竜王の悩み ・ 今昔物語 ( 3 - 9 )
今は昔、
多くの竜王は大海の底を棲み処としている。その竜王たちは金翅鳥(コンジチョウ・古代インドの伝説上の巨鳥。もとは邪神であったが仏教に取り込まれて護法神になった。胴体は人間で、火炎状の巨大な黄金の翼を持ち竜類を常食とする。)を恐れていた。また、竜王は無熱池(ムネツチ・雪山{ヒマラヤ山脈}の頂上にあるとされる池。インドの四大河の水源とも。)という池にも棲んでいる。その池では金翅鳥に襲われることがない。大海の底に棲んでいる竜が子を生むと、金翅鳥は羽を以って大海を扇いで干して、竜王の子を取って食糧にした。
そこで竜王は、この事を嘆き悲しんで、仏(釈迦)の御許に参って仏に申し上げた。「我らは金翅鳥のために子を取られ、対抗することが出来ません。何とかしてこの難から逃れたいのです」と。
仏は竜王に告げられた。「竜王よ、比丘(ビク・僧)の着ている袈裟の、綴り合せた一画を取って、生まれた子の上に置くと良い」と。竜王は、仏に教えられたように、袈裟の一部分を取って子の上に置いた。
その後、金翅鳥が襲ってきて、羽を以って大海を乾して竜王の子を捕まえようとしたが、どうしても見当たらない。そのため、金翅鳥はついに竜王の子を捕まえることが出来ないままに帰って行った。
この鳥のことを、迦楼羅鳥(カルラチョウ)ともいう。この鳥の二つの羽の広さは、三百三十六万里(この一里が何mにあたるか分からないが、この数字は、仏典に慣用する巨大さを表現する数値の一つ。)である。されば、その大きさ、勢いは想像されよう。また、袈裟を尊び敬い奉るべきである。袈裟の端切れを上に置いただけで金翅鳥の難を避けることが出来たのである。いわんや、袈裟を着ている比丘は仏のように敬うべきである。たとえ破戒僧といえども、軽んじ侮ってはならない、
となむ語り伝へたるとや。
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今は昔、
多くの竜王は大海の底を棲み処としている。その竜王たちは金翅鳥(コンジチョウ・古代インドの伝説上の巨鳥。もとは邪神であったが仏教に取り込まれて護法神になった。胴体は人間で、火炎状の巨大な黄金の翼を持ち竜類を常食とする。)を恐れていた。また、竜王は無熱池(ムネツチ・雪山{ヒマラヤ山脈}の頂上にあるとされる池。インドの四大河の水源とも。)という池にも棲んでいる。その池では金翅鳥に襲われることがない。大海の底に棲んでいる竜が子を生むと、金翅鳥は羽を以って大海を扇いで干して、竜王の子を取って食糧にした。
そこで竜王は、この事を嘆き悲しんで、仏(釈迦)の御許に参って仏に申し上げた。「我らは金翅鳥のために子を取られ、対抗することが出来ません。何とかしてこの難から逃れたいのです」と。
仏は竜王に告げられた。「竜王よ、比丘(ビク・僧)の着ている袈裟の、綴り合せた一画を取って、生まれた子の上に置くと良い」と。竜王は、仏に教えられたように、袈裟の一部分を取って子の上に置いた。
その後、金翅鳥が襲ってきて、羽を以って大海を乾して竜王の子を捕まえようとしたが、どうしても見当たらない。そのため、金翅鳥はついに竜王の子を捕まえることが出来ないままに帰って行った。
この鳥のことを、迦楼羅鳥(カルラチョウ)ともいう。この鳥の二つの羽の広さは、三百三十六万里(この一里が何mにあたるか分からないが、この数字は、仏典に慣用する巨大さを表現する数値の一つ。)である。されば、その大きさ、勢いは想像されよう。また、袈裟を尊び敬い奉るべきである。袈裟の端切れを上に置いただけで金翅鳥の難を避けることが出来たのである。いわんや、袈裟を着ている比丘は仏のように敬うべきである。たとえ破戒僧といえども、軽んじ侮ってはならない、
となむ語り伝へたるとや。
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