雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

嬉しいことが沢山

2017-06-01 08:38:02 | 麗しの枕草子物語
          麗しの枕草子物語

               嬉しいことが沢山

嬉しいことって、意外に沢山あるものですね。

はじめて見る物語を、一の巻を読んで、続きをぜひ読みたいと思っていたところ、うまく見つけることが出来た時。これはとても嬉しいものです。

「どうなることか」と心配になってしまうほど恐ろしい夢を見た時、大したこともないとうまく説明してくれた時は、とても嬉しい。

高貴な方の御前で、女房が多勢集まっている時、昔の話であれ、最近お耳にされた噂話であれ、お話になられます時に、私と目を見合わせながらお話になられるのを感じた時は、それは嬉しいものですわ。

遠い所はもちろんのこと、同じ都の中であっても、自分にとって大切な人が病気だと聞いて、「どんな様子なのか」と心配ている時に、全快したということを人づてに聞いた時は大変嬉しい。

想う人が、他人から褒められたり、高貴な御方から「出来る男だ」などと仰られるのを聞くのは、自分が褒められるよりずっと嬉しいものですわ。

幾日も幾日も、ひどい症状を患っていたのが、ずっと良くなってきたのは嬉しい。これも、想う人の場合は、自分自身の時より遥かに嬉しいものですねぇ。

中宮さまの御前に、女房たちがぎっしりと坐っているので、あとから参上した私は少し離れた柱のもとに控えていますと、早速お目をとめられて、
「こちらへ」
と仰せ下さいますのは、それはそれは嬉しいものでございます。


(第二百五十八段・嬉しきもの、より)
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