『 かねてから私は、「あなたの気持ちはよく分かる」と言って、慰めたり励ましたりするのは、一種の傲慢さから出ているものだと思ってきました。 』
その根拠は、かつて自分が大変辛い状態にあったとき、この種の言葉に対して、「あんたに俺の気持ちが分かるものか」という反感のような気持ちを抱いていた経験からです。この感情は単に私だけでなく、いくつかの本の中でも同じような指摘をしているのを見たことがありますので、人を慰めたり励ましたりする言葉や態度には、繊細な注意が必要なことは確かです。
しかし、時を経て、最近私は、「お前に俺の気持ちなど分かるものか」という心もまた、甘えであり、ある種の傲慢さからきていると思うようになりました。
この悲しみ、この苦しみは誰にも分からないほど大きいものだという思いは、それこそ「よく分かります」が、果たして本当にそうなのでしょうか。自分が受けている悲しみや苦しみは、誰のものよりずば抜けて大きなものなのでしょうか。
私たちは、人の情けを、もう少し謙虚に、もう少し素直に受け取るべきではないでしょうか。たとえ、その言葉や態度に少々の稚拙さがあるとしても、その思いをありがたく頂戴すべきだと思うのです。
( 「小さな小さな物語」第三部 No.126 より )