り合いの僧たちがいたので、話などしているうちに、いつしか夕方になったので、急いで帰途についたが、西の京(右京)のあたりで日が暮れてしまった。
そこで、知人の家を訪ねたが、その家の主人は田舎に出掛けていて、留守番の下女の他には人がいなかった
。仕方なく、別の知人の家を訪ねようと歩いて行く途中に、唐門のある家があった。その門前に、袙(アコメ・内着。肌着。)をたくさん重ね着した、こざっぱりとした若い女が立っていた。
僧はその女に近寄って、「比叡山から法輪寺にお参りして帰る途中ですが、すっかり日が暮れてしまいましたので、今夜一晩だけこちらの御屋敷に泊めていただけないでしょうか」と言った。
女は、「しばらくそこでお待ち下さい。伺ってまいります」と言って、屋敷内に入っていったが、すぐに出てきて、「おやすいことです。どうぞお入り下さい」と言った。

僧は喜んで入ると、放出(ハナチイデ・母屋から張り出した建物。応接などに使われた。)の間に火を灯してそこに案内した。
見ると、きれいな四尺の屏風が立てられていて、高麗縁の畳が二、三畳ばかり敷かれていた。
すぐに、袙に袴を付けたこざっぱりとした女が、高坏に食べ物を乗せて持ってきた。
僧は、皆食べ酒なども呑み、手を洗って坐っていると、奥の方から遣戸(ヤリド・引き戸)を開けて、几帳を隔てて女の声で、「あなたはどういうお方ですか。どうしてここにおいでになられたのですか」と尋ねた。
僧は、「私は比叡山から法輪寺に詣でて帰る途中でしたが、日が暮れてしまったのでこのように宿をお借りしています」とその由を答えた。
女は、「いつも法輪寺にお参りになられるのであれば、そのついでに、どうぞお立ち寄り下さい」と言うと、遣戸を閉じて奥に入って行った。

女は遣戸を閉めたが、几帳の袖の所がからまってきちんと閉まらなかった。
やがて、夜が更けた頃、僧は建物の外に出てみたが、南面(ミナミオモテ・寝殿造りの正殿)の蔀(シトミ・上下に分かれている横戸で、下は固定し上は押し上げて開ける。)の前を行きつ戻りつしながら歩いていると、蔀に穴があるのが見えた。
そこから覗いてみると、家の主と思われる女がいた。年の頃二十歳余りに見える。美しい顔をしていて姿もたいそうすばらしい。紫苑色(シオンイロ・表が薄紫で裏が青の襲。)の綾の衣を着て横になっている。髪は衣の裾のあたりで輪になっていて、いかにも長そうである。その前に、女房二人ばかりが几帳の後ろで寝ている。そこから少し離れて、女童が一人寝ている。先ほど、食べ物を持ってきてくれた者らしい。室内の様子はまことにすばらしい。

二段の厨子の棚には、蒔絵の櫛の箱や硯の箱が無造作に置かれている。香炉に空薫(カラダキ・それとなく香を漂わせること。来客の際、隣室で香を薫いたりする。)しているのか、良い香りが漂ってくる。
僧は、この主の女を見ているうちに、すっかり思慮を失ってしまった。
「自分には、どういう宿世があって、この屋敷に泊まり、この女を見つけたのだろう」と嬉しくなって、この思いを遂げなければ、この世に生きている意味がないように思われ、皆が寝静まり、その女も寝入ったと思われる頃、あのうまく閉まっていない遣戸を開けて、そっと忍び足で女に近寄り、傍らに添い臥したが、女はよく寝入っていたので、全く気がつかない。

そば近くによると香の薫りがいっそうすばらしい。
「目を覚ますと声を立てるだろう」と思うと、萎縮しそうになる。ただ、仏を念じ奉って、女の着物を開いてその懐に入ると、女は驚いて目を覚まし、「どなたですか」と言ったので、「こうこう、こういう者です」と僧が答えると、女は、「貴いお方だと思えばこそ、宿をお貸ししたのです。このようなことをなさるとは、残念でなりません」と言った。
僧はなおも近づこうとしたが、女は着物を身にまとい、全く許そうとしなかった。その為、僧は情炎に身も心も堪え難くなったが、人に聞かれると恥ずかしいので、強引な振る舞いもできない。

すると女は、「わたしは、あなたのお言葉に従わないというのではありません。わたしの夫は、去年の春に亡くなりましたので、その後、妻にと言う人がたくさんありましたが、『これといった取り柄のない人とは結ばれまい』と思って、このように独り身でいるのです。そして、むしろ、あなた様のような立派なお坊様のような人を貴ぶようにしているのです。ですから、あなたを拒み申し上げるわけではありませんが、どうなのでしょうか、あなたは法華経をそらんじて読むことができますか。貴いお声でしょうか。そうだとしましたら、『御経を貴んでいる』と他の者には見せかけて、あなたにお近づきいたしますが、いかがでしょうか」と言った。
僧は、「法華経を習い奉ってはおりますが、未だに空では読めません」と答えた。
女は、「それは、そらんじるのが難しいからですか」と尋ねた。
僧は、「その気になれば、空で読み奉ることは出来ないわけではありません。しかし、わが事ながら、遊び戯れることにばかりに身を入れていたので、空で読めないのです」と答えた。
女はそれを聞くと、「速やかにお山に帰って、御経を空で読めるようになってから、またおいでください。その時には、こっそりとあなたのお望み通りにこの身を差し出しましょう」と答えた。
僧はそれを聞くと、それまでの思い詰めていた気持ちも落ちつき、夜も次第に明けてきたので、「それでは」と言って密かに部屋を出た。
女は、朝の食事などさせて送り出した。
        
                  ( 以下 ( 2 ) に続く )

     ☆   ☆   ☆

* 本話は、今昔物語中、屈指の長編です。

     ☆   ☆   ☆

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